補欠選挙で健闘、次期衆院選へ意欲

 元格闘家で前参議院議員の須藤元気氏(46)は、4月28日に投開票された衆議院東京15区補欠選挙で無所属ながら次点と健闘した。期間中はLED電飾が光る自転車姿がSNSなどで話題になった。戦いを終えて約1か月。須藤氏が同選挙を振り返り、今後の政治活動をENCOUNTに語った。(取材・撮影=佐藤アケミ)

 夕暮れの東京・江東区。須藤氏は、選挙期間中と同じLED電飾の自転車と光るタスキ姿だった。とにかく目立ち、通勤帰りのサラリーマンや通行人から握手や撮影を求められると、笑顔で応じていた。

 SNSでバズったLEDの電飾自転車は選挙中に考案したという。

「走りながら考えました。何か違うアプローチをやっていかなければいけないと思って。自転車だけだとインパクトが弱いというか。陣営はほぼ100%ボランティアでやってきたので、選対本部長もいない中でゲリラ戦の中で考えました(笑)。動画がバズったのは読み通りです。少なからず、無党派の有権者票は取れました」

 選挙戦序盤、記者から情勢調査結果を知らされ、「このままじゃ勝てない」と思い、違うアプローチを考えていた。

「電飾の表現って“キワ”があって『崖から落ちる可能性があるな』と思って。イロモノとして扱われる危険性がありました。表現方法については、格闘技時代の入場パフォーマンスや、WORLD ORDERでのダンスパフォーマンスのおかげで、“キワ”の線引きは分かっていました」

 ただ、自転車だけでの選挙運動には不安があった。

「2日目だったかな。朝、辻立ちした時は、正直『やばい』と思いましたね。他の候補者が選挙カーで回ったり、街頭演説をやっているのが見えたんです。20人近くのスタッフがいたりするのとは対照的に僕は自転車で1人で走っている。走りながら『これはまずいな』と思って涙が出ましたね」

 自転車選挙が、情勢調査を覆すかたちの“追い風”となった。結果、2万9669票を獲得。当選した立憲民主党公認の酒井なつみ氏は4万9476票で約2万差の次点だった。日本維新の会公認の金澤ゆい氏、都民ファーストの会が応援した乙武洋匡氏らを上回った。

「ベストを尽くしたので、納得しています。もちろん、勝つつもりでやったのですが、結果あと一歩だった。しかし、格闘技をやっていて思うのは、『次につながる戦い』が必ずあるものです。今回、箸にも棒にも掛からなかったとしたら、政治生命として終わりだったと思います。その意味では完全無所属で、しかも自転車で選挙戦を戦い抜けたというのは自信になりましたね」

 須藤氏は、選挙終了後も“どぶ板”の活動を1日も休んでいない。理由は次の選挙を見据えているからだ。

「正直、疲れはありますけど、なぜかウエートトレーニングもやっていて(笑)。自転車の有酸素運動を併せて、夏に向けてマッチョになろうと思って(笑)。朝、駅前で1時間ほど辻立ちをして、その後にトレーニングをし、政策の勉強をする時間にあてています。それから自転車で走る。必ずランチを外で食べるようにして、Xで地元のお店を紹介して、また走って。手応えはすごくいいですね。江東区の名物になればいいなと思っています」

離党も経験、参議院議員の任期1年残して地元出馬した理由

 参議院議員時代に離党も経験。任期を1年残しての出馬だった。

「このままでは政治家として何も爪痕を残さないで次の選挙になってしまうと思っていました。『ここはバッジを外して勝負する時、決意を見せなきゃいけない時だな』と。(国政復帰はかないませんでしたが)やはり、国会で決めたことが国のルールになるので、国家権力の最高機関であるわけです。仕事のやりがいもある。またカムバックしたいです」

 今回の選挙を通じ、「周りに左右されずに戦うことの大切さ」を再確認したという。そして、「自分の軸をズラさずにやってきた」と胸を張った。

「政治で言えることは、運とタイミングってとても大事だと思うんです。それを自分が持っているか持っていないかです」

 格闘家時代は「変幻自在のトリックスター」と称され、引退後は、拓殖大レスリング部の監督に就任。ダンスパフォーマンス集団のWORLD ORDERで世界進出もした。そして、参議院議員に当選。鮮烈な変わり身を見せてきたことにも「運」が関係したのだという。

「もともと政治家になろうとは、子どものころから思っていました。格闘家になったのも、漠然とですが『政治家になるために名前を上げなきゃ』というのがありました。引退して、大学院で政治行政を学んだり、途中、WORLD ORDERの活動にも政治的なメッセージを込めたりしました」

 そして、衆議院東京15区補欠選挙の選挙区が自身の地元・江東区だったのも「タイミング」が重なった。

「昨年末に母が亡くなって、戻ってきたタイミングに地元の代議士が逮捕されました。選挙区が地元だったのもタイミングだったと思います。『ここで僕は戦うべきだ』と思ったんです。今回は出馬がギリギリだったので、地元の人にも知られていなかった。次は地元仲間のネットワークを生かしていきたい。政党など関係なく、自分自身が地元密着でしっかり向き合っていくことが、次につながります」

つばさの党事件に思う「選挙も自分自身との闘い」

 同じ選挙戦を戦ったつばさの党候補者と代表ら3人が、公職選挙法違反容疑(選挙妨害)で逮捕された。法の運用は曖昧な部分も多く、両者言い分もあるだろうが、思うことはある。

「彼らの演説内容も一理ありましたが、表現方法に関しては僕ら全ての候補者は今後、真剣に考えていかないといけないでしょう。僕自身は格闘家なので、選挙でも、スポーツマン精神を大事にしたいと思ってます。ここは単なる僕の価値観ですが、他候補が演説をしていたら、そこでは僕は演説を控えます。それは有権者への配慮にでもあるんですね。選挙もスポーツもライバルとの闘いではなく、あくまで自分自身との闘いです」

 相次ぐ事件に伴って江東区では選挙が続いており、須藤氏は「有権者には選挙疲れがある」と指摘。その上で「政治不信やあきらめから信用を回復していかなければ」と力説し、自身の政治哲学を語った。

「まず、日本経済の底上げが必要です。この30年間、経済成長してないし、給料も上がってない状態じゃないですか。間違った政策のおかげで僕らの30年が奪われたと思っています。ロストジェネレーション世代でバブルも経験してないし、就職氷河期で給料が上がらない時代をずっと過ごしてきた僕らの世代が、社会の中核になって夢や希望がないと次にいけません」

 自身も「ロスジェネ世代」だという須藤氏は、積極財政と減税で消費喚起の必要性を訴えた。

「国のGDP(国内総生産)の半分以上は個人消費で支えられています。なのに消費税を上げていったらGDPが上がるわけはないし、経済成長しないじゃないですか。ですから、消費税はとにかく減税しないと日本経済は復活しないですよ。結局、経済が上向かないと、いろいろ問題解決していかないですよね。とにかく、積極財政して減税すれば消費が喚起されますから。国民にちょっとでもお財布にお金を戻れば、お金使えますし。お金を使えば、企業もモノを作って売れるし、売れれば給料も上がる。そういう“好循環のサイクル”にしていくべきだと思います」

 LED電飾自転車に乗っている姿をひと目見ようと、静岡県から訪れた人もいたという。知名度は全国区だが、須藤氏は「江東区は下町らしい人情の町なので、ここから国政を目指したいです。考えているのは次期衆院選挙の一択。生活費と資金はこれまでの貯金を切り崩していきます」と言葉に力を込めた。

□須藤元気(すどう・げんき) 1978年3月8日、東京・江東区生まれ。拓殖大大学院地方政治行政研究科修了。高校時代からレスリングを始め、全日本ジュニアオリンピックで優勝。20歳で渡米し、格闘家修行。帰国後、逆輸入ファイターとしてプロデビューし、UFC-J王者を経てK-1、UFCなどのリングに立った。2006年に現役引退。08年、拓殖大レスリング部監督に就任。作家、タレント、俳優、ミュージシャン、ダンスパフォーマンス集団のWORLD ORDERを率いるなど多岐に渡って活動。19年7月、参議院選挙に立憲民主党から比例区代表で立候補して初当選。20年6月に離党。今年4月、衆議院東京第15区補欠選挙に出馬したため、自動失職。佐藤アケミ