先日、30代前半の方から「少子化が進むことで、自分たちの老後は公的年金がもらえないのではないか。」という質問を受けました。たしかに、少子化は深刻な課題であり、将来働く世代の人口が減少することで、公的年金財源に及ぼす影響についての不安感は否定できません。   とは言え、年金がもらえないという結論に至るのは短絡的すぎる印象です。まずは、社会保障制度の主旨や社会全体として目指す方向性、そのための取り組みや現状について、きちんと知ることから始めましょう。

社会全体で支える「社会保障制度」

結論から言うと、少子化が進んでも、公的年金制度がなくなることはありません。なぜならば、社会保障制度は、国民の「安心」や生活の「安定」を生涯にわたって支える制度であるためです。
 
このうち、年金や医療・介護といった「社会保険」は、病気やけが、死亡、老齢、障害、失業など生活の困難に遭遇した場合でも、生活の安定を図ることを目的とした強制加入の保険制度です。
 
公的年金制度には、退職後の収入減少を補てんするための「老齢年金」だけでなく、障害状態で働けない場合の「障害年金」や遺族の生活を守るための「遺族年金」があります。
 
日本の年金制度において、現役世代が納付する保険料は、年金受給者への給付財源となる「賦課方式」で運用されています。現在の現役世代が高齢となり年金を受け取る数十年後には、そのときの現役世代が納付した保険料から年金を受け取るといった世代間で支え合う仕組みです。
 
少子高齢化により働く世代が減り、受け取る世代が増えると、給付(支出)が納付(収入)を上回るため、「年金財源が破たんするのでは」と心配する声があるのは、こうした制度の仕組みであるためです。
 

少子高齢化を見据えた公的年金制度の取り組み

ただし、国では、これまでの統計や予測データを活用し、年金制度が破綻しないための財源確保の取り組みとして、「国庫による負担」や「年金積立金(将来のための積み立て)の運用」などを行っています。
 
運用を行う「GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)」という機関については、聞いたことがあるかもしれません。また、急激な変動を避けるため、長期的収支を見通したうえで給付水準を自動調整する「マクロ経済スライド」という仕組みを導入し、さらに5年ごとの「財政検証」により検証を行っています。
 
つまり、少子高齢化という現実的課題をふまえたうえで、将来にわたる公的年金制度維持のための取り組みや対策を行っているのです。
 

被用者保険の適用拡大に向けた年金制度改正

公的年金制度を社会全体で支える仕組みとして捉える一方で、それぞれの事情で考える必要もあります。少子化により、今後、働く世代が減少するのは既知のことですが、継続的に社会保険料を納付する人材の確保も重要な課題となっています。その解決策の一つが、被用者保険の適用拡大と言えるでしょう。
 

パートなど短時間労働者の社会保険加入

2022年10月以降、段階的にパートなど短時間労働者の社会保険適用が拡大されています。会社員の配偶者の場合、被扶養者(扶養される人)に社会保険料の負担はありません。そのため、年収が扶養の要件である一定の基準を超えないよう働き方を調整するケースも多く見られます。
 
ただし、これまで社会保険加入の対象外であった方も、これからは就労要件や勤務先の事業規模などによって社会保険の加入対象となるケースがあります。
 
いわゆる「年収の壁」と呼ばれる基準は、その基準を超えることで社会保険料の負担が発生するもので、結果として手取り収入が減るという逆転現象が起こることもあります。
 
ただ、それをデメリットと捉えるのではなく、社会保険加入により厚生年金の被保険者となり、将来受け取る年金(老齢厚生年金)を増やす手段であると考えた方が、社会保険制度の主旨に沿っており、自分自身が豊かな老後を過ごせる可能性は高いと言えるでしょう。
 
厚生労働省年金局の「厚生年金保険・国民年金次号の概況(令和3年度)」によれば、第3号被保険者(会社員の扶養となる配偶者)の数は、減少傾向にあるようです。(※)
 
こうした背景をふまえ、2023年10月からは「年収の壁・支援強化パッケージ」という施策が始まりました。助成金など企業への支援を行うことで、パートやアルバイトで働く人が「年収の壁」を意識せずに働ける環境づくりを後押しするものです。
 

人材の確保や育成など企業努力にも期待

少子化により労働力が減少していくなかで、企業としても、人材の確保・育成や働き方改革、生産性の向上や業務の効率化はますます重要になるでしょう。
 
雇用の安定化などをふくめた経営基盤が整うことで企業収益が上がれば、賃金上昇も可能となり、結果として、社会保険料収入も増えることになります。働きやすい環境づくりや介護離職などの防止に向けた取り組みなど企業の努力も期待されています。
 

国民年金65歳まで45年間加入へ向けた検討

現行制度では、国民年金の加入は20歳から60歳までの40年間ですが、社会保障審議会では、5年延長し65歳までとする議論が始まっています。納付負担の期間が長引く一方で、現時点でも60歳以降働くケースも多いことから年金財源の確保、受給額水準の維持に効果はありそうです。
 
今後の議論の行方について、アンテナを張っておきたいものです。
 

まとめ

少子化により働く世代の減少、高齢化により受給世代の増加は、避けられない状況と言えます。しかしながら、社会保障制度という世代間で支え合う仕組みを維持するために、国も企業も、さまざまな取り組みを行っています。
 
社会情勢や経済状況などをふまえた年金制度改正は想定されるものの、公的年金制度そのものが破たんし、将来年金がもらえなくなるということは考えにくいでしょう。給与から差し引かれる年金保険料を負担と感じるかもしれませんが、こうした制度を理解したうえで、長期的視野をもって将来を考えたいですね。
 

出典

(※)厚生年金保険・国民年金事業の概況(令和3年度)
 
執筆者:大竹麻佐子
CFP🄬認定者・相続診断士