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 幼稚園に通う5歳の息子を持つ40代共働き家庭の父親。幼稚園のPTA役員に選ばれた妻が疲弊する様子をみて「そんなに大変? 退会するか、もっと適当にやったら?」とアドバイスしたところ、「他人事(ひとごと)のように言わないで!」と叱責されました。「論語パパ」こと中国文献学者の山口謠司先生が、「論語」から格言を選んで現代の親の悩みに答える本連載。今回の父親へのアドバイスはいかに。

【相談者:5歳の息子を持つ40代の父親】

 私立幼稚園に通う5歳の息子を持つ40代の父親です。この春、わが家はPTA役員に選ばれました。息子の幼稚園はもともとPTA活動が盛んで、一人っ子のわが家は、これまでの役員決めでも候補にあがっていたのですが、ついに選ばれてしまいました。私は管理職で多忙なため、PTA活動はパートタイムの妻に任せることになってしまいます。妻は「子どものためなら」と引き受けたものの、いざ活動が始まると、時間を奪われ、人間関係に悩まされ、おまけに無報酬とあって、すぐ疲弊していきました。

 愚痴ばかりの妻を見かねて、「PTAってそんなに大変? 退会するか、ほかの人に任せて適当にやったら?」とアドバイスしたところ、妻から「他人事のように言わないで!」と泣いて叱責されました。できない活動はほかの役員に任せるなり、縮小するなり、もっとうまくやればいいと思ったのですが……。PTA任期終了まで10カ月以上、このまま妻の不機嫌が続くと思うと憂鬱です。

【解説】
 お答えします。PTAって、めんどうくさいものです。大変です。ぼくもやっていました。嫌で嫌でたまりませんでした。わが子のためと思うから、一生懸命やろうと思ったのですが、忖度と責任のなすりつけ合いと、ほかの親御さんたちからのイジメ、嫉妬など。フェイスブックやホームページなどで私個人の情報を探し出してはアラ探しされ、うわさに尾ひれがついて、勝手にどんどん増幅していくのですから、身も心もボロボロになりました。

 なんのためのPTAなの?と思います。相談者さんは、仕事とPTA活動を両立している妻をもっとねぎらうべきです! 

 PTAは「Parent-Teacher Association」、在学している子どもの保護者と、先生が協力して、学校、家庭、地域社会を結ぶ子どもの教育環境をよくしようとするための任意団体です。これは、みなさんもよくご存じでしょう。強制ではありませんから、やめようと思えばやめられますが、相談者さんの妻は、「やめるとさらなる外圧が待っているのでは?」と不安になっているのかもしれませんね。

 日本のPTAは、戦後まもなく始まり、すでに80年近く、同じような問題を抱えています。保護者同士の輪を円滑にすることを標榜(ひょうぼう)しつつも、熱心に参加する人と、そうでない人がいて、逆に人間関係の対立を生みトラブルが多いという側面があるのです。

 2500年前の思想家・孔子が、人としてのあるべき姿を説いた『論語』にこんな言葉があります。

「子曰(しいわ)く、君子は和して同ぜず。小人は同じて和せず」(子路第十三)

この言葉は、「付和雷同」つまり「まったく自分の意見や主義などもなく、安易に他人の顔を見て賛成する」という四字熟語のもとになった有名な言葉です。 

 PTAの問題の根底には、日本人の自信のなさがあると、私は思います。「間違っていてもいい、人と違う意見でもいい、しっかりとした自分の考えで発言できる、行動できるという自信がなさすぎなのです。

 孔子は、後世、聖人と言われるようになりますが、「嫌なことは嫌」「ダメなものはダメ」と、強く自分を主張する人でした。『論語』には、こんな話も載っています。

 「孺悲(じゅひ)、孔子に見えんと欲す。孔子、辞するに疾(やま)いを以(も)ってす。命を将(おこな)う者、戸を出(い)づ。瑟(しつ)を取りて歌い、之(こ)れをして之(こ)れを聞かしむ」(陽貨第十七)

「孺悲という人が、孔子に面会をもとめたが、孔子は病気だといって会わなかった。取次の人が断りを伝えるためにドアを出ていくと、すぐ瑟(しつ=琴のような楽器)を引き寄せ、歌声がきこえるように歌をうたって、孺悲の耳に入るようにした」という意味です。

 孺悲という人がどのような人か分かっていません。でも直接、孔子を訪ねてきた人だったので、相当の身分の人だったのでしょう。一説では、魯(ろ)の国王・哀公の依頼で、孔子から冠婚葬祭の礼儀作法を学んだ人とも言われています。この人物があるとき、孔子に面会を希望したが、孔子は彼に会いたくなかった。それで病気だといって断ります。でも実際は病気ではないことを知らせ、「会いたくないのは拒絶させる原因が孺悲のほうにある」と婉曲に知らせて追い払ったのです。

 忖度、同調圧力、無責任主義……日本の集団は息苦しいものです。自分の意見や行動基準を保つ訓練をしていないと、集団のものの見方にすぐ感染してしまいます。どうぞ、相談者さんと妻は、周りに影響を受けないでください。PTA役員を引き受けたのだとしたら、自分たちにもっと自信を持って、忖度や付和雷同はやめて、思っていることを言えるよう、できない仕事はNOと断れるようにしましょう。そうすれば、道は必ず、明るく開けるはずです。

【まとめ】

 社会を変えて、よりよい社会を創るために必要なのは、「和して同ぜず」という力