運転中の伊方原発3号機

 愛媛・高知で珍しく大規模地震が起きた。四国での震度6弱は現在の震度階級になってから初めてのことだ。マグニチュード6.6は四国唯一の原発「伊方原発」をも大きく揺らした。この先も地震は起きる。原発は大丈夫か。伊方をはじめ、日本の原発の多くは、いざ事が起きた時には事故対応や住民避難が困難な立地条件にある。

■逃げ場のない半島

伊方原発。その先に細長い半島が続く

 四国電力の発表によると、伊方原発3号機で発電機の出力が約2%低下した。タービンに送る蒸気の加熱装置のタンクの水位計に不具合があり、発電効率が落ちたことで発電機出力が下がったという。原発周辺の震度は4だった。これが、東日本大震災や阪神・淡路大震災のような規模で起きたらどうなっていたのだろう。

 伊方原発は、全長40キロに及ぶ長い半島、佐田岬半島の付け根部分にある、この半島、長いだけでなく、狭い。最小幅は800メートルしかない。そして原発から半島の突端までには多くの住民が暮らす。

 いざ地震が起きた場合、どのような事態が想定されるのか。まず、多くの住民はマイカーで原発の脇を通って東の方向に避難しようとする。半島を走る国道197号には一気に長い車列が出来ることだろう。反対車線はどうか。こちらも大渋滞が予想される。住民を避難させるためのバスが現地に向かう。さらに事故対応のための車両が外部から応援や補給に向かう。津波の危険があり、海からのアプローチは現実的ではない。これらの輸送は道路を使う以外の方法はないのだ。

 今回の地震で大洲市の197号は落石で一時通行止めになった。半島内で197号が麻痺すれば、もう避難も救援も不可能になる。元旦に起きた能登半島地震や4月3日の台湾の地震後に撮影された空からの映像でも、落石や土砂崩れによる道路の閉鎖が地震につきものであることがわかる。日本原電に在職中、全国の原発を視察して回った。その経験を思い起こせば、日本の原発の半数以上が、崩落防止の擁壁や落石注意の標識がある曲がりくねった一本道の先にある。

能登半島地震の土砂崩れで寸断された国道249号
土砂で通行できなくなった国道249号

 災害発生時の住民はどこも同じで、パニックに陥るのが常。現行の避難ルールでは、緊急事態に、まず原発から5㎞圏内の住民が優先的に避難し、その外側の住人は自宅待機することになっている。しかし隣の地区の住民が避難しているのを見て、家に留まることなど出来るのだろうか。そんなルールがなかった福島第一原発の事故では、かなりの数の住民が原発構内にいた家族、友人知人からの携帯電話やメールによる連絡で、町の防災無線による避難指示が出る数時間前にその地域からマイカーで脱出していた。自治体の策定している避難計画や、国や電力会社の決めている事故拡大防止のための支援体制や支援計画は絵に描いた餅だと言わざるを得ない。

■福島第一原発事故、実はベストコンディション下で起きていた

 地震はいつ、どこで、どんな状況で起きるのか予想がつかない。季節、曜日、時刻はもとより、その日の天候、風向きも千差万別だ。

 こうした点で福島原発事故は、季節は春、平日の昼間、天気も穏やかという環境下で起きた。そして、原発構内には数千人の作業員もいた。事故対応する側としては、ベスト・コンディションで起きたことを忘れてはいけない。真冬だったら、休日だったら、深夜だったら…。一つひとつの条件が悪ければ、さらに悲惨な結果を生んだ可能性がある。

 今年に入って大きな揺れが日本列島で相次いでいる。マグニチュード 7.6の能登半島地震は元旦の16時10分に起きた。北陸電力本社はもとより、役所も民間企業も出勤していたのはごく少数で、被害の実態把握も救助活動も迅速には進められなかった。

 次の大地震などの自然災害がどうくるかは誰にもわからないが、対応については見直しを続けていくしかない。一方、どのようなことが原発の重大事故につながっていくかについて、いまも未解明な部分が存在することを技術者は否定できていない。だから原子力規制委員会の委員長は「安全審査にパスしたからといって安全だということではない」と言っているのだ。

■台湾は舵を切った

 石垣島から約300キロの台湾も4月3日朝に大きな地震に見舞われた。マグニチュード7.7だった。台湾の地震のニュースを見て感じたのは、その対応ぶりが際立っていたことだ。体育館の中に整然と並ぶ家族用テント、栄養が考えられた弁当など。

 新型コロナウィルスの時も台湾は人口が日本の5分の1程度だが、死者の数は2020年5月31日で日本の約400人に対して、わずか7人だった。マスクがどこの薬局にあるかを携帯電話のマップでわかるようにするなどITを駆使した対応ぶりが日本でも評判になった。指導者、官庁職員の優秀さがあってのことだ。日本は東日本大震災以降も幾度となく自然災害による大量の住民の避難を経験しているが、避難場所では雑魚寝とおにぎりの印象が強い。

 台湾も島国で地震国。資源がなく、平地も少なく人口密度が高いなど日本と条件が極めて似ている。原発はどうなっているのか。1970年代以降、第1〜3原発(計6基)が稼働してきたが、福島第一原発事故後に脱原発に舵を切り、第1、2原発を停止、第3原発は2025年に稼働を終える予定だ。原発に代わるものとして洋上風力発電に力を入れており、日本の洋上風力発電の目標と同程度の設備容量を日本の目標年度より5年早い2025年に達成しようとしている。