最初の勢いは負けるためのフリ?

 漫画やアニメ、映画などさまざまな作品において活躍するキャラがいれば、余裕を見せていたにもかかわらず一瞬にして死んでしまう“かませ犬”的なキャラも登場する。相手の強さを引き立たせるうえで欠かせない演出だが、あまりにもあっさり負けてしまうと同情する人も少なくないだろう。今回は、“あっという間に死んでしまったかませ犬的なモブキャラ”をご紹介しよう。

 最初に注目するのは、『週刊少年ジャンプ』(集英社)のレジェンド作品である『ドラゴンボール』(作:鳥山明)のヤムチャだ。彼は連載初期から登場する拳法家で、主人公・孫悟空の幼少期ではライバルとして扱われていた。しかし、同作の話が進むにつれて敵キャラの戦闘力が上がっていき、徐々に周りの戦いについていけなくなっていく。

 そしてコミックス17巻から始まる“サイヤ人襲来”編で当時の強敵であるナッパ、ベジータはヤムチャやクリリン、天津飯などを相手に6体のインスタント戦士「栽培マン」を召喚し、天津飯に続いてヤムチャも率先して戦いを引き受ける。

 しかし、優勢だったヤムチャは気を許したとき、栽培マンの自爆に巻き込まれてあえなく死亡。横たわったヤムチャの様子は彼を代表するシーンになり、フィギュア化、さらにアニメ『ドラゴンボール超』でもセルフオマージュされた。かませ役であるがゆえに“愛されキャラ”になったといっても過言ではない。

 かませ役といえば同じくジャンプ作品の『HUNTER×HUNTER』(作:冨樫義博)に登場する名もない殺し屋も外せない。コミックス11巻に登場する彼は、映像を通して幻影旅団の団長であるクロロ=ルシルフルの手刀を見抜き、「おそろしく速い手刀 オレでなきゃ見逃しちゃうね」と発言。その後、クロロと対戦するものの一瞬にしてやられてしまう。

 強キャラ感があった殺し屋のあっさりすぎる敗北は話題になり、彼の「俺でなきゃ見逃しちゃうね」はネットミーム化。また呼称もファンの間では「団長の手刀を見逃さなかった人」となっており、名前すらついていないキャラがここまで有名になるのはかませ役ならではの魅力があったからだろう。

 名前すらないかませ役のキャラで有名なのは、ジャンプ作品の『鬼滅の刃』(作:吾峠呼世晴)に登場する「サイコロステーキ先輩」も当てはまる。

 彼は主人公の竈門炭治郎と同じく鬼殺隊員の1人。コミックス5巻18話にて、炭治郎の目の前にいた子ども同然の鬼を見つけた際には「丁度いいくらいの鬼がいるじゃねぇか」と言いながら登場し、「こんなガキの鬼なら俺でも殺(や)れるぜ」と切りかかる。しかし、その鬼とは親玉・鬼舞辻無惨が選んだ最高位「十二鬼月」の1人である「累」という強キャラで、一瞬にして上半身をバラバラにされてしまう。

 顏や体を網目状に切断された様子から「サイコロステーキ先輩」と呼ばれるようになり、その名称が話題を呼んでXのトレンド1位になることも。さらにpixivとniconicoが共同で企画するネットの流行語を決めるイベント「ネット流行語100」の2020年度では、「サイコロステーキ先輩」が13位にランクインしている。

 作中では活躍できずに散っていったものの、その心地いい“やられっぷり”に注目を集めるかませ役たち。作品の人気は、かませ役のおかげで成り立っていることも忘れてはならない。カキMONO.1