春の園遊会での天皇、皇后両陛下=2024年4月23日、東京・元赤坂の赤坂御苑、松永卓也撮影(朝日新聞出版/JMPA)

 テレ東BIZの「皇室ちょっといい話」をお気に入り登録している。「音声がない皇室映像。宮内庁担当記者がどんなやり取りがあったか解説・再現する」がコンセプトで、取材映像をそのまま見せてくれるからだ。天皇、皇后両陛下が主催し、4月23日に開かれた春の園遊会の様子も「皇室ちょっといい話」(145)で見た。

 雅楽の生演奏を背景に赤坂御苑の藤棚の映像から始まり、両陛下を待つ招待客はまず国会議員、次が役人・政府関係者が並ぶと教えてくれる。「さてこの後、俳優の北大路欣也さんから始まる5人はマイクが付いていて、クリアに音声が聞こえます」とアナウンサーの声。そこでのやりとりは後述するとして、その映像の後は両陛下を映す無音の映像になる。

「初参列の愛子さまがよく見えません」とアナウンサーの声が入る。「愛子さま専用のカメラ」に切り替えると宮内庁担当記者。切り替わって愛子さま、その後ろを歩く佳子さまがぐっと近くなった。でも声は聞こえない。宮内庁が音声収録を認めた場所が限定的だからだと記者が語り、「どんな会話があったか、知りたかったです」とアナウンサーが反応する。

 愛子さまの「初参列」に注目が集まっているのだから、やりとりを一部だけでもオープンにすればいいのに。と、誰もが思うはず。そうはさせない宮内庁への不満をきちんと伝えるテレ東BIZ。パソコン越しに小さく拍手する。ここで「皇室ちょっといい話」の魅力の一端を。ある無音のところで、これから来る皇族方をスマホで撮影しようとしている男性が映った。彼のスマホがばっちり映り、画面には「さくら色コーデ」とメディアが伝えた愛子さま。そうですよね、大人気の愛子さま、撮りたいですよね。生の映像ゆえ、本音みたいなものが映る。

 という話はさておき、「マイクが付いていて、クリアに音声が聞こえ」る5人とのやりとりの話をする。トップバッターの北大路欣也さんは、2009年に公開された映画「HACHI 約束の犬」を話題にした。「ハチ公物語」のリメイク映画で、北大路さんは主演のリチャード・ギアの吹き替えを担当、「親子チャリティー試写会」で両陛下(当時は皇太子ご夫妻)と愛子さまと一緒に見たという。

春の園遊会に招待された北大路欣也さん=2024年4月23日、東京・元赤坂の赤坂御苑、松永卓也撮影(朝日新聞出版/JMPA)

「今日は愛子さまにもその話をさせていただこうかと。覚えていらっしゃるかな」と語る北大路さんに対し、「もう懐かしく、昨日もその話をして。大好きでございます」と雅子さま。愛子さまの卒業と就職も祝った北大路さんには、「仕事ではとても良い方に囲まれて、とても楽しく、先輩方が優しく楽しく教えてくださって」と雅子さま。

 一区切りついたところで陛下が、「北大路さん、ドラマで『おおヒバリ!』ってありましたですねえ」と発言、北大路さんが「えっ、ご覧になった」と驚いていた。調べると1977年からTBS系列で放送された学園ドラマだった。園遊会では皇族方が出席者の情報を事前に調べ、覚えるのだと聞く。が、「おおヒバリ!」は「調べました」ではなく陛下の「話したいです」という感じが伝わってきた。きっと高校時代、すごく楽しみにしていたドラマだったんだろうなと頬が緩む。

 3人目、美術家の横尾忠則さんは2023年に文化功労者に選ばれている。「この前お会いして、大変うれしく感じました」と、その話から始めた。陛下が「ご本をありがとうございました」と応えると、雅子さまが「お便りとご本、ありがとうございます」と続けた。どうやら横尾さんは最近、愛猫を描いた画集『タマ、帰っておいで』をお二人に送ったようだ。「あの猫はもう死にまして、今はおでんっていう猫がいるんです」と横尾さん。そこから画集の話が続く。横尾さんはお二人の声が聞きづらそうで、「耳のほうが不十分で、集音器を用意したんですけど」と申し訳なさそうだ。

 雅子さまが身を乗り出し、それまでの人よりずっと大きな声で語りかける。それだけでなく、写真を取り出し横尾さんに見せた。猫が写っているようで、野良だった猫を飼い始めたのが「12年ほど前、愛子が3年生くらいの時に」と説明する雅子さま。横尾さんが「これ、昔いたタマによく似ています。こんな感じの猫で」と言うと、「わたくしも絵を拝見して、もしかしたらちょっと似ているかしらと思って」と雅子さま。横尾さんの耳がよくないことを以前に会って知っていたお二人が、会話をスムーズにするために写真を用意したのだろう。

春の園遊会での愛子さま=2024年4月23日、東京・元赤坂の赤坂御苑、松永卓也撮影(朝日新聞出版/JMPA)

 横尾さんは緊張しているというか、耳がよくないことに恐縮しているように見えた。でも最後のほうには、「今日はこんなお写真見せていただけると思ってなかった。大変うれしく思いました。今日は猫談議ですね」と安心したように語った。そこで終わりにしてもよい流れだったが、お二人は横尾さんが5歳の時に描いた絵、描き続けているY字路の絵と話題を振っていた。横尾さんも感動したに違いないと、こちらまで感動する。

 というわけで、宮内庁はもっとどんどんお二人の「音声」を公開すべきだと思う。「皇室ちょっといい話」(144)は、お二人の2度目の能登半島地震被災地訪問を取り上げていた。石川県穴水町の避難所では、お二人が腰をかがめて避難者に語りかけている様子が映った。そこで「ここはなかなかやりとりが聞き取りづらかったです」と担当記者の解説が入る。地元消防団長や医療関係者をねぎらう場面では、雅子さまが涙をこらえているようだったりぱっと笑みを浮かべたりという感情の移り変わりが見てとれた。が、やりとりはほとんどわからない。音声を拾うにはマイクが必要で、そういう場面にはそぐわないという判断かもしれないが、何か方法がないだろうか。具体に勝る決め手はないことは、園遊会が示しているのだから。

 という広報のあり方への提言で終わってもいいのだが、少し続ける。園遊会では両陛下の優しさを感じると同時に、「天皇家も普通の家なのだ」という当たり前のことも思った。北大路さんとのやりとりから、前日に映画「HACHI」の思い出を語り合うお二人と愛子さまの様子が浮かんだ。横尾さんとのやりとりでは、最初に飼った元野良猫が4匹の子猫を産んだと雅子さまが語っていた。「この子が子どもの1頭で、あとの3頭は愛子のお友達に差し上げて」という雅子さまの声に、愛子さまの楽しい学校生活も浮かぶ。家に帰り、愛子さまは「もらってくれる友人が見つかった」と元気に報告したに違いない。

春の園遊会での愛子さま=2024年4月23日、東京・元赤坂の赤坂御苑、松永卓也撮影(朝日新聞出版/JMPA)

 なんてハッピーなご一家だろう――で終わらないところがつらいところだ。なぜかというなら、皇室のもっと大きな問題がある。ハッピーが増すと、余計にそのことに目をつぶっているという思いが募る。例えば園遊会の4日前(4月19日)、自民党が安定的な皇位継承の確保に関する懇談会を開いた。政府の有識者会議が2021年末にまとめた皇族数の確保策、「女性皇族が結婚後も皇族の身分を保持する」「旧宮家の男系男子が養子として皇族復帰する」の2案を「妥当」とした。そのうえで最終的な対応は、懇談会の会長である麻生太郎副総裁に一任することでまとまった――そう報じられていた。

 これ、なかなかつらい報道だと思う。有識者会議から2年以上経ち、今頃やっと「妥当」というゆっくりさ加減。そもそも「皇室における人手不足対策」という設定が、天皇制の最大の危機から目をそらすためのように思える。皇室の次代を担う男性が悠仁さまだけという現実がある。それを「熟慮」した2年超でなく、「放置」の2年超だったのではないか。そう思ってしまう。

 天皇制は憲法に定められた制度ではあるが、構成する一人ひとりは普通に「家庭」に暮らす生身の人間だ。そのことを春の園遊会で目の当たりにしているから、ますますつらさが増す。愛子さまは「皇族の身分を保持」される女性皇族としてこれから生きていく。仮にそうだとして、「男系男子」でつなぐ天皇制にあって「男系女子」が結婚しても生涯「皇族の身分」でいることは幸せなのか。生身の人間が構成する制度がどうあるべきか。そこが一顧だにされていない気がして、つらい。

 園遊会の4日後(4月27日)、共同通信社が皇室に関する世論調査の結果を公表した。天皇陛下の即位5年を前にした全国郵送調査で、皇位継承の安定性について「危機感を感じる」が「ある程度」を含め72%に上ったという。女性天皇を認めることは計90%が賛同したそうで、賛成の理由は「天皇の役割に男女は関係ない」が最も多く50%、反対理由は「男性が皇位を継承するのが日本の文化にかなっている」が45%で最多だという。

 こういうところを考えてほしいんですけど、自民党、っていうか麻生さん。と呼びかけても届かない。そんな気がしてしまい、つらい。

(コラムニスト・矢部万紀子)