モータージャーナリストの桂 伸一さんがエンジン大試乗会で試乗した5台のガイ車がこれ! アルファ・ロメオ・トナーレ プラグイン・ハイブリッド、BMW i5 M60 xドライブ、ロータス・エミーラV6ファースト・エディション、マクラーレン・アルトゥーラ、ボルボXC40リチャージに乗った本音とは?


じつに興味深い

毎年恒例も23年目を迎え、2024年もカーガイの読者諸兄23名を招いての最新ガイシャ試乗は、自分にとっても超楽しみな一年の始まりである。同時に皆さんと同乗走行してクルマの操り方探り方を披露し、その目と身体で動きや音を実体感して頂く。逆に、読者諸兄が何を見て感じて何処に疑問を抱き、何を重視するのかを聞き出すじつに興味深い時間にもなる。……ずらり並んだガイシャの群れは、まずそのデザインから生まれる造形美、存在感に圧倒される。生まれた国の違いメーカーの違いはもとより、スイッチ1つに拘るコストの掛け方、素材の感触、風合い、薫り、音、ガイシャは違うなぁ!と、ソコも注目。執筆者は各人担当車種が決まっている。無論担当以外に注目モデルはある訳で、今日もボクは空き時間にそれらも皆さんと同乗でチョイ乗り。遂にはタクシー・ライドになったが皆さん楽しんで頂けて良かったと思う。




アルファ・ロメオ・トナーレ プラグイン・ハイブリッドQ4ヴェローチェ「走りの愉しさを演出」

異文化コミュニケーション!? 久しぶりに乗るアルファ・ロメオは、操作系が判るようで判らない、何故かそんな感覚。特にそうだったっけ!?と思ったのはアクセレレーターのストロークの長さで、特に短い国産車から乗り換えると、倍はあるか? と思うほど深々と踏み込める。それが意図するものは何か。ゼロ・スタートでじわり動き出せるからだ。試乗したトナーレQ4はPHEVゆえモーター走行が可能。前後それぞれ45psと128psの2モーターだから、ストロークが短いと意図しなくてもカンタンに猛然とダッシュしてしまう。そこを繊細に操作できるようにした、と解釈できる。パワートレインはモーターに加え180ps/270Nm の1.3リッター SOHC直4ターボと6段ATの組み合せ。モーターのみで70数km走行可能なバッテリーを搭載するから、車重は1.8トン。その重さをまったく感じさせないモーターとエンジンの融合は、走りの愉しさを演出するアルファらしく、パドル操作を織り交ぜると実に質の高い静かで滑らかで速い走行が叶う。直4だがアルファが味付けしたサウンドも嬉しい。




BMW i5 M60 xドライブ「異次元のコーナリング」

EPC会員が同乗試乗した4駆のBEV、BMW i5 M60xドライブの走りは、それはもう凄まじいスーパーカーのセダン版そのものだった。モーターの瞬発力、伸びのある劇的な速さはテスラを筆頭に十分に味わってきた。0-100km /h加速が3秒切り、3秒前半が当たり前になり、それはもちろん凄いと思うが、瞬発過ぎてヒトの感性が追いつかない比現実的な速さに、もはや食傷気味。当然それはi5にも言えて、無闇に速いが、やはりエンジンのビートとサウンドともに速度と加速Gを常識的に盛り上げる自動車らしさが重要だ。とは言えi5は、テスラには真似できないコーナリング性能の高さ、ハンドリングの正確さ、尋常じゃない横Gを生み出す。ともかく曲がる事に関する懐の深さは驚異的。ステア操作に応じ、駆動系とブレーキを巧みに制御して曲げに行く。ターンパイクを駆け上がりながら読者様と異次元のコーナリング性能にふたりで声をあげた。いっぽう環境モードにより、高速走行は惰性が付く度に空走で電費を稼ぐコースティングへ。自然な切り替わりと戻りのスムーズさも感心する。




ロータス・エミーラV6ファースト・エディション「一目惚れした」

近年のロータスで最高にクールだと思うエミーラでひとっ走りして戻り、ロータスの関係者に「やっぱATで十分だね!」……と伝えると、「桂さんがそんな事言わないでくださいよ!?」と嘆かれた。ロータスだからおそらく最後(!?)の6段MTを推奨せよと。もちろんクラッチ操作で駆動がダイレクトに伝わるMTもお薦めだ。エンジン車として最後のモデルと言われているエミーラはそのサイズとスタイリッシュさに一目惚れした。まだ上陸しないAMG製2リッター直4ユニットこそ個人的には注目だが、トヨタ・ベースの3.5リッターV6も熟成に熟成を重ねて歯切れのいいV6サウンドと高レスポンス、高トルクでミドシップらしい加減速の俊敏さと、軽快で鋭い旋回性を示す。清水和夫師匠操るアルピーヌA110チュリニとコーナリング・バトルしながらターンパイクを登るが、もちろん速度規制内なので決着はつかないものの、チュリニに同乗した会員さまは、テールtoノーズ状態で、その鋭い横Gのハンドリングに身を委ねながら、先行するエミーラのフットワークに長けた潜在能力の高さも同時に確認できたハズだ。




マクラーレン・アルトゥーラ「痛快でたまらない」

日本のお家芸とも言えるHEV、PHEVのモーター走行をスーパースポーツであるマクラーレンがサラッと決める時代だ。モーター音のみで静々と走り出し、自然にV6ターボに点火するや暴力的な加速に転じる……と思ったのは2021年デビューのアルトゥーラの初期型。そこから熟成が進みモーターとエンジンの調和が実に自然になった事は今日の試乗車でも体感できる。F1の世界にカーボン・モノコックを最初に持ち込んだのがマクラーレンであるように、ミドシップ2シーターのスーパーカーにもカーボン・モノコック・シェルを採用。その強固な剛体のかたまり感による恩恵は、アクセレレーター、変速機、ステアリング、ブレーキと操作がすべてがダイレクトで、俊敏だが扱いやすいレスポンスがマクラーレンの持ち味である。高い直進安定性を維持した状態から、わずかなステアリングの操作でノーズが平行移動したかのようにロールもせず瞬時に姿勢を変化。といっても過激ではなく、あくまでも素直に自然に応えてくれる扱いやすさも熟成した証し。この凄さこそ同乗試乗で伝えたかった1台だ。




ボルボXC40リチャージ・アルティメット・シングル・モーター 「スーパーカー乗りも声を上げる 」

我が家にXC40が来て4年。車検を取り愛車として継続中なほど気に入ったのは、サイズ感とそれがPHEVだから。今日の試乗車はそのBEV版。ボルボはフルBEV化宣言をしていて、XC40は“変革期”のボルボを象徴する量販モデルである。BEVはツイン・モーターAWDとシングル・モーターFWDの2モデルで誕生した。その後、2輪駆動はRWDの後輪駆動に変わる。ボルボは元々RWDの操縦安定性を主としたので原点回帰か。乗り味として見ると違いは明確だ。我が家のPHEVはFWDだが、前輪を駆動する振動、衝撃、シミー等雑味がステアリング・ホイールを通して伝わる。一方BEVのRWDはそれら雑味が伝わらず、路面からの反力はあるが基本的に滑らかで上質。駆動は後輪から押し出されるので身体はシートに優しく沈む。その滑らかな押し出しから、加速を強めるとスーパーカー乗りでもある会員様も思わず声を上げるほど瞬発力があるのがBEVの威力。駆動方式はAWDが当然多様性は高いが、日常使いでもシングル・モーターのRWDで何の不都合もない。

文=桂 伸一

(ENGINE2024年4月号)