モータージャーナリストの藤原よしおさんがエンジン大試乗会で試乗した5台のガイ車がこれ! アルファ・ロメオ・トナーレ プラグイン・ハイブリッド、ケータハム・セブン340R、マセラティMC20チェロ、メルセデスAMG EQE53 4マチック・プラス SUV、ポルシェ911GT3 RSに乗った本音とは?


メーカーの味が濃い

30年近いクルマ人生で所有した国産車は1週間で飽きた中古のパルサー・セダンとホンダS600クーペだけという僕にとってガイシャは常に身近な存在。今回もお昼に味見したエミーラを含めバラエティに富んだ車種に乗りましたが、内燃機はもちろん、ハイブリッドであってもBEVであっても、メーカーの味がしっかりと色濃く出ていたのが印象的でしたね。特にBEVの場合は、よりシャシーの個性が出やすく、重要になってくるはず。そういう意味でもEQE SUVと近々電動モーター版も出る予定のMC20、そして特別参加のプロジェクトV、エレトレはそれぞれ超個性の塊で面白かった! 未だ内燃機LOVEな僕ですが、この先代替燃料を上手く使いつつ内燃機関と電動車が目的に応じて共生する世の中になったら、自動車って今よりもっと自由で楽しくなるかもしれない……と、帰り道はちょっとポジティブな気持ちになりましたよ。




アルファ・ロメオ・トナーレ プラグイン・ハイブリッドQ4ヴェローチェ「これがあのアルファ!?」

1.3リッター直4ユニットと聞いて、750系ジュリエッタのDOHCユニットを連想するのは立派なロートル。前後にモーターを備えたスムーズでイージーで静かなパワートレインの仕草を通じて、この先BEVメーカーに生まれ変わる彼らにとってエンジンはもはや脇役なのだと改めて思い知る。よってD(ダイナミック)モードにしてもエンジンの官能性が高まる気配はなく、クルマ全身がピシッとシャキッと元気になる感じ。「これがあのアルファなのか!」と隔世の感あり。一方でステアリングの反応は想像以上にクイックでスポーティ。ヴェローチェに標準装備の電子制御ダンパーも良い仕事をしていて山坂道では滅法速く「さすがアルファ!」とホッとする。よく見るとインパネは色っぽくクラシカルなデザインだし、室内はしっかり広く快適だし、荷室も十分以上。これにちょっとワイルドなエンジン詰んで、6段MTなんか用意したら、アルフィスタたちの新たなスタンダードとして喜ばれるかも? って想像してワクワクしたのだけれど、その発想自体がそもそもロートルなんですよね。




ケータハム・セブン340R「未来永劫二度と現れない」

今やケータハム以上にケータハムのなんたるかを知っている親会社VTホールディングスが、製造中止直前にフォード・デュラテック2リッター直4エンジンを1800基! 一括購入したことで誕生した、一番セブンらしいセブン。ワイド・トラックのスポーツ・サスペンション・パックや15インチ・ホイールを備えた340Rで車重は540kg、パワーは172ps。いわば現代に蘇ったスーパーセブンBDRといったところ。もうその時点で面白さは確定済み。実際、なんの電子デバイスもアシストもない純真無垢な成り立ちは911GT3 RSとは正反対だけれど、乗り手の腕と度胸と根性と愛を試すスポーツカーとしての芯の部分はまったく一緒。しかもカリカリし過ぎず、でも十分以上にパワフルで扱いやすいデュラテックとシャシーのバランスが絶妙で、右足とお尻に神経を集中しながらステアリグを握れば、時速60km/hでもドライビング・エクスタシーを味わえる! こんなクルマ他にはないし、未来永劫二度と現れない。そしてこの340Rを手懐けた暁には、どんなスーパースポーツも乗りこなせるはず。買うなら今だ!




マセラティMC20チェロ「ちょっと荒っぽい感じ」

「本来ならチェロじゃなくチエロね」とはイタリア語ペラペラの武田公実さん。おかげで乗る前から1つ賢くなってスタート。カーボン・モノコックのミドシップ・スポーツとしてはサイドシルも低めで乗りやすく、内装の仕立ても派手さはなくシックで好ましい。乗り味も見た目とは裏腹に快適だし、開放的なオープン・トップがラグジー感を増してくれる。ところがひとたび背後の3リッターV6ツインターボに鞭を入れると世界は一変。まるで重力から解放されたかのように軽くなり、ただただ猛烈に加速する。トップを開けていると加速感はさらに倍増。それでいてシャシーはミシリとも音を立てず頑強そのもので「さすがはカーボン・モノコック、さすがはダラーラの仕事!」と叫びたくなる。ただその高いパフォーマンスを思うと、もっと路面に食いつくダウンフォースや、ガツッとさらにダイレクトに効くブレーキが欲しい……と、どんどん欲深くなってしまうのも事実。この軽さやシャシーの余裕っぷりをみると、この後出てくるBEVこそ本命なんだろうな。でもこのちょっと荒っぽい感じも悪くない。むしろ好き。




メルセデスAMG EQE53 4マチック・プラス SUV「じわっと沁みてくる」

正直に言って驚いた。BEVというと、ロケットのような加速力があってメチャクチャ速いんだけど、クルマ全体の妙な重さは払拭できなくて、ハンドリングもどこか人工的でダイレクト感に乏しく自動車というより家電的……という先入観があったし、実際に乗ってもそういうクルマが多かった。でもEQE SUVはその真逆。確かにアクセレレーターを思いっきり踏めば速いのだけれど、すべての動き、感触がとってもナチュラル。車重は2.7トンもあるけど、EQS SUVのような自らの重さを制御しきれないチグハグ感もなく、ハンドリングも乗り心地もスッキリと爽やか。特にゆっくり、ゆったりクルージングしてみると、クルマ全体の手触りの良さ、耳馴染みの良さ、良いモノ感がじわっと沁みてくる。さすが内燃機自動車の祖として1世紀以上積み上げてきた「クルマ作り」の勘所は、電気になっても健在。BEV食わず嫌い、もしくは内燃機からのスムーズなBEV移行がしたいという人に最適。既存のBEVから乗り換えるとよりその出来の良さ、上質さが際立つはず。これからのBEVのベンチマーク。




ポルシェ911GT3 RS「新手の合法ドラッグ」

純レーシングカーとロードカーとの圧倒的な差は、パワーや見た目ではなく、構造やパーツに妥協や遊びが一切ないこと。素手で洗車したら何箇所か切り傷を負うんじゃないか? と心配になるほどカクカク、トゲトゲしたエクステリアが圧巻の911GT3 RSは、まさにそれ。一見911GT3のモディファイ版と思いきや、中身は別物。エンジンやギヤボックスをソリッド・マウントしているような塊感、ダイレクト感に溢れたボディ。ミクロン単位での制御すらできそうなほどシャープで遊びのないステアリングと、それをしっかり受け止めるサスペンション。さらに驚異的なのがバンプを超えても一切Gが抜けない圧倒的なダウンフォース! それらがもたらす鉄壁のグリップはスピンする隙すら与えない。確かに9000回転まで一気に吹け上がる4リッターNAエンジンも凄いけど、この驚くほど安定してコントローラブルなシャシーから得る快感はまさに新手の合法ドラッグ。ありきたりの表現で恐縮だけれど、これぞ純度100%のレーシングカー。それをオプション込み4000万円以下で売るポルシェは凄い!

文=藤原よしお

(ENGINE2024年4月号)