モータージャーナリストの小沢コージさんがエンジン大試乗会で試乗した5台のガイ車がこれ! BMW XM、BMWアルピナXB7、シトロエンE-C4シャイン、マセラティ・グレカーレ・トロフェオ、ミニ・ジョン・クーパー・ワークスに乗った本音とは?


こんな発想は生まれない

最近輸入車はどんどん高くなっています。お手軽なVWポロやルノー・トゥインゴでも250万円超え。正直ガイシャは日本人にとってはますます縁遠いものになっているでしょう。しかし、ガイシャには国産車にはないものがあります。それは運転する喜びであり、刺激です。最近でいうと小沢はBMWXMに久々に衝撃を受けました。保守化する日本、逆立ちしてもこのようなクルマは作れません。お金の有る無しではなく、このような発想が生まれないのです。今回同乗したEPC会員の方ともその点で考えは一致しました。電動化もそうです。日本のEVはほとんどがツマラナイ。エンジン車の延長で加速は凡庸でデザイン的にも冒険が少なく、室内も驚くほど広いわけでもない。今の停滞する日本社会そのものなのです。ガイシャにはガイシャに乗らないと分からないチャレンジ精神があります。それは買ってみないとわからないのです。




BMW XM「圧倒的歌舞伎感」

なにこの圧倒的歌舞伎感であり世紀末感!このクルマはゲンダイ社会であり、時代変革期しか生まれ得ないはずだ。マニア的にはBMW MとしてはM1以来の専用モデルとか4.4リッター V8ツイン・ターボのPHEVシステムはM専用チューンで凄いというが一般にはどーでもいい。サイズがまず異様で全長5.11mで全幅はほぼ2m、全高1.755m。ホイールベース3m超え。車重ほぼ2.7トンで価格2100万円超え。なにより「顔面力」が極まっており巨大な鼻の如きキドニーグリルは、遠近法を間違ったかのよう。内装も上質メリノ・レザーはもちろんパリかロンドンのアヴァンギャルドなクラブはこんな感じなのか? と思わせる隔世感。かたや走りはシステム最大トルク800Nmのパワトレに薄皮まんじゅうの如き23インチ・タイヤからは想像もできない洗練度。正直、小沢は10億円の宝くじが当たっても買わないし、この手を買うのは衝撃動画で財をなしたYouTuberだったり、ゲンダイの歌舞伎モノであるはず。その存在をリアルに想像できるだけでもXMは面白過ぎる。




BMWアルピナXB7「世界最良3列車」

大型SUVとミニバン、実は比べるべきではないかもしれない。3列目の広さで言えばトヨタ・アルファードの方が上。価格もスペシャル・チューンドBMWたるアルピナの方が高い。だが同じ3列シートで7人以上乗れるパーソナルな移動空間として、より本当に優れているのはどちらかというとXB7だと思う。シンプルに移動の質、ドライバーの楽しさという意味で比べものにならない。BMWの大型SUV、X7を職人集団アルピナが仕立て直したXB7。内外装の設えはもちろん、とにかく乗り心地の良さ、ハンドリングのキモチ良さ、加速の気持ち良さ、すべての官能性能がハンパない。エンジンの電子制御、燃料噴射や電動パワステのセッティング、シフト・スケジュール、サスやダンパー・セッティングまで含めてアルピナ・オリジナル。事実、乗り心地のフラットさ、低速から高速までの揺れの無さは信じがたい。巨人の手で押されるような4.4リッターV8ツインターボのトルク感もアクセル操作含めてキモチいい。郷里まで500km往復する人なら間違いなくアルヴェルよりコッチだ!




シトロエンE-C4シャイン「キャラ立つEV」

EVになるとみんな同じようなクルマになる……ソイツは半分ホントで半分ウソだ。単純に日本においてシトロエン初のバッテリーEVとなるE-C4。エンジン車のような面白さは正直ないけど、やっぱり全体を通じて感じる衝撃のシトロエン・フィールが濃厚だからだ。ボディ・サイズとホイールベースはディーゼル版C4と全く同じ。前後トレッドに最低地上高、最小回転半径も全く同じで露骨に違うのは約250kg重い車重ぐらい。見た目もバッジ以外はフロント・バンパーやサイドに付いてるエアバンプ造形やドア・トリム加飾がブルー系になるくらい。だが乗った瞬間「ああシトロエン」だと分かる。EVになっても変わらない、アクセルを踏んだ瞬間、分厚いトルクでボディの塊がワープするような加速感や、荒さを感じないステアリング・フィールと乗り心地。この優しさはシトロエンでしかありえない。ついでにある意味、EVファンをガッカリさせるのは実はたいして速くないこと。136ps&260Nmのモーター出力はディーゼルとさほど変わらない。電動化時代でも最後に残るのは濃いキャラクターなのよ。




マセラティ・グレカーレ・トロフェオ「絶妙にイタリアン」

「最近国産(レクサス)からの乗り換えが増えているんですよ」(マセラティ関係者)というグレカーレ。ご存知最強プレミアムSUV、ポルシェ・カイエン・キラーだが、最近徐々にその魅力を拡大している。それは乗れば歴然だ。車体はほぼ2mの全幅を除けば扱い易く、しかも近くで見るとほどよくドイツ系よりエロい。より鯉のようにすぼまったフロントマスクや腰高な欧米人女性のようなリアは他にない存在感アリ。リッチで光沢ある本革シートや、スポーティかつイマドキデジタル性能が高いインテリアも満足度高し。なにより走り味だ。中でも今回乗ったトロフェオはスーパーカーMC20譲りの3リッターV6ターボ搭載。多少デチューンされているとはいえ、530ps&620Nmのパワー&トルクは暴力的。しかも乗って驚くが、足回りの硬さは期待通りのスパルタンさだが、サウンドやふけの良さはドイツ系よりおとなしめ。この当たりの慎ましさがほどよく日本人の心を捉えているのだ。見た目はエロく乗るとちょっと控え目。絶妙なイタリアンなのだ。




ミニ・ジョン・クーパー・ワークス「乗るなら今!」

BMWミニの躍進は、元オーナー小沢が言うまでもない。独特のサイズ感、可愛さ、そしてゴーカート・フィールで世界的人気を博した。中でもメイン3ドアは3代目がもうすぐ終わろうとしており、2024年3月には4代目が日本で登場予定。しかし、ご存知電動化の昨今、ICEのみを搭載するミニは2025年にはなくなり、2030年までにはBEVブランドになるという。つまり次はほとんどEVか半EVになる。加えてBMWミニは初代こそブリティッシュ・ミニを思い起こさせるダイレクトなゴーカート味が濃厚だったが2代目で半減、3代目でますますBMWっぽくなった。つまり4代目は電動化が進むどころかフィールもさらにリアルBMWになることが予想される。つまりリアルなガソリン味で絶妙にゴーカート・フィールが残り、しかも味が最も濃厚なのは最後の3ドア、ジョン・クーパー・ワークス=JCWしかない。実際乗ると全長3.9m切りでほぼ5ナンバーに近いコンパクトさはもちろん、純ガソリンで231ps&320Nmのパワー&トルクが懐かしい。今を逃したら買えない!

文=小沢コージ

(ENGINE2024年4月号)