ヤフー・オークションで手に入れた7万円のシトロエン・エグザンティアを、10カ月と200万円かけて修復したエンジン編集部ウエダの自腹散財リポート。エグザンティアの生誕30周年を祝う海外イベントに参加した番外篇もそろそろ終盤。前回のセクマF16ターボに続き、今回もパリ郊外にあるシトロエン博物館、“コンセルヴァトワール”の外で出会った、珍しいクルマとそのオーナーを紹介しよう。

最強のエグザンティアに乗る

セクマに乗るルコントさんに礼をいって腕時計を見ると、時刻は11時を過ぎていた。おそらくランチを食べに出かけるのだろう。アクティバたちが連なって駐車場から出ていく。その様子を撮っていると「君のことはベリニエから聞いているよ」とまた1人のアクティバ・オーナーが話しかけてくれた。



彼の名はYohann Lerosier(ヨハン・レロジエ)さん。フランス語でルージュ・ピヴォニー・ナクレという、オレンジ・メタリックのアクティバの持ち主だ。わざわざ日本から来たのだからと、彼は僕に、愛車の助手席での同乗体験をさせてくれるという。「日本には数台アクティバはやって来たんだけど、この色は初めて見たよ」などと話しながらクルマを見せてもらうと、レロジエさんのアクティバのリア・ハッチには“V6”のエンブレムが輝いていた。

「え? これV6アクティバなんだ!」と驚くと、彼はニコリと笑みを見せた。実はアクティバというのはグレード名でなく、ちょうど30年前、1994年に誕生したサスペンション・システムの名だ。日本には2リットル・ターボのみわずかな台数が輸入されたようだが、フランス本国や欧州市場では2リットル自然吸気やディーゼルなど、他のパワーユニットとの組み合わせの設定もあったのである。



レロジエさんのアクティバは、その中でもトップ・パフォーマーの3リットル24バルブのV6自然吸気エンジンを搭載したV6アクティバだ。最高出力は190ps。このV6エンジン自体は日本へ導入されているが、もちろん足まわりはアクティバではない。日本仕様のV6の変速機は4段ATだが、彼のV6アクティバは5段MTである。

V6搭載モデルの登場は、やや丸みを帯びた前後バンパーや、クリアのテール・ランプが特徴の後期型からとなる。ホイールは僕のリポート車と同じ15インチだが、やや幅広の205/60R15タイヤを履いていた。この時はまだまだ冷える季節ということもあって、銘柄はミシュランのオールシーズン・タイヤ、クロスクライメートだ。

多くのアクティバは上位車種ということもあり、インストゥルメント・パネルやシフトにウッド調の素材が用いられている。シートの形状や柄も専用だ。ただしレロジエさんのV6アクティバのシートはオプションで用意されていたブラック・レザーで、立派な肘掛けも付いていた。



ルーフの一部はクリア塗装が少し剥がれてしまっているし、メーターを覗き込んでみると積算計の数字は30万kmオーバーだ。だが、僕が助手席に座るやいなや、レロジエさんはアクティバを急発進させた。そして、コンセルヴァトワールの目の前にある大きなラウンドアバウト(環状交差点)へ飛び出していく!

イッツ・ア・クレージー・カー!

このV6エンジン自体は日本で何度も味わったことがあるはずだけど、正直4気筒に比べて静かで滑らかだという以外、あまり記憶がなかった。ところがレロジエさんのアクティバV6は5段MTだから、低いギアで上まで引っ張ると、なかなかサウンドが勇ましい。グモモモモ〜ヴォォォォ〜ウォォォ〜ン、という感じで、回していくと音が少しずつ澄んだものになっていく。



でも、そんなサウンドやフィーリングよりも、僕が目を見張ったのは加速力だった。自分のエグザンティアとはまるで違う!

それもそのはず。V6アクティバの0-100km/h加速は8.2秒(独ADACオートテストより)。この数字だけ見ると今やけっして速くはないのだけれど、リポート車の2リットル8V自然吸気エンジン+4段ATのV-SXは13.2秒(二玄社カーグラフィック1994年3月号ROAD TEST No.340より)で、過去に僕がちょっとだけ乗っていた2リットル8Vターボ+5段MTのアクティバですら10秒ほどなのだ。

それでいて乗り心地は僕のクルマと大差ない。「これはスポーツカーであってファミリーカーなんだよ」というレロジエさんの言葉に、僕はうなずくしかなかった。

近所の工場街で加減速のテストを繰り返した後は、ふたたび駐車場に戻って助手席で定常円旋回を体験させてもらう。周囲にクルマがいないことを確認し、彼は一気にコーナリング速度を上げた。

アクティバという機構は、サスペンション・シリンダーの途中とスタビライザーを繋ぐように別のシリンダーを前後に1本ずつ追加し、それを窒素ガスの入るスフェアとLHMと呼ばれる鉱物油で作動させることで強制的に車体を水平に保ち、アンチロールを実現している。既存のシトロエンのハイドラクティブという硬軟2段階でのロール制御に上乗せされたシステムで、ハイドラクティブのスフェアが最大で8個なのに対し、アクティバは10個になる。

過去に所有した経験と、理屈ではアクティバの動きが分かっているつもりだった。でもタイヤのスキール音がどんどん高まり、見える景色がものすごい勢いで後ろへ流れているのに、車体がいっさいロールしないのはやっぱり奇妙な感覚だ。



さらにアクティバを含むエグザンティアのすべてのモデルには、リアのトレーリングアームと車体の接合部のブッシュの特性により、限界域に近づくと最終的にリアがフロントと同相になり、オーバーステアとなる簡易の4WS、セルフセンタリング・システムが組み込まれている。ただしこの呼び方は、当時の日本語のエグザンティアのカタログ記載のもので、XM以前の強制的にステアリングを中央位置に戻そうとする、セルフセンタリング・システムとは異なるものだ。

レロジエさんはその動きを察しながら軽くカウンターステアを当てつつ、右足を細かく動かしてスライドの量をコントロールしている。



このオールシーズン・タイヤを履いているとは思えないハイスピード・コーナーリングにすっかりやられてしまった僕が「エキサイティング!」と思わず口にすると、彼は「イッツ・ア・クレイジー・カー!」といい、ドゥドゥ、ドゥドゥ、と口にしながら拳を胸に上下するそぶりした。「それは、日本語でいうならドキドキっていうんだよ」と答えて、互いに顔を合わせて笑ったのだった。

V6アクティバを降りた後は、しばらくの間、あたりで何人かの若い世代のエグザンティア・オーナーと話すこともできた。フランスでも、エグザンティアのようなヤングタイマーのクルマは若年層に人気のようだ。



そうこうしていると「プレゼンテーションがはじまるよ」と声をかけられたので、僕は参加者たちと一緒に、再びコンセルヴァトワールの中に戻ることにした。

さぁ、次回はいよいよエグザンティア誕生の前後に発表された博物館所蔵の貴重なコンセプト・カーたちの現在の様子と、エグザンティアの開発スタッフによる、プレゼンテーションの模様をお届けする。

文と写真=上田純一郎(ENGINE編集部)

■CITROEN XANTIA V-SX
シトロエン・エグザンティアV-SX
購入価格 7万円(板金を含む2023年3月時点までの支払い総額は234万6996円)
導入時期 2021年6月
走行距離 17万4088km(購入時15万8970km)

(ENGINE WEBオリジナル)

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