春の園遊会での天皇、皇后両陛下=2024年4月23日、東京・元赤坂の赤坂御苑、松永卓也撮影(朝日新聞出版/JMPA)

 東京・赤坂御苑で23日に開催された春の園遊会では、現在美術家の横尾忠則さんと天皇、皇后両陛下のあいだで「猫談義」に花が咲いた。そこには、雅子さまのきめ細かな準備があったようだ。その心配りにマナーのプロは「さすが雅子さま」と感嘆する。

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「お便りとご本をありがとうございました」

 招待客の列に並ぶ横尾氏の前に立った天皇陛下は、開口一番、お礼を述べられた。横尾氏が亡き飼い猫「タマ」を描いた画集『タマ、帰っておいで』についてだった。

春の園遊会で、現代美術家の横尾忠則さんと写真を見ながら話す天皇、皇后両陛下=2024年4月23日、東京・元赤坂、JMPA

 かたわらの雅子さまもお礼をのべたあと、「猫を飼っていて……」とクラッチバッグから写真を取り出し、横尾氏に話し始めた。

「ここで生まれて」と視線で赤坂御苑を示し、「このときは野良だったんですけど、いまはこんなに」と写真を1枚、そしてまた別の写真を示して「これは4匹の子どもたち」、さらにまた別の写真を見せて「野良猫だったんですけど、うちで保護しまして」と、話を続けられた。雅子さまの手元には5〜6枚ほどの写真があったようだ。

「こんな写真を見せていただけると思っていなかったので」

 横尾氏が恐縮していると、陛下は「ご本をいただいたので」と優しく語りかけられた。

 それでも横尾氏は「あんまりおふたりを独り占めしては申し訳ないですから」とさらに恐縮したが、陛下と雅子さまとの会話のキャッチボールが続いた。
 

「猫談義」で思い出されるのが、昨年11月に開催された秋の園遊会。雅子さまと言葉を交わしたのは、「ひふみん」こと将棋棋士の加藤一二三さんだ。

 雅子さまから、最近の活動について聞かれた加藤さんは、「ときどき、大学とか高校で講演をしておりまして。将棋の話とか、好きな音楽の話とか、ときどき動物の話もします」と話した。

「動物」に反応した雅子さまが「動物は何がお好きなんですか?」と尋ねられ、加藤さんが「猫です!」と答えると、雅子さまも「猫ちゃん!」と声を弾ませた。

 そこから猫談義が大いに盛り上がったのだった。

■雅子さまの相手を思いやる心

 園遊会の招待客のため、あらかじめ写真を用意していた雅子さまに、大手企業のマナーコンサルティングやNHK大河ドラマ「龍馬伝」、NHKドラマ「岸辺露伴は動かない」シリーズの「富豪村」や「密漁海岸」(来月放送予定)、映画、CMなどでのマナー指導も手掛けるマナーコンサルタントの西出ひろ子氏は感嘆する。

「雅子さまは、どのような方が園遊会の招待者にいらっしゃるのかを事前に確認なさっていらっしゃいますね。その上で、お目にかかったときに会話が弾むような情報をキャッチなさり、さらにそれをどのような形で伝えると、相手に喜んでいただけるかということまで考えて事前の準備をなさっていらっしゃいます。

 常日頃、私は企業の研修などで申し上げていますが、マナーの基本は、相手の立場に立ち、相手を思いやる心が大切。雅子さまが園遊会の事前準備をするのは当然と言えば当然のことかもしれませんが、相手の立場に立って準備をなさっている点が、さすが雅子さま!とあらためて感じ、素敵だなと思いました」
 

 ニュースなどの映像ではわかりにくいが、横尾氏は集音器のようなものを手に握っていた。横尾氏は以前、自身の強度の難聴について、こう告白している。

「五感のひとつである聴覚を喪失してしまったことは人生における最大の危機感でもあります。音の理解を遮断された生活はハタ目からは全く理解されません」(「週刊朝日」2023年4月7日号・連載「シン・老人のナイショ話」より抜粋)

 そのため、実は会話が億劫なことも。

「唯一の会話手段のワイヤレスイヤホンも最近はかなり聞きとりにくくなってきています。家族やスタッフとの会話は次第に筆談によることが多くなってきました」(同・抜粋)とも吐露している。

 雅子さまの猫の写真は、そこもふまえて準備していたものだったのかもしれない。そんな周到な準備は「私たちにも伝わってくる」と西出氏は話す。

春の園遊会で俳優の北大路欣也さんと話す天皇、皇后両陛下=2024年4月23日、東京・元赤坂、松永卓也撮影(朝日新聞出版/JMPA)

「写真という準備だけでなく、北大路欣也さんとの会話では、愛子さまと北大路さんとが初めて会った日のことを話すなかで、雅子さまは愛子さまと『昨晩、その話をしていました』と伝えていらっしゃいました。前日の夜までにしっかりと次の日の準備をなさっていらしたことがうかがえます。とても大切な気配りのひとつです。

 これは北大路さんの立場に立てば、恐縮ながらも大変光栄なこととであり、感謝の気持ちをさらに抱かれたことと思われます。マナーという気配りの思いやりの心は、互いにプラスをもたらすものだということもこの場面を見て感じました。前日までにしっかりと次の日の準備されていることがうかがえます。とても大切な気配りのひとつですよね。

 招待者の皆さんには園遊会にせっかく来ていただいたのだから、話しやすく、話したことが記憶に残る日にしてほしいという天皇、皇后両陛下の思いが私たちにも伝わり、そのお気持ちに心からありがたいと感謝いたします。本当に素敵な天皇、皇后両陛下でいらっしゃいます」
 

■横尾忠則氏は翌日、喜びを発信

 

 横尾氏は園遊会後に体調不良を訴えて、報道各社の取材は受けなかったが、翌24日に自身のX(旧ツイッター)で、こうつぶやいている。

「雅子さまはわざわざ猫の写真を沢山ご持参されて、それを見せていただき、しばらく猫談議が続きました。」

「愛子さまも猫がお好きで、猫は隣の部屋で飼っているとおっしゃいました。タマの本のタマの人生ですねと「タマ、帰っておいで」を読んで下さっていました。」

園遊会デビューされた天皇、皇后両陛下の長女愛子さま。淡いピンクの装いに晴れやかな笑顔が弾けていた=2024年4月23日、東京・元赤坂の赤坂御苑、JMPA

 大切にしている猫の話だったからというわけではなく、園遊会での天皇陛下と雅子さまのお姿や会話は見ていると心が和やかになる。西出氏もこう指摘する。

「みなさま本当に自然な柔らかい表情で、本当に自然とにこやかでいらっしゃいましたね。その報道を見て、こちらも和み、癒されました」

 今回の園遊会は、愛子さまの「デビュー」が話題になったが、こうした雅子さまの気持ちのこもった事前準備によって和やかなものになったのかもしれない。

(AERA dot.編集部・太田裕子)