世の中には隠れた優良企業が存在しますがキーエンスもその1社。センサーを始めとするFA(ファクトリー・オートメーション)メーカーとして工場などの自動化を支援する企業です。消費者向けビジネスではないため知名度は高くありませんが、時価総額は国内首位のトヨタ自動車に次ぎ、ソニーと2位を争う企業です。キーエンスが優良企業と呼ばれるゆえんをひも解きながら、高業績を支える社員の働き方から福利厚生までを深探りしていきます。

7日〜10連休の長期休暇が年3回、平均年収2300万円と高い理由は?

キーエンスは年間休日数128日(2023年度)、週休2日制(年2回の土曜出勤あり)ですが、他社にはあまりない特徴として年3回の長期休暇制度があります。ゴールデンウィーク(GW)、夏季、冬季にそれぞれ7〜10日程度の連休を取得できます。なおリフレッシュ手当として、毎年GW前に全社員に10万円を支給され、家族がいればさらに上乗せされます。

「業務時間中は仕事に真摯に取り組む」、「限られた時間のなかで密度の濃い働き方をする」のがキーエンス流です。仕事を家に持ち帰ることや取引先への接待も禁止されています。公私の別をはっきりさせ、働くときはしっかり働き、休む時はしっかり休むメリハリのついた社風です。

育児・介護休暇制度や、育休からの早期復帰を目指す社員向けの支援も行っており、育児中の社員には子どもが3歳になるまでの短時間勤務制度があります。なお、社員の男女比は男性約75%、女性約25%となっています。

キーエンスは平均年収が高いことでも有名です。平均年齢は36歳と若手中心の会社にもかかわらず、平均年収はなんと約2300万円と高水準(2023年度有価証券報告書)。初任給は学部卒で25万円、修士・博士課程修了で27万円です(2025年新卒採用、大阪勤務・独身の場合)。

高年収を実現できる3つの理由

1つが高い営業利益率です。京セラや村田製作所などの同業他社と比較して高い営業利益率を上げています。通常、メーカーは自社で工場を保有し製品を製造しますが、キーエンスは工場を持たないビジネスモデルです。製品の研究開発に注力し、製造は外注することで工場にかかる人件費などの固定費を抑え、さらに製品は卸売業者を通さず顧客へ直販し、中間マージンをかけないことが高利益率の要因になっています。

【営業利益率の比較(2023年3月期)】

           売上高     営業利益     営業利益率  
キーエンス 9,224億円 4,989億円 54.1%
京セラ 2兆253億円 1,285億円 6.3%
村田製作所 1兆6,867億円 2,978億円 17.7%

出所:各社決算短信

2点目が業績に紐づいた給与体系です。年収のうち一定の割合が業績(営業利益額)に連動しています。そのため社員一人ひとりが経営に参画しているという意識をもって仕事に取り組んでいる点が特徴です。

3点目が時間に対する考え方。1人が1時間あたりにどれだけの付加価値を生み出したかという値(時間チャージ)を算出して時間も大事な経営資源であることを意識しています。プロジェクトを進める際にはこの値を含めた費用対効果を見える化し、より付加価値の高い仕事に費用と時間をかけるように取り組んでいます。

縁故入社はお断り、接待・贈答も禁止、目を見張る公正・公平な社風

このような高い平均年収を誇る会社ですから、相当厳しい成果主義や労働環境を想像するかもしれません。一方でキーエンスは評価制度において成果と同様に「プロセス」を重視しています。両者の因果関係を明確にし、良いプロセスによって良い成果を挙げた人を高く評価する制度を導入しています。「良いプロセスを全社に共有すること」も評価基準となっており、成果を全社で最大化する意識が生み出されています。

離職率については平均年齢が36歳と若いため高い値を想像するかもしれませんが、ここ5年間でみると5%前後です。平均年齢が若い理由は事業規模の拡大に伴い、直近10年間で積極採用を行ったためです。

健やかに働くためには健康管理も重要です。キーエンスでは毎年の定期健診はもちろん、35歳以上の社員やその配偶者についても人間ドック受診の全額補助があるなど充実しています。

自由に議論できる職場環境づくりも進められています。年齢や入社年次にかかわらず、自分の意見を遠慮なく言えることを重視。会議では役職などで席次を決めずに来た順に座る、部長や課長などの役職名ではなく全員が「さん」付けで呼び合うなど公正・公平な風土が根付いています。その証左に役員や社員の3親等以内の入社は不可、取引先との接待や贈物は禁止など明確なルールがあります。

基本的な福利厚生として雇用・労災・健康・厚生年金などの各種社会保険完備、時間外手当、地域住宅補助、通勤手当などの手当も充実しています。また、一般の住宅を会社契約にする借上住宅制度や運用方法を自分で決める退職金制度(確定拠出年金)も導入しています。

教育制度も充実しています。責任者として業務を任せ、将来のリーダーを養成するMDP(Management Development Program)制度を始め、元の所属を維持したまま一定期間、他部署で業務を経験するCDP(Career Development Program)制度では、専門外の仕事を経験することで視野を広げる、新たな能力を発見するなどを目的としています。最近では海外現地法人へ赴任する海外CDPも増えています。

従業員満足度調査は70%超を達成、厳しくもオープンな会社で成長

なおキーエンスは社会貢献活動の一環として学生に対する奨学金制度を運営していますが、こちらも界隈では有名です。年間約600人程度に月額10万円(大学4年間で総額400万円)を支給しており、運営するキーエンス財団で学業成績、経済状況、小論文などを基に選考しています。この制度は意欲ある学生からの注目度が高く、積極的な社会貢献の一端といえるでしょう。

従業員満足度についても、組織とのつながりを測る調査であるエンゲージメントサーベイで目標とする70%以上のスコアを達成するなど前向きな結果が出ています(2023年)。類まれなる高収益企業の秘訣は高水準の給与体系、長期休暇などの福利厚生で社員に還元する、オープンで公明正大な社風のもと、実力を発揮できる環境にありそうです。