中古車バイヤーズガイドとしても役にたつ『エンジン』蔵出し記事シリーズ。今回は2008年7月号に掲載されたアルファGTのリポートを取り上げる。「価格を超えた価値あるクルマ」は何か? と問われたモータージャーナリストの清水草一は、ベルトーネがデザインした美しいボディのアルファGTこそがそれだ! と即答した。が、それは当時、アルファGTの販売終了が決まっていたからでもあった。アルファのなかのアルファが欲しい人は、いましかない! と清水草一が叫んだアルファGTとは、どんなアルファ・ロメオだったのか?


アルファの濃縮ジュース

以前から、アルファGTというクルマには、価格を超えた価値があると思っていました……。

147と156をベースに、ベルトーネがデザインした美しくもふくよかなボディ。身のこなしはアルファらしさの濃縮ジュース的で、他のモデルよりさらに初期ゲインが高く、サウンドもより刺激的に仕上げられています。まさにアルファの中のアルファ! しかも肉まんのようにふくよかなボディのおかげで、後席の居住性やトランクの積載性が高いというオマケ付きだ。ブレラはアルファGTを見習ってほしい!

全長×全幅×全高=4495×1765×1375mm。ホイールベース=2595mm。車重=1360kg。2.0JTSに搭載される2リッター直噴4気筒エンジンは軽快な吹け上がりと高回転域での伸びが魅力的。最高出力166ps/6400rpm、最大トルク21.0kgm/3250rpmを発生する。スポーツ・モードを備えたセレスピードをパドルで操作しながら、山道を走れば気分爽快!

しかもこんなアルファの濃縮ジュースが、普通のアルファ並みの値段で買える。これは実にまったく価格を超えた価値がある。スバラシイじゃないですか!

考えて見れば私は、常に価格と価値のバランスを見て、お買い得なクルマだけを買おうと努力してきました。どんなエラそうなことを言ったって、クルマ選びとはつまるところ、それに尽きるのではないでしょうか。私は自慢じゃないですが、価値より価格が高いと感じたクルマを買ったことは一度もありません。だってそんな余裕ないから! それならユニセフに寄付するもん! ま、判断を誤って「ユニセフに寄付すりゃよかった」と思ったことはありますが。

しかし、今回私がこのアルファGTを取り上げたのは、そろそろこのクルマの新車が買えなくなる可能性が高いという事情も、濃厚に関わっています。

なんとも高貴で美しいタンの内装。

まず、アルファ6(セイ)以来のアルファV6の生産が、いよいよ終わりつつある(終わった?)という事情。実は私、今回は是非ともそのV6の方を取り上げたかったんですが、なんとすでに販売が終了していました! いつの間に? 知らなかった! 純血アルファV6はすでにご臨終なんでしょうか。166はどうなんだろう!? 焦るぜ。

もうひとつは、このクルマを生産していたベルトーネの倒産です。倒産即ラインが止まるわけじゃないだろうけど、なんにせよこれ以上ない最悪のニュースです。アルファGTはまさに風前の灯です。

もう買えない。残り少ない。そう思えば、余計に価値が上がるってものじゃないですか。

しかし、JTSしかないのか、JTSは官能的じゃないからなぁ。取り上げるのが一歩遅かったか……。

ホントはV6が良かったけれど2リッターのJTSも捨て難い。


特別仕様の1台

でも、やってきた広報車は素敵だった。ボディカラーは深い深い海より深いブルー、インテリアはそれにマッチしまくる華麗なタン革。スバラシイ。実にスバラシイ!

しかし、いま買えるのは、3月に発売された特別仕様の「2.0JTSセレスピード・コレツィオーネII」と「同スポルティーバII」のみ。恐らく最後の在庫一掃セール仕様でしょう。私はこれに非常に弱い。アルファ155とシトロエン・エクザンティアは、両方これで買いました。実際、熟成され切った最終生産車は買いだ! 価格を超えた価値がある! しかもノーマルより10万円安い380万円!

JTSエンジンも、オペル・ブロックの2.2リッターに比べると、アルファブロックの2リッターは、かなりアルファらしく吼えてくれます。もちろんV6に比べたら物足りないけど、でも値段を考えれば納得だ。だってV6は、543万9000円もしてたんだから。

本革スポーツ・シートは標準装備。後席の居住空間が十分に確保されていることもアルファGTの魅力。リアビューの美しさよ!

トランスミッションはセレスピードのみ。特にオススメではないですが、もうこれしかないとなれば、「じゃそれで!!」と即決したくなる。乗っても「意外といいじゃない!!」ですべてが許せる。残り物には福があるとばかりに、なにもかもが輝いて見えてくるのです。

そして今回気付いたんですが、アルファGTにはトランク・スルーが付いてたんですね。トランク容量も驚くほど広いし、これで家族でスキーに行けるじゃん! 我が家の場合これはかなり大事! 実に価格を超えた価値あるクルマだ。トランク・スルーはトドメ。

文=清水草一 写真=小野一秋

望外だったトランクスルー!

(ENGINE2008年7月号)