青空を見上げるのがつらい。そんな気持ちの方もいらっしゃるかもしれません。でも、抜け出せる日は必ずやってきます

 新年度が始まったと思ったら、もうまもなくゴールデンウイーク。学校に通うお子さんがいるご家庭では、新しい学校や新しい学年に少し慣れてきたころでしょうか。

 はじめまして。「オカンの駆け込み寺」の村上好(むらかみ・よし)と申します。6年ほど前から、「ことば」「食事」「住環境」の視点で不登校のご家庭を支援しています。いま、「慣れてきたころでしょうか」と書きましたが、なかなかなじめず気が重い、というご家庭もあるのではないでしょうか。

 不登校の子どもの数は年々増加の一途を辿り、文部科学省の調査では29万人にものぼるとされています。子どもの数は減り続けているのに、不登校は増えているのです。

 文科省の調査における「不登校」の定義は、「年間30日以上欠席した者のうち、病気や経済的な理由による者を除いたもの」です。30日以上の欠席ではないものの、保健室なら、図書館なら、校長室なら登校できる、といういわゆる「保健室登校」の子どもたちや、「まだら登校」と呼ばれる時々休んでいる子、行き渋りながら、つらいけれどなんとか無理やり通っている子どもたちの数は、カウントされていません。

 さらに、この「29万人」は小中学生だけの数なので、高校生は入っていません。保健室登校、まだら登校の子どもたちや高校生ををカウントすると、学校に行けない子どもたちは29万人の倍以上いるのではないかと言われています。

 みなさんの周りにも1人や2人は、不登校のお子さんがいらっしゃるのではないでしょうか?不登校はもう、「人ごと」でも「うちには関係のない話」でもない、ということです。そしてその原因も、「家庭環境のせい」「親のしつけのせい」だけでは済まされない状況になっています。

 こうした実態をみなさんに知っていただきたいと思い、2022年からは講演活動を始めました。「学校に行きたくないと言われた時にできること」というタイトルで、お話をさせていただいています。

 ふだんは、東京都内にある中高一貫校で生徒の不登校支援員として、思春期の子どもたちのリアルな声を聞き、教室復帰をサポートしたり、コミュニケーションの力をつけるプログラム「ことばキャンプ」を提供するNPO法人JAMネットワークのインストラクターとして、企業や学校、児童養護施設で子どもとのコミュニケーションや自己肯定感などについての講座やワークショップをお届けしたりしています。

学校だけがすべてではない。そう頭ではわかっていても、なかなか気持ちがついていかないんですよね photo iStock.com/FS

 私自身、新卒で旅行会社に就職し、転職後は国際会議の運営会社で働いていました。不登校について人前で話をするようなことになるとは、夢にも思っていませんでした。でも、あることをきっかけに私の人生が変わりはじめました。

 その「あること」とは、私自身の子どもたちの不登校です。私には3人の子どもがいますが、全員に不登校の経験があるのです。

 不登校というと、みなさんはどんなイメージを持っていますか?暗くて、重くて、お先真っ暗……。引きこもってしまって、将来は働くこともできないんじゃないか……。そんなイメージの方も多いのではないでしょうか?

 実際、一番上の息子が高校2年生で不登校になったときの私がそうでした。

 あれは、1学期の終わりごろのことでした。朝、時間になっても息子が起きてこない。「あれ?」と不安に思いつつも起こしに行くと「頭がいたい」というのです。そういう日がだんだんと増えていき、「おなかが痛い」「気持ちが悪い」といろんな不調を訴えます。そして、休んだり、遅刻したり。嫌な予感はだんだん確信に変わっていき、とうとう、まったく学校に行かない状態に……。

「まさかうちの子が?」
「だめだめ、不登校なんてみっともない。絶対に行かせないと!」
「これだけ教育に熱心にやってきたのに、不登校になったなんて恥ずかしい……」

 そんな焦りと恐怖と不安が、私を覆い尽くしました。

 戦争を経験した父に「学校は行くものだ」と育てられた私には、「学校に行かせない」選択肢はありませんでしたが、最初のうちは、「なんとか行かせたい」と思いつつ、心の中でうそだと分かっていた息子の「不調」を「うん、分かった」と受け入れ、学校に欠席の連絡をしていました。

 でも、やがて心配と焦りが心を覆いつくし、抱えきれなくなって、自分の心の叫びを息子にきつい言葉でぶつけるようになりました。「どうせまたうそでしょ」「うそばっかりついてるんじゃないの!」と詰め寄り、時には「もういい!」「知らない!」と言って突っぱねることもありました。考えることがしんどすぎて、自暴自棄になっていたんだと思います。

 そんなある日、「事件」が起こります。いえ、私が「事件」を起こしました。

 毎日毎日、不安と焦りが蓄積されていった私は、息子の寝ている部屋に踏み込んで、「いいかげんにして!学校に行きなさい!」とつかみかかったのです。息子が全く学校行けなくなり、あと少しでいよいよ出席日数が足りなくなるというタイミングでした。突然の行動に、息子は驚いたような表情を浮かべ、最初は私をかわそうとしました。私はもう興奮状態ですから、必死に「ねえ!行きなさいよ!学校に行きなさい!」と叫びながら、息子に向かっていくばかり。息子は冷静な表情になって、興奮してつかみかかってくる私に「落ち着け!」「大丈夫だから落ち着けよ!」と繰り返しました。

 母親を止めようと、必死に冷静さを保とうとする息子の姿を目の当たりにして、私はわれに返りました。何をやっているんだろう、と。息子が不登校になって、取り乱して、世間体を気にして、息子の気持ちというよりも自分が人からどう思われるか、学校の先生にどう思われるか、そればかり気にしていたことに気がついたのです。

 一番しんどいのは息子だ……。初めて、冷静に「わが子の不登校」と向き合えた瞬間でした。

 そこからは、息子に寄り添うと決め、不登校と向き合うようになりました。不登校について調べたり、不登校のイベントに出かけたり。息子を連れて、サラリーマンとは違ういろいろな大人に会いに行き、いろいろな仕事があるんだよということを知ってもらおうと試みたりもしました。

 会ってくれた大人はみんな、「学校行けてないんだね、うん、別にいいんじゃない?」「俺も昔、学校行ってなかったときあったよ」「学校だけが居場所じゃないから大丈夫」と優しく声をかけてくれて、息子も少しずつ元気を取り戻していきました。そして一度は学校に戻れたのですが、結局は続かずに退学。本人の希望で通信制高校に転校し、何とか高校を卒業しました。

 その後、専門学校に入学しましたが、1カ月でまた不登校に……。私はもう、以前のような過ちを繰り返したくなかったので、現実を受け入れて、休学することにしました。しかしこれが、本格的な引きこもり生活の始まりだったのです。

わが家が取り組んだ「ホームスクーリング」。学校に行かないからこそできることだってあるんです

 引きこもり生活については別の回でお話ししますが、半年ほどたったころに若者支援の団体を紹介していただく機会があり、引きこもり改善プログラムに参加した息子は、半年ほどで別人になって戻ってきました。別人というよりも、本来の人懐っこい息子に戻っていたのです。

 小さい頃のチャレンジ精神を取り戻した息子は、英語力ゼロで単身ドイツに出かけ、初の海外旅行で一人旅を満喫し、前向きな人生を手に入れました。現在は、一番向いていないだろうと思っていた会社員として、毎日働いています。

 私自身も、子どもが不登校になったことでコミュニケーションの力をつけるプログラムに出合い、子どもへの声掛けを変えることができました。子どもたちは少しずつですが確実に変わっていきました。

 そんなことから、2番目の子が不登校になった時も、「うん、学校に行けない時期があっても大丈夫だから」「学校に行っていたらできないことをやろう」と前向きにホームスクーリングを楽しみ、平日の博物館に入り浸り、家で壊れた電化製品を捨てる前に分解するなど、さまざまな探究学習に没頭しました。そのおかげか、8カ月後には学校に復帰、さらに自分の好きなことが見つかり、専門学校と通信制高校で勉強を受け、さらに学びを深めたいと動物の看護大学に進学しました。

 3番目の子は、「あのさ、実は私、学校に……」と言った瞬間に、「あ、学校?うん、大丈夫!行かなくても大丈夫!いったん学校のことも、勉強のことも忘れよう!」と次の日から旅に出かけました。子どもが行きたい場所に、子どもが組んだ旅程で旅をし、私はついていくだけ。旅で素晴らしい方々との出会いがあり、2週間ほどの不登校を経て学校に行くようになりました。

 私のこんな経験が、ある学校の先生の目に留まり、声をかけていただいて、現在、学校での不登校支援も6年目を迎えています。

 同じ頃、口コミで不登校の相談を受けるようになり、私の経験がしんどい思いをしているお母さんの役に立つならということで、2019年に「オカンの駆け込み寺」を開設しました。駆け込んでくるお母さんたちの肩の荷を一緒にかついで、少しでも楽になってほしいと思っています。

 もしかすると、いま、学校に行かずにうずくまっているお子さんを前に、すがるような思いで読んでいる方もいるかもしれません。うちの子どもたちがそうだったように、不登校には必ず「出口」があります。そのことだけは、忘れないでください。

 これからしばらくの間、隔週火曜日配信で、不登校との向き合い方について連載していきます。次回は5月7日。「学校に行きたくないと言われたら」というテーマでお話しします。