愛知県立津島高校

 1999年に宮崎県立五ケ瀬中等教育学校が開校して以来、公立中高一貫校は全国41都道府県に広がりました。今まで公立中高一貫校がなかった愛知が、2025年度に4校を開校します。これで公立中高一貫校(連携型を除く)がない県は、富山、岐阜、三重、鳥取、島根の5県になります。新設される愛知の中高一貫校は、どのような学校になるのでしょうか。

 愛知で中学校が開校されるのは県立の明和(名古屋市)、津島(津島市)、半田(半田市)、刈谷(刈谷市)で、4校ともに高校からも募集する併設型になる。現在の県の人口は747万人。東京都、神奈川県、大阪府に次いで多い。なぜこれだけ大きい自治体に、これまで公立中高一貫校がなかったのか。

 その理由を、愛知県教育委員会中高一貫教育室・木全貴治室長はこう話す。

「愛知県は公立王国とも言われ、もともと公立高校の欠員が少ない地域でした。そのため、変革を考える必要はなかったのですが、少子化に伴い、近年は県立高校の欠員が目立つようになりました。2016年度以降、徐々に欠員が増加し、2021年度は2625人に増加。また、現在中学卒業者は7万人ですが、2035年には5万7000人に落ち込むという試算もあります。教育委員会としても危機意識を持ち、県立高校を再編し魅力を打ち出していきたい。その一連の流れで出てきたのが、中高一貫校の設立だったのです」

■公立中高一貫で初めての「音楽コース」

 25年度開校の4校は、「中高一貫教育をやってみたい」と希望し、さらに探究型の学びの土壌があった高校を選んだという。そのため、統一目標を「探究学習重視型」とし、それぞれの学校でそれに準じた教育理念を掲げている。ちなみに、津島高校以外はすべてスーパーサイエンスハイスクール(SSH)だ。

「中高一貫教育なら、高校入試を意識せず、6年間通して探究を深めることができる。生徒や保護者にとって、高校受験がないという選択肢が増えたことは、魅力だと思います」(木全室長)

 明和や刈谷、半田は、岡崎、旭丘などに次ぐ、県内難関公立高校だ。募集人員は上記3校とも普通科80人だが、明和には音楽科があり、中高一貫校でもそれを引き継ぐ形で音楽コースを設け、20人を募集する。音楽コースのある公立中高一貫校は、全国で初めてとなる。

 津島はもともとグローバル教育を標ぼうしており、中高一貫校でも国際探究コースとして、国際バカロレア(IB)のプログラムの導入を目指す。募集人員は同コース80人。通学できる区域は基本的に高校の通学区域に準ずるが、もともと専門コースは学区を設けていないため、津島と、明和の音楽コースは愛知県全域が対象となる。

■適性検査は、受験の過熱を避け全問選択式

 選抜は適性検査と面接の2段階で行う。気になる適性検査は、全問選択方式だ。その理由を、木全室長は次のように話す。

「入学者を選抜するにあたって、受験競争の過熱化や低年齢化が懸念されました。記述を加えると、どうしても通塾して特別な訓練をすることになる。本適性検査は記述式でなくても、選択式で十分に受験生の力を測れる内容とします」

 ちなみに明和の音楽コースは、視唱、聴音、ピアノや声楽などの実技検査がある。

 保護者や小学生児童の期待も高く、昨年の秋に行われた明和の説明会には、合計2546人が参加した。

「それぞれの高校では中高一貫校になることを、学校を改革するチャンスと前向きに捉えており、期待していただいていいと思います」(木全室長)

 26年度は第2次導入として、豊田西、西尾、時習館、日進、美和、衣台、愛知総合工科の7校が開校する。美和と衣台は連携型で、残り5校は併設型。豊田西と西尾、時習館は25年度の4校に引き続き探究型を、愛知総合工科は高度ものづくり、残り3校は地域の教育ニーズに対応した教育を目指す。

■私立は危機感を感じつつ、中学受験掘り起こしの期待も

 迎える私立は、公立中高一貫校の開校をどのように捉えているのか。日能研東海(名古屋市)企画情報部長の藤原康弘さんは次のように話す。

「明和や刈谷は注目度が高く、おそらく高い倍率になるでしょう。しかも選択問題だけなので、上位層だけでなく中間層も取り組みやすいと感じるはずです。サンプル問題を見ましたが、当塾生なら対応できるレベルと感じました。私立に向けて勉強している生徒なら、負担も少なく受検可能です。私立は上位から下位までが競合すると考えていい」

 24年度は、津島市に隣接する愛西市に私立・清林館中高が開校した。津島同様、グローバル教育をうたっており、競合が予測される。今まで私立中学がなく中学受験と無縁の地域だったが、一気に中学受験が広がりそうだ。

「公立の1次、2次試験日程の1月11日、18日は愛知の一部、あるいは岐阜、三重の入試日とかぶるので、同日を避ける私立も多いと思われます。入試日程が変わると難易度も変わってくる可能生が高い」(藤原さん)

 さらに 今まで私立中学がなかった三河地区に25年度に刈谷が、26年度には豊田西・西尾・時習館が開校するため、中学受験地図も塗り替えられそうだ。ただし、公立中高一貫校の定員は80人。今まで受験を考えなかった層の参入も予想され、志望する児童が私立に目を向ける可能生も高い。中学受験の掘り起こしにもつながり、私立は「危機感を持ちつつ期待感もある」(藤原さん)という。

(文/柿崎明子)