Aさんは、子どもや孫が高額の死亡保険金を一括して受け取ると浪費してしまうのではないかと心配しています。友人から「生命保険信託を活用すれば、死亡保険金の支払い方法を決めておくことができる」ということを教えてもらいました。生命保険信託の仕組み等詳しく知りたいと思い、FPに相談することにしました。

保険金受取人の範囲

生命保険(死亡保険)の保険金受取人は、原則、配偶者および2親等以内の血族(祖父母、父母、兄弟姉妹、子、孫など)に限られます。複数人を指定することもできます。
ただし、通常の生命保険では、保険金を「誰(2親等以内の血族以外)に」「どのように」「どの順番で」などの条件を付けることができません。高額の保険金を受け取った親族の中には、お金をうまく管理できない方がいるかもしれません。このような不安を解消できるのが生命保険信託です。
 
なお、通常の生命保険でも近年、団体や同性パートナーなどを受取人として認める保険会社も出てきました。たとえば、アフラック、かんぽ生命、FWD富士生命、オリックス生命、ソニー生命、プルデンシャル生命、第一生命、日本生命、明治安田生命、SBI生命、ライフネット生命、楽天生命、チューリッヒ生命など、多くの保険会社が同性パートナーなどを受取人として認めています。
 
また、三井住友海上プライマリー生命は「社会貢献特約」を導入し、同社が指定する公益団体を保険金等の受取人に指定できます。2020年時点では、日本赤十字、日本ユニセフ協会、京都大学iPS細胞研究財団が対象団体となっています。
 

生命保険信託のメリット

生命保険信託とは、生命保険の保険金受取人を信託銀行等とし、受け取った死亡保険金を保険契約者が生前に定めたご親族等に、あらかじめ決められた方法で支払うものです。
普通死亡保険金額3000万円のうち1000万円を生命保険信託に活用するなど、1つの生命保険契約の保険金額の一部を活用して生命保険信託を設定することも可能です。
 
生命保険信託の仕組みを詳細に説明すると、次のとおりです。
生命保険の契約者[委託者]は、生命保険会社と生命保険の契約を締結することになります。生命保険の契約者[委託者]は、信託銀行等[受託者]と信託契約を締結して、保険金請求権(金銭債権)を信託します。受益者や残余財産帰属権利者は契約時に決めておきます。また、信託銀行等[受託者]が管理する財産の一部払い出しや支払条件の変更等を行う[指図権者]を併せて決めておくこともできます。
 
生命保険の契約者兼被保険者が[委託者]が亡くなった後、信託銀行等[受託者]は、生命保険会社に死亡保険金を請求し、生命保険会社は信託銀行等[受託者]に保険金を支払います。信託銀行等[受託者]は、親族等[第一受益者]に金銭を交付します。
 
さらに、親族等[第一受益者]が亡くなった後、信託銀行等[受託者]は、[第二受益者]に金銭を交付することや、信託が終了した際に受託者の元に残った財産は、公益法人等[残余財産帰属権利者]に交付することも可能です。保険金を社会のために役立てることができます。
 
通常の生命保険では、受取人は原則として配偶者か2親等以内の血族に限られますので、亡くなった方の「想い」を十分実現できません。しかし、生命保険信託では、保険金の支払方法を「誰に」「どうのように」「どの順番で」というようにきめ細かく、柔軟に決めることができます。

<生命保険信託の活用例>

●親が亡くなった後、知的障がいのある子どもが受け取った保険金を管理してもらいたい。
●子どもが幼いうちは、保険金を生活費として子どもの世話をしてくれる人に毎月定額を振り込んでほしい。
●子どもがいないので、妻が保険金を受け取ることができない場合は私の妹に渡したい。
●お金の管理ができない高齢者を悪徳商法から守りたい。
●一度に高額の保険金を受け取ったら浪費してしまう心配があるので、保険金の一括受け取りを防ぎたい。

 

生命保険信託の留意点

生命保険信託を扱っている保険会社が少ないので手軽に加入できません。東京都・千葉県・埼玉県・神奈川県に限定しサービスを提供している保険会社もあります。
また、通常の生命保険と違い、信託の仕組みを活用するため、信託契約締結時費用、金銭信託設定時費用、金銭信託の管理報酬がかかりますので契約する前にしっかり確認することが大切です。

<手数料例>

A社の場合
(1) <契約時>信託契約締結時:5万円+消費税
(2) <死亡時>金銭信託設定時:信託金の2%+消費税
(死亡保険金を一括受取される場合:10万円+消費税)
(3) <受取中>金銭信託の管理報酬:年2万円+消費税
 
B社の場合
(1) 当初信託契約時:1万6200 円(税抜 1万5000 円)
(2) 【委託者の相続発生後】
金銭信託設定時:受領した死亡保険金に対し2.16%(税抜2.00%)
(死亡保険金一括受領時:10万8000 円(税抜 10万 円)
(3) 管理信託報酬:年額 2万1600 円(税抜 2万円)

これら費用のうち、信託契約締結時費用が保険会社により大きく異なります。ご自身で確認してみましょう。
 

出典

三井住友海上プライマリー生命保険 地球環境への取組み、社会貢献活動、文化活動への取組み
三井住友海上プライマリー生命保険 社会貢献特約指定公益団体のご案内 日本赤十字社
一般社団法人信託協会 生命保険信託
第一生命 生命保険信託「想いの定期便」
明治安田生命 MYトラストボックス
ソニー生命 生命保険信託のご案内(愛称:とどける想い)
*東京都・千葉県・埼玉県・神奈川県に限定してサービスを提供

FWD富士生命 『生命保険信託(未来あんしんサポート型)』の取扱開始について

プルデンシャル生命 生命保険信託
 
執筆者:新美昌也
ファイナンシャル・プランナー。