全国で「町の本屋さん」の減少がここ最近目立つようになった。最盛期から半減したとも言われるが、人口減少が進む広島の中山間地域、庄原市では、その流れに逆らうように新たな書店が誕生する。人が集まれる「町の本屋さん」をめざす店主の思いを取材した。

「経営面だけ考えると厳しいが、できることを証明したい」

広島・庄原市で、次々と運びこまれるのは、新しい本が詰まった段ボール。

総商さとう(運営会社)・佐藤友則社長:
雑誌、コミック、文庫、それから実用書とか…ざっと金額で言うと2000万円くらい

(Q.2000万円ですか?結構ですね。)

佐藤社長:
本屋さんをオープンするとなると、小さな店でもそれくらいになる

2023年に2つの書店が相次いで閉店した庄原市中心部に新たにオープンする「町の本屋さん」。周辺で曾祖父の代から書店を営んできた佐藤友則さんが旗振り役だ。

佐藤社長:
経営面だけを考えると、やれない業種になっているのは確かですね

(Q.それでもやると?)

佐藤社長:
それでもやろうと思ったし、それでもできるんだということを証明する役割が自分にあると思っています

2つの書店の閉店後、庄原市中心部は新刊書店の空白地帯となっていた。全国的に見ても書店は、この20年間でネット販売の台頭やデジタル化のあおりを受け半分にまで減少。そんな中、佐藤さんは中山間地域の人口およそ3万人の町に新たに店を出し、業界の「重苦しい雰囲気」を打ち破ろうとしている。

「本屋を町の再生のきっかけに」

総商さとう(運営会社)・佐藤友則社長:
地域に本屋があるということが、きっと10年後20年後、新しい世の中をつくっていく子供たちの礎になると思う。本屋の再生だけではなくて、町の再生だとか、町がもう一度元気になっていく…そういうきっかけになる本屋になればいいなと思った

森林浴のように「本」を優しく「浴び」てもらいたいとの願いを込めて店の名前は「ほなび」にした。「再び町ににぎわいを…」その思いを形にするのは、佐藤さんが経営する別の書店で働いてきた20代のスタッフ。

「ほなび」嘉壽茉莉さん(20):
スマホの情報ってスマホを持っている人だと全員が受け取れる情報なんです。だけど、本って出た冊数分、1000冊刷ったら1000人の人しか読めないんですよ。1000人の人しか手元に持てないんです。そういう貴重な情報とか、貴重さというものが本の一番いいところかなと思う

「ほなび」原田彩花店長(22):
本に会いに来てくれたらいいなと思います。本にも本を売るスタッフにも会いに来たいと思ってもらえるように頑張りたい

佐藤さんが経営する庄原市内のほかの書店は、故障した家電の相談など、地域の高齢者の困りごとを聞く“何でも屋さん”のような存在。また、「学校に行かなくなった子どもを働かせてほしい」という要望を聞き、店では、同じ境遇の若者らが次々と働くようになった。

地域の人たちがボランティアで開店準備

4月末のある日、開店前にも関わらず地元の人たちが店に集まってきた。「本屋さん」の開店を待ちきれない子供から大人までが噂を聞きつけ、ボランティアとして本を棚に並べる手伝いに来ていた。

本が大好き小学4年生:
こういうことが普通だったら、できないから、貴重な経験だと思って、やりたかった

書店が憩いの場だった60代:
みんなが見に来てくれればいいかなと。まず第一に自分が見に来られるなという喜びです

集まった町の人たちは、本を大きさとジャンルごとに選別しながら棚に運び入れていく。子供たちに本にふれるきっかけの場を作ろうと、絵本などの児童書を多く取り揃えた。

本棚は、地域の人が一冊一冊に思いを込めて並べた本で埋まり、一気に「町の本屋さん」らしくなった。

総商さとう(運営会社)・佐藤友則社長:
町の人たちの思いや熱量は想像以上でした。一回地域からなくなった本屋さんを応援したいという気持ちの表れだと思います

「ほなび」・原田彩花店長(22):
「この本屋が危なくなったら、私たちで支えようねって話しているんよ」と言ってくれる人もいて、嬉しいな、お応えしなきゃなと思った

「ほなび」のオープン予定日は5月10日。中山間地域に書店という文化の灯をともし続ける挑戦が始まる。

総商さとう・佐藤友則社長:
最初だけよかった、ではなくて、だんだんとよくなっていく。そうでないといけないと思いますし、地域の人と一緒によりよい店をつくっていくのは、オープンしてからですね

人口3万人の町で、地域の人たちの期待を力に、人が集まる新しい形の“町の本屋さん”の挑戦が始まる。

(テレビ新広島)