福島市出身の力士「大波3兄弟」の長男若隆元(32)は幕下17枚目まで番付を上げ、大相撲夏場所(12日初日・両国国技館)で十両昇進に向けた正念場の土俵を迎える。次男の関脇若元春(30)、三男の十両若隆景(29)に続き、関取(十両以上)となれば、史上初の3兄弟同時関取の夢が実現する。若隆元は「一場所一場所が勝負。その積み重ねだけ」と足元を見つめ、平常心で土俵に立つ。
 息を荒くし、全身からは吹き出るように汗が流れる。荒汐部屋で8日、稽古に臨んだ若隆元は幕下3枚目の大青山らと申し合いを重ねた。脇腹にはテーピングを巻き、鼻血を出しながらも、決してその手を緩めることはなかった。
 初土俵から今年で15年。関取には何度も挑戦してきた。7戦全勝で十両昇進が確実となる幕下15枚目以内には、これまでに計12場所在位。最高は2018年9月場所の7枚目で、常に幕下上位を維持してきたが、あと一歩が届かなかった。
 幕下26枚目で迎えた昨年の11月場所では、首を負傷。手足にしびれが出て休場を余儀なくされ、今年の初場所は約6年ぶりに三段目まで落ちた。それでも、初場所では「これ以上番付は下げられない」と土俵に立ち、勝ち越して1場所で幕下復帰を果たすと、先場所では6勝1敗で勝ち越し。再び幕下上位まで番付を上げてきた。
 父大波政志さん(57)=元幕下若信夫=は、そんな長男について「幕下で上位を張るのも実力がないと難しい。もう一押しのところまで来ている中で、とにかく一生懸命、土俵に立つ長男を応援することしかできない」と思いを語る。
 稽古場では、若手力士の指導役を担い、部屋の精神的支柱となっている若隆元。兄弟3人のまとめ役でもある。頼れる長男は「稽古場に近い状態で本場所で相撲を取れればいい。勝ち越して、6月の福島の合宿にいきたい」と静かに闘志を燃やす。(佐藤智哉)
 同時なら角界初
 過去に3兄弟で関取になったのは1980〜90年代に活躍した「井筒3兄弟」がいる。長男で元十両の鶴嶺山と、関脇まで昇進した次男逆鉾、三男寺尾だ。ただ3人が同時に十両以上にいたことはなく、3兄弟同時関取となれば、角界で初となる。