東日本大震災と東京電力福島第1原発事故発生後に福島県新地町の若者が中心となって開催し、町民を元気づけた企画が新しい形となって再び動き出す。町商工会青年部が8月24日、「しんち観海(かんかい)フェス」をJR新地駅前の観海堂公園で初めて催す。津波被害の爪痕がまだ生々しく残っていた2011(平成23)年8月に当時の青年部員らが町内で開いた「やるしかねぇべ祭」は2018年まで8回続いた。「地域再生は自分たちの手で」。先輩の情熱を現役部員が受け継ぎ、復興の象徴でもある駅前をにぎやかにする。


 町商工会青年部長の斎藤成伸さん(40)と副部長の斎藤繁さん(36)は6日、観海堂公園で会場内の配置などを確認した。公園は震災後の駅前再開発で整備され、新しい新地駅や町文化交流センター(観海ホール)に隣接している。「新生 新地」を象徴する場所での開催に、2人は「偉大な先輩が築いた土台を生かし、町民が喜ぶ事業にする」と決意する。

 2度の福島県沖地震や新型コロナウイルスの感染拡大で青年部主催の誘客事業はここ数年、できずにいた。町民から「以前のようなイベントを開いてほしい」との声が寄せられるようになっていた。青年部の先輩たちは震災後の地域づくりに情熱を注いだ。「自分たちも町民から愛されるイベントをつくりたい」との気持ちが斎藤成伸さんの中で大きくなり、仲間の同意を得て「しんち観海フェス」の開催を決めた。

 震災発生後すぐに先輩たちが始めた「やるしかねぇべ祭」は有名アーティストを招いたライブやカブトムシのつかみ取り、花火打ち上げなど、誰もが楽しめる行事に進化し、夏の風物詩となった。初回に3千人ほどだった来場者は最終回の2018年には約4万8千人に増えた。終了から6年、青年部の顔触れはだいぶ変わったが地域を愛する思いは先輩たちと同じだ。津波被害から再生した駅前を舞台に笑顔の輪を広げる。

 斎藤成伸さんは宮城県亘理町出身。結婚を機に2011年1月に新地町に移り住んだ。斎藤繁さんは相馬市出身で宮城県岩沼市職員として13年間勤務し、結婚を経て妻の実家がある新地町に移った。「自分たちは外から町を見てきた経験があるからこそ、新地の良さが分かる」。多くの人にも新地の魅力を改めて感じてほしいと願う。

 イベント当日は、子どもたちが絵を描いた透明のフィルムを夜にライトアップする。射的コーナーも設け、屋台風の夏まつりを演出する。ステージ発表や地元産グルメの販売コーナーなども設ける。斎藤成伸さんは「徐々に規模を大きくしながら、町に根付くイベントに成長させていく」と力を込める。

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 町内では海を舞台にした町主催のイベント「遊海(ゆかい)しんち」が開かれてきた。震災による中断を挟んで2019年に9年ぶりに復活。2020年からコロナ禍で再び中止となったが2022年に再開した。今年は8月3日に開かれる予定。