粗品が投げかけた「YouTuberはおもんない」に千鳥のふたりは

 4月12日放送の『酒のツマミになる話』(フジテレビ系)で霜降り明星の粗品が「YouTuber、おもんないっすよね?」と発言したことが話題になっていた。彼はYouTuberという職業そのものは尊重しながらも、笑えるかどうかで言えば笑えないという持論を述べた上で、MCの千鳥をはじめとする共演者たちに意見を求めていた。

 YouTuberは面白いのかどうか。これまでに何度も論じられてきた古くて新しい問題である。全く面白くないと考えている人がいる一方で、面白いと思っている人もいる。そもそもこのテーマ自体が古いという見方もある。

 人によって大きく考えが分かれる話題だからこそ、議論としては盛り上がりやすい。粗品の主張に対して、自身のチャンネル内で反論するYouTuberも続々と現れた。

 YouTuberという存在が初めて世の中に知られるようになった頃、テレビ業界やお笑い業界の人々の多くは、それを冷ややかな目で見ていた。その頃からYouTubeを積極的に活用している芸人やタレントもごく一部に存在はしていたが、ほとんどの人は関心を持っていなかった。

 芸能事務所に所属していない一般人が、YouTubeの世界で成功して巨額の収入を得ているらしい、ということが噂されるようになると、テレビでも一種の成り上がり者として紹介されたりしたこともあった。

■多くのYouTuberは消えていった

 その後、芸能事務所に所属するタレントのように、テレビやラジオに進出するYouTuberも現れた。だが、その大半は持ち味を上手く出せないまま、メディアの世界から静かに退場していった。

 唯一生き残ったYouTuberと言えば、YouTuber芸人のフワちゃんである。ただ、彼女はもともと芸能事務所に所属していた芸人であり、セミプロのような存在だった。芸能界の基本的な作法をわきまえている存在だったからこそ、テレビにもそれなりに適応できた、というのが実情だろう。

 YouTuberが新しい時代を作る存在としてもてはやされるようなムードはなくなっている。芸能人の参入も増えてきて、YouTubeの世界も芸能界並みの激しい生存競争が繰り広げられる場になった。

  一方で、YouTuberと呼ばれる人はそれぞれのペースで活動を続けていて、一定のファンを獲得している。YouTuberは滅びたわけではなく、一つの文化として定着したことで、そこに関心のない人にとっては目立たない存在になった。

■先輩・千鳥の意見を引き出したかった?

 そんな状況下で、粗品が今さら「YouTuberおもんない」という発言をしたのは、先輩芸人である千鳥の2人からこの問題に対する意見を引き出したかった、という意味が大きいのではないか。

 千鳥のようにある程度の地位まで上り詰めているトップ層の芸人は、今さらYouTuberを頭ごなしに否定するようなうかつな発言をすることはない。そのため、真正面からこの問題について個人的な意見を発する機会もほとんどなかった。

 答えを渋って逃げを打つ千鳥の2人に粗品が詰め寄ると、彼らは観念したように言葉を絞り出した。

 ノブは、面白いからと人に勧められてパルクールに挑戦する人のYouTube動画を見たが、危ないだけで面白くはなかった、と話していた。でも、その手のYouTuberよりも、自分の後輩芸人である大西ライオンのYouTubeチャンネルが一番面白くない、と付け加えていた。

 一方の大悟は、息子が面白いと言っていたYouTuberの動画を見て、息子に対して「おもんない、こんなもん、笑うな」「こんなもん、パパになれんかったやつらの集まりや」と言ったという。これを聞いた粗品は立ち上がって両手を上げて歓喜していた。でも、大悟は自分が見た動画が面白くないと思っただけであり、YouTuber全員を否定するつもりはない、と付け加えていた。

 さらに大悟は、芸人とYouTuberの違いとして、芸人は自分を見に来ているわけではない観客の前でネタを披露しないといけないこともあるため、YouTuberとは戦い方が違う、という指摘もしていた。ネット上の反応を見ていても、彼の意見に納得する声が多かった。

 ただ、蛇足を承知で付け加えるなら、どんな人気YouTuberも最初からファンに囲まれていたわけではない。無名の状態から見知らぬ人に動画を見てもらって、そこで楽しませることができるかどうかという勝負を繰り返して、少しずつ支持者を増やしてきた。この意味では、YouTuberも芸人も一種の人気商売、客商売であり、そこまで本質は変わらないとも言える。

■大悟の主張が多くの人に刺さったワケ

 そうであるにもかかわらず、大悟の主張が多くの人に刺さった理由は、彼の言葉に芸人としてのプライドが感じられたからではないか。「パパになれんかったやつらの集まりや」という強い表現にはそれがにじみ出ていた。

 もちろん、YouTuberにはYouTuberのプライドがあるだろうし、そういう人たちが頭ごなしに「YouTuberおもんない」と言われて反発を感じるのは無理もない。そして、「芸人が今さらYouTuberを批判するなんて」という意見もまっとうなものである。

 ただ、粗品が千鳥の2人の本音を引き出すためにあえて暴論をぶつけて、千鳥もそれをわかっていて粗品がセッティングしたリングにわざわざ上がったのだと考えると、そのやり取り自体をショーとして成立させるようとする彼らの技術に感服するしかない。

 芸人にもYouTuberにも、面白い人もいれば面白くない人もいる。ただ、こんな使い古されたありきたりなテーマでも、ありきたりではない興味深い答えを返してみせる千鳥は、やっぱり文句なしに面白い。(お笑い評論家・ラリー遠田)