自動車トラブルや事故が起こると人は動転しがちだ。悪質なロードサービスによるトラブルが増えている(写真はイメージです/gettyimages)

 車のロードサービスをめぐるトラブルが急増している。昨年度、全国の消費生活センターなどに寄せられた相談件数は過去最多となった。なかでも目立つのが、若者がトラブルに巻き込まれるケースだ。

*   *   *

■「1980円から」のハズなのに

「『バッテリー上がりは1980円から』と書かれていたのに、5万円を請求された」「断ろうとしたら、高額のキャンセル料を提示された」――。悪質ロードサービスをめぐる相談が相次いでいる。

 外出先で車のバッテリーが上がってしまった首都圏在住の20代男性は、スマホでロードサービスを検索。「1980円からバッテリートラブルに駆けつけいたします」というサイトを見つけ、申し込んだ。

 だが、業者はやって来るなり、金額欄が空欄の契約書を男性に手渡した。説明もなく、書類に「レ点」を入れて同意するように迫った。男性は「そんなものか」と思い、言われるまま従った。業者は救援車から電気を供給する“ジャンピングスタート”でエンジンを始動。バッテリー交換は行われなかった。

 にもかかわらず、提示された金額は総額5万円。請求書には基本料金1980円に加え、緊急対応の費用や作業費などが記載されていた。男性は「高い」と思ったが、車は動くようになったので何も言えず、クレジットカードで支払った。帰宅して親に相談すると、やはり「高すぎる」という。男性は業者に返金を求めている。

 日本自動車連盟(JAF)によると、最も多いロードサービスの依頼は「バッテリー上がり」で、全体の約4割を占める(2022年度)。次に多いトラブルは「タイヤのパンク」だ。

■タイヤのパンク「作業キャンセル」でも22万円

 運転中にタイヤがパンクしてしまったという東海地方に住む20代男性のケースは、請求額はさらに高い。近くのコンビニの駐車場に車を移動し、スマホで「タイヤのパンク」を検索。「格安料金で修理します」という業者を見つけ、修理を依頼した。

 ところが、現場に到着した業者は「修理には20万円以上かかる」と言う。びっくり仰天し、「話が違う。キャンセルしたい」と告げた。

 すると業者は「キャンセル料として15万円いただきます」と言う。そんな金額は不当だと男性は訴えたが、業者は「キャンセル料を支払うまでは帰らない」と強硬な態度を見せた。

 結局、男性はキャンセル料15万円のほか、料金を支払うまでに要した時間の加算として延長料金7万円、合計22万円を支払った。

■「勤め先や親に言うぞ」

 業者があからさまに顧客を脅したり、虚偽の説明をしたりするケースもある。

 首都圏に住む10代の社会人男性はドライブ中、車がエンストしてしまった。車を路肩に止めて、ネットで検索、「最短5分で駆けつけます。料金は2万円から」という業者を見つけて依頼した。

 

レッカー車で移動される軽自動車。いま、レッカー移動で高額な支払いを要求する悪質なロードサービスが増えている

 ところが業者は男性の車を修理工場にレッカー移動し、13万円の支払いを要求。その際、契約書や請求書は渡されなかった。

 男性が「手持ちは4万円しかない」と伝えると、「残りの9万円は後で振り込むよう」指示され、個人名義の銀行口座を教えられた。さらに、勤め先や親の連絡先を教えるよう強要された。

 その後、業者からSNSで、「残金を支払わなければ、勤め先や親に言うぞ」というメッセージが送られてきた。怖くなった男性は地元の消費生活センターに相談した。

 また、レッカー移動の距離が数キロにもかかわらず、15万円の費用を請求されたケースもある。業者からは「加入している自動車保険会社に請求すれば、全額支払われる」と説明をされたが、実際に保険会社から支払われたのは3万円ほど。説明は虚偽だったのだ。

 日本損害保険協会は、ロードサービス業者との料金トラブルが多発しているとして、会員会社のロードサービス窓口一覧をホームページに掲載している。

■パニック心理を巧みに利用

 国民生活センターによると、「インターネットで依頼したロードサービス」に関する全国の相談件数は20年度までは年間100件以下だった。ところが、21年度は231件、22年度は773件、23年度は860件と、ここ数年で被害は急増している。

レッカー車で運ばれる事故車両
「悪質なロードサービスは『水まわり修理』の料金トラブルと構造が同じ」と語る東京都消費生活総合センターの高村淳子相談課長=米倉昭仁撮影

 トラブルにあった当事者の多くは若者で、20代が約36%、30代が約23%と、20〜30代で半数以上を占める。平均被害額は約8万8000円だ。(13年度〜23年度5月)

 東京都消費生活総合センター相談課長の高村淳子さんによると、悪質なロードサービスは「日常のトラブルを安価で解決する」と宣伝しながら、実際は高額の代金を請求する「レスキュー商法」の一つだという。

■レスキュー商法「水まわり修理」との類似点

 高村さんは、典型的なレスキュー商法の「水まわり修理」との類似点を指摘する。

 4年前、コロナ禍で自宅でのリモートワークが増えたころから、トイレの不具合で呼んだ業者に高額な修理費用を請求されたという相談が激増。全国の消費生活センターは注意喚起を行った。水まわり修理の被害が減り始めた2年ほど前から入れ替わるように急増したのが、「格安」を強調するロードサービスだという。

「緊急事態に直面してパニック状態になった消費者の心理を巧みに使って顧客を募る手口は両者全く一緒です」と、高村さんは言う。

 車のトラブルの場合、ドライバーが加入している自動車保険の付帯サービスを使えば、さまざまなロードサービスが無料で受けられる。

 だが、困りごとに対してスマホで解決方法を調べる習慣が身についていると、車のトラブルが起こった場合もそうしてしまう。気が動転していて、自動車保険やJAFが思い浮かばない。その傾向が若者ほど顕著のようだ。

■JAFだと思ったのに、JAFじゃなかった

 悪質業者は、「タイヤ パンク」などのワードで検索すると、上位に表示される「リスティング広告」と呼ばれる手法を駆使している。実際、車のトラブルで「JAF」を検索すると、JAFではない業者が表示されることがある。JAFだと思って依頼したところ、高額の料金を請求された、という苦情がJAFに寄せられている。

 水まわり修理と同様、ロードサービスも特別な資格なしに事業を始められることも似ているという。

東京・飯田橋にある東京都消費生活総合センター=米倉昭仁撮影

 ただし、水まわり修理であれば「高圧洗浄機」、ロードサービスであれば「レッカー車」が必要だ。こうした高額な装備は組織的に請け負っている事業者が所有。個人事業者などが共用し、高額な請求金額で作業を行っていると、高村さんは推測する。

「ロードサービスの広告主と、現場にやって来る事業者は別なんです。トラブルを起こす事業者の多くは店舗を持たない『流しのロードサービス』です」

 レッカー車は事業者の拠点とは全く別の場所に置かれている可能性がある。そのため、請求書に書かれた所在地が現場と近くても数十キロぶんの「レッカー車出動費」が請求されることも珍しくない。もちろん、その金額そのものが架空請求の可能性もあるという。

 トラブルになった際、地元の消費生活センターに相談すれば、解決の糸口を助言してくれる。だが、業者が返金に応じてくれるかは「一概に言えない」という。

■JAFは非会員のトラブルにも対応

 では、どうすればトラブルを避けられるのか。

 車を運転すれば「自分のミスでなくてもトラブルが発生する可能性があることを認識しておくことが大切だ」と、高村さんはいう。

「その際、どこに連絡したらよいかを知っておく。ほとんどのドライバーは任意保険に加入しています。事故や車のトラブルの際に連絡するフリーダイヤルがあるので、その電話番号を携帯するか、車内の取り出しやすい場所に置いておくことです」

 実はJAFは非会員の車のトラブルにも有料で対応している。バッテリー上がりは2万1700円、パンクは2万5630円。悪質なロードサービスよりもずっと安く、何より安心だ。

 記者は、この記事に書いたすべての車のトラブルを経験した。気が動転してしまい、保険会社に電話することがすぐに思い浮かばなかったこともある。だからこそ、「とにかく、慌てすぎないことが一番大切です」という高村さんの言葉が身に染みた。

(AERA dot.編集部・米倉昭仁)