お笑いコンビ「ウエストランド」の河本太(40)が酒に酔って起こした暴行騒動の余波がいまだ収まらない。所属事務所社長の太田光代氏はスポーツ紙の取材に「そもそも(酒に)弱くて、ビールとかジョッキで3杯ぐらい飲むと、そのあと流し込むようにグイグイ飲んじゃう」と河本の酒の飲み方にも言及したが、この騒動を契機に「ビンジドリンキング」という危険な飲み方に焦点が当たっている。聞きなれない言葉だが、どのような飲み方で、どのような危険性があるのか。専門医に聞いた。
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報道によると、4月20日夜に河本は友人と酒を飲んで帰宅する際、タクシーに乗車拒否されたと勘違いし、車体を蹴った。その後、運転手とケンカになり、自分自身が前歯を折ったとされている。
河本は4月30日深夜にラジオ番組で生謝罪。騒動後は酒を飲んでいないことを明かし、今後の禁酒も示唆した。
その河本が起こした騒動について、薬物依存の過去があり、依存症の予防や啓発活動を続けている俳優の高知東生が「X」(旧ツイッター)で言及。その中で高知は「芸人さんの飲酒事件を知り、伝えたいことは、ビンジドリンクって飲み方があること」とし、こう訴えた。
「これは毎日は飲まなくても、飲む時にはとことん飲んでしまうという危険な飲み方。ビンジドリンクは事件や事故につながりやすいんだよな。この飲酒習慣が思い当たる人は、依存症じゃなくても禁酒した方がいいらしいゾ」
■反社会的な行動を誘発
厚労省によると、ビンジドリンキングとは「イッキ飲みなど短時間に大量のお酒を飲むこと」を指し、「一度に純アルコール60g以上の飲酒」としている。どれくらいが「短時間」なのかは示されていないが、純アルコール60グラムの目安は、ビールなら中瓶3本、日本酒は3合、ウイスキーはダブルで3杯となる。
2023年末の忘年会シーズンにはビンジドリンキングを控えるよう、同省は注意喚起を出した。
これまでの情報では、河本の飲み方が「ビンジドリンキング」に当てはまるかは判断できない。ただ、若い世代で友人らと勢いよく酒を飲んだり、普段はさほど飲んでいなくても、歓送迎会や忘年会では、とことん飲むという人は少なくないだろう。
アルコール依存症の専門外来「さくらの木クリニック 秋葉原」院長の倉持穣医師は、ビンジドリンキングについて「簡単に言えば、短い時間で無茶な飲み方をしてしまうことです」と説明する。
例えば、同じ酒好きでも、自宅で酒を飲む人は、量が多くてもゆっくり飲む。悪く言えば、だらだらと飲むのでビンジドリンキングにはならないかもしれない。逆に、店などで仲間とワイワイ飲むのが好きな人がビンジドリンキングに陥りやすい傾向があるという。
「楽しい飲み会が好きで、飲むとハメを外して調子に乗ってしまう人や、仕事のストレスなどで鬱屈した気持ちを抱えている人。お酒の適量を知らない若い世代や、体が衰えてきているのに、若いころと同じように酒が強いと思い込んでいる中年層などは、リスクが高いと考えられます」(倉持さん)
倉持さんによると、アルコールの急速な大量摂取によって、感情の制御などをつかさどっている脳の前頭前野がまひする。
「それによって感情の抑制ができなくなり、怒りをむき出しにするなど、普段はしない反社会的な行動を誘発しやすくなってしまうのです。いつもは温厚なのに、飲むと人格が一変してしまう人は、少なからずいますよね」
■自分で飲み方を変えるのは難しい
当然だが、短時間で大量飲酒すればするほど、その危険がより大きくなる。他人への危害だけではなく、記憶をなくしたり、転んでけがをしたり、駅のホームから転落するなどの大きな事故につながる恐れもある。
倉持さんは、居酒屋の2時間飲み放題システムや、特定の時間帯に酒が安くなる「ハッピーアワー」のサービスなどを引き合いに、「日本は、ビンジドリンキングにつながり安い環境が、整い過ぎてしまっている現実があります」と話す。
こうした店を利用するなら、せめてお酒一杯ごとにチェイサーを飲む。つまみを食べる。仲間との会話を楽しみ、酒を飲むペースを遅らせる、などの工夫が重要になるという。
有名人が酒で不祥事を起こすと、人格攻撃につながる傾向があるが、倉持さんはこう指摘する。
「酒好きなら、誰もがビンジドリンキングをしてしまい、大きな失敗をする可能性があります。有名人の不祥事はまったく人ごとではありません」
また、やっかいなのは、たまに酒で失敗して反省しても、時がたつとまた同じ失敗を繰り返すことだ。倉持さんは言う。
「苦い記憶でも、次第に風化してしまいます。断酒や減酒を含め、自分の力だけで飲み方を変えるのは実はとても難しいことなのです。ビンジドリンキングに心当たりのある人は、医療機関の受診を選択肢として検討してほしいと思います」
自分が失敗するはずはない、と思い込んでいる「酒に強い」あなたも、リスクと隣り合わせなのかもしれない。
(AERA dot.編集部・國府田英之)