4月15日、ジュニア育成に定評がある千葉県のゴルフ練習場、ショートコースである北谷津ゴルフガーデンを舞台に、「第1回レジェンドカップゴルフトーナメント」が開催されました。往年の名選手が集結してショートコースで真剣勝負するというユニークな大会から見えたゴルフトーナメントの原点と可能性とは?

「どんどんシャッター切って頂いていいです。特に成績のいい人の時は」

 プレーヤーとギャラリーの距離が極めて近く、写真も撮り放題。自分がプレーしたことのあるコースでプロの技術をじっくり堪能したり、プロもミスをするという現実にシンパシーを感じたり……。そんなイベント「第1回レジェンドカップゴルフトーナメント」が4月15日、千葉県・北谷津ゴルフガーデンのショートコースを舞台に開催されました。

記念写真を撮ろうとなったものの、和気あいあいすぎて収拾がつかないレジェンドプロたち 写真:清流舎
記念写真を撮ろうとなったものの、和気あいあいすぎて収拾がつかないレジェンドプロたち 写真:清流舎

 企画したのは、プロ人生をずっと同コース所属で過ごしてきた2021年シニアツアー賞金王・篠崎紀夫と、同コースを運営する株式会社山池の土屋大陸社長です。

「こんなことができたらいいね、と社長とは話していました。去年のコマツ(オープン=シニアツアーの1戦。9月開催)の時ロッカーでみんなに話したら、すぐに『面白そうだ』と言ってくれる人が増えて」(篠崎)と、トントン拍子に話が進んだそうです。

 出場選手は15人と、ツアーに比べたら多くはありません。けれども、総額500万円、優勝100万円の賞金も含めた運営費のスポンサー探し、告知、運営に至るまで、すべて手作りでの大会開催は大仕事です。正式に決まったのは今年に入ってからだったそうです。

 1991年、99年の日本ツアー賞金王、尾崎直道、丸山茂樹(米ツアー3勝)、田中秀道、加瀬秀樹、水巻善典、宮瀬博文ら、米ツアーでの経験も豊富な面々や、2013年全米プロシニア優勝の井戸木鴻樹ら、ホストの篠崎を含めた15人が、1組5人の3組でプレーする形式で9ホールのパー3(西コース)を2周する18ホールストロークプレーが行われました。

 スタートホールに15人が集まり、まずは記念撮影。一人が仕切れば必ず他の誰かが突っ込む大爆笑の中、一斉にガッツポーズをしたあとは、5人ずつがスタート。これも通常のトーナメントとは雰囲気が違います。基本的に写真撮影OKだったのですが「ショットに入る前は静かに……」とお願いするアナウンスに対し、選手側からまさかの「待った!」がかかります。「どんどんシャッター切って頂いていいです。特に成績のいい人の時は」と、笑わせたのは加瀬選手です。

 スタートテント付近で選手に声をかけてスマホを向けるギャラリーに対しても、選手は笑顔で応じます。これまでの実績が紹介されると、仲間からも本人からも突っ込みが入り、笑いが弾けます。

ギャラリーとの距離は極めて近い。こぢんまりした大会ながら、メンツの豪華さにテレビカメラも入った 写真:清流舎
ギャラリーとの距離は極めて近い。こぢんまりした大会ながら、メンツの豪華さにテレビカメラも入った 写真:清流舎

 ギャラリーと選手の距離はとても近く、温かい雰囲気で始まった大会は、コースに慣れていない選手たちが意外なほど苦戦します。ひそかに練習ラウンドに訪れていた直道選手を含め、硬い高麗のグリーンと芝目、マットのティーイングエリアから打つ距離感がいま一つアジャストできないというのも理由のだったようです。

 インターバルは笑わせてくれますが、プレーそのものは極めて真剣です。9ホールを終えての短い休憩では、イベントを盛り上げるためのアイデアが続出。成績順に組み合わせを変えての後半は、少し風が出たこともあり、緊張感が高まっての勝負となりました。

 3アンダーで優勝したのは、誰よりもコースをよく知る篠崎選手。“地の利”を生かして宮瀬、深堀圭一郎、奥田靖己、崎山武志に2打差をつけての勝利でした。

「ホールに入れるというゴルフの基本は距離が短くても同じなんです」

 ギャラリーと一体化したイベントは、ホールアウト後も続きます。西コースと東コースの間にあるステージで、まずは能登半島地震被災者のためのチャリティーオークション。司会はホストの篠崎選手ですが、チャリティー品提供の出場プロたちが次々にステージでマイクを握ります。それだけではありません。競り落としたお客さんに自らそれを届け、チャリティーとなるお金をもらってくるのもプロ自身です。

仕掛人自ら優勝した篠崎紀夫(左)と北谷津ゴルフガーデンの土屋大陸社長 写真:清流舎
仕掛人自ら優勝した篠崎紀夫(左)と北谷津ゴルフガーデンの土屋大陸社長 写真:清流舎

 表彰式ではステージにいた桑原克典選手が司会交代を申し出ましたが、篠崎選手は「大丈夫」とそのまま進行します。「優勝は……」と小声になって「私、篠崎です」と遠慮がちに口にして、自らトロフィーと賞金目録を受け取りにステージ中央に進みます。日頃コースでレッスンを受けているギャラリーから「先生、おめでとう!」の声が飛びます。

 試合前のレッスン会から表彰式まで、すべてがギャラリーと選手の距離が近かったレジェンドカップ。ここにはより多くの人がゴルフを身近に楽しめるヒントがたくさん詰まっています。

「普通のコースよりギャラリーが近くていいよね。プロのいいゴルフも、あんなミスをするのか、というのも近くで見てもらった。ギャラリーとの一体感が何よりよかった」と振り返ったのは尾崎直道選手。53歳と最年少出場者の一人、宮瀬選手は「朝、メンバーを知ってびっくりしました。楽しかった」と笑います。

「面白かったよね。ドライバーが飛ばないし、ゴルフはもう楽しくないと言ってたジョー(尾崎直道)もプレーしたし、今は試合に出ていないマル(丸山茂樹)、ヒデ(田中秀道)のように、ジャンボ(尾崎将司)に最後に立ち向かっていった世代のプレーも見られた」と分析してくれたのは水巻選手です。

「めちゃくちゃよかったですね。僕も見ていたかった。みんな真剣だからそれがいい。ショートコースはビギナーなどがプレーするというイメージがありますけど。ホールに入れるというゴルフの基本はそれが近くても(距離が短くても)同じなんです。ショートコースで賞金懸けてやりたいな、と思っていたので、本当によかった。トーナメントの原点? それです! 選手も多分みんな楽しかったはず」と桑原選手も話します。  プロのツアーは、規模が大きくなるにつれて、主催者、スポンサー、企画、運営など担当が細分化されていきます。手作りでは追いつかない部分があるのはもちろんですが、そうなることによって大会を企画する側の思い入れが薄れてしまいがちなことも残念ながら少なくありません。

 選手を守り、ギャラリーの安全を確保するためのローピングが当たり前になり過ぎてしまったり、これだけスマートフォンで写真を撮影してSNSなどにアップするのが当たり前になっても、何の疑問もなく撮影禁止であることが多かったりという現状をあらためて考え直してみることで、“観るゴルフ”をもっと広げることができるのではないか。そんな可能性があちこちに見えたイベントでした。

 なお、大会の模様は4月29日(月・祝)午後5時から、BS Japanextで放映(公式無料アプリでも同時配信)されます。

取材・文/小川淳子ゴルフジャーナリスト。1988年東京スポーツ入社。10年間ゴルフ担当記者として日米欧のトーナメントを取材する。1999年4月よりフリーランスとしてゴルフ雑誌やネットメディアなどに幅広く寄稿。

小川淳子(ゴルフジャーナリスト)