今季も“強さ”を見せ世界選手権3連覇を達成した坂本花織

 3月、カナダ・モントリオールで行われた世界選手権。フリー『Wild is the Wind/Feeling Good』を滑り終えた坂本花織は、感極まった表情で天を仰いだ。

「一昨日のショートでは4位で、本当に焦りとか緊張とかいろいろあったんですけど……それでも今日はいい緊張感の中で一つひとつ集中してできたので、それが結果につながってすごく嬉しいです」

 どんな状況でも勝ち切る強さをみせて果たした、女子シングルでは56年ぶりとなる世界選手権3連覇だった。フィギュアスケートのカテゴリーの中でも最も選手寿命が短い女子シングルで、23歳(当時、現在は24歳)の坂本が達成した偉業の意味は大きい。

 今季の坂本は、国際大会で全勝と安定した戦いぶりをみせた。スロースターターの印象があったが、今季はシーズン前半のGPシリーズから好調で、スケートカナダ(昨年10月)、フィンランド大会(昨年11月)ともに優勝。昨季は5位だったGPファイナル(昨年12月、中国・北京)でも、初優勝を果たした。

 首位に立ったファイナル・ショート後の記者会見で、坂本は「メンタルに関しては、今シーズンは結構序盤から気持ちは上がっていたので、落ち切ることなくファイナルに挑めているなという感じがあって」と語っている。

「去年はファイナルまでは気持ちがどうしても上がり切らなかったり、オリンピックの後で、気持ち的に『次は何に向かって頑張ればいいんだろう』という期間だったので。去年その経験があってすごく悔しい思いをしたので、今年はこうやって明るい気持ちで今までの試合に挑めている。それはやっぱり去年までとは全然違うし、今この状況はすごくいい方向に向かっているなと感じています」

 ファイナルから帰国後に胃腸の不調があり、調子を落として迎えた全日本選手権(昨年12月)でも優勝。世界選手権代表会見では、「今年も全日本で優勝して世界選手権(出場を)決めることができたので、すごく嬉しいです。世界選手権も、パーフェクトな演技で自分らしく滑れたら」と意気込みを語った。

「世界選手権3連覇というのは、今シーズンずっと言ってきた目標。やっぱりどうしても達成したい目標なので。全日本もショートは良かったんですけど、フリーは細かいミスが本当に多かったので、しっかり修正して。世界選手権でベストの、もっといいパフォーマンスができるように頑張ります」

 盤石の態勢で臨んだと思われた世界選手権だったが、ショートではミスが出た。3回転ルッツの着氷が乱れ、軽度のエッジエラーもとられたのだ。4位と出遅れたが、坂本の表情は明るいままだった。

「フリーはこの悔しさをバネに、しっかりシーズン最後いい締めくくりができるように、頑張りたいなと思っています」

 前を向いて臨んだフリー、坂本は大きなミスなく滑り切る。表現面での挑戦だった「ミステリアスな女性」というテーマを、貫禄を漂わせて大人の雰囲気たっぷりに演じた。積んできた練習に支えられた強さを感じさせる演技で、自身の言葉通り充実の今季を締めくくった。

「本当に今シーズン、わりと初戦からいいスタートが切れていたので。このまま世界選手権までいきたいという気持ちでずっと今シーズンやってきて、それが達成できて。一つまた自分も強くなれたんじゃないかなというのを今年感じられたので、すごく来シーズン・再来シーズンに向けて、経験値が上がったかなと思います」

 彼女にしかない強さを磨きつつ、坂本花織は加速していく。(文・沢田聡子)

沢田聡子/1972年、埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、出版社に勤めながら、97年にライターとして活動を始める。2004年からフリー。シンクロナイズドスイミング、アイスホッケー、フィギュアスケート、ヨガ等を取材して雑誌やウェブに寄稿している。「SATOKO’s arena」