注意

本記事にはネタバレが含まれます。閲覧にはご注意ください。

今回はRabbit & Bear Studiosがデベロッパーを、505 Gamesがパブリッシャーを担い、2024年4月23日にWindows PC(Steam/ Epic Gamesストア/ GOG.com/ マイクロソフトストア)/ PS5/ PS4/ Xbox One/Xbox Series X|S/ ニンテンドースイッチ向けにリリースした古き良きRPG『百英雄伝』をご紹介します。

なお執筆にあたり、PC版の先行プレイ用コードを頂いてプレイしています。そのため発売後の内容と一部異なる場合があります。

『百英雄伝』とは?
本作は、様々な文化歴史そして種族が集まるオールラーン大陸を舞台に、運命に翻弄されながらも懸命に生きようとする人々を描いたRPG。主人公である青年ノアが諸国連合の警備隊に入隊するところから、物語は少しずつ進んでいきます。

かつて『幻想水滸伝』シリーズを手掛けたベテラン組が開発に携わっており、オーソドックスなJRPGスタイルかつ王道路線の物語をゲームの中心に据えて、全体的に古典的名作たらんという意気込みを感じさせます。

しかもそこへ新しい試みとしてプレイアブルキャラ100人(声とセリフ付き!)という物凄い頑張りを見せており、連鎖的にイベント数が増えていくので、ミニゲーム然り全体的な密度としては遊べる要素がたっぷりの大変濃ゆいプレイフィールでした。

一方でこれは表裏一体の致し方ない部分でもあるのですが、古き良きのゲームデザインを貫いた結果、特に制限の多い序盤はゲームテンポが遅くなってしまっており、ある程度の装備やキャラが出揃うまではプレイ時間がいたずらに引き延ばされている印象も拭えません。

そして移動速度、戦闘バランス、ユーザーインターフェース(UI)など全体的に細々した部分で小さなストレスが積み重なり、プレイ中に何度かコントローラーを置いてしまったのもまた事実。しかしそうであっても筆者個人としては、本作への好感度はむしろ高めで、開発のむっちむちに詰まった愛情がビシバシ伝わってくる作品というのが何よりのグッドポイントだと感じています。

ともあれ執筆中も、いくつかの不具合への調整が入ったので、今後のさらなるアップデートにも期待しつつ早速やってまいりましょう。

操作・設定・言語について
本作の操作は、キーボードおよびコントローラーに対応しています。どちらで遊んでもプレイに支障はなかったので、お好みで選ぶとよいでしょう。なおキーコンフィグの設定は固定でした。

その他設定項目についてはグラフィック、サウンドなどオーソドックスな項目が並びます。難易度設定については、難度変更以外に縛りプレイ用の項目が用意されていますが、場合によっては変更できなかったり、元に戻せなかったりするので注意が必要ですね。

言語については表示、音声ともに日本語にバッチリ対応。ただしキャラクターによって声が小さかったり、大きかったりと統一されておらず、またBGMと効果音も場所によっては音量がまちまちでした。おそらくこれらは記事執筆時点における不具合だと思いますが、今後のアップデートで解消されることを願います。

本編開始
さあ始まりました『百英雄伝』。冒頭からもうすでに何から何まで物凄く豪華な演出が畳み掛けられており、そうそう古き良きRPGってこんな感じだったよねと気分を高めてくれます。

ちなみにオープニングでちらりと映る『百英雄伝 Rising』の三人組も最高です。CJがちょっとお姉さんになっとる!

本作は、ワールドマップのあちこちに配置された村や街などの拠点、ダンジョンを渡り歩いていくことを基本に進行していきます。そのため各地のマップはなかなかの作り込みになっており、そこに住まう人々との会話、新しいキャラの加入など見どころが盛り沢山。正直、あちこち探索するだけでもだいぶ楽しいですね。

個性豊かなキャラクターたち
そんな訳で主人公ノア青年と警備隊の面々が顔合わせ。物語の軸にいるこの初期メンバーが、やはり一番愛着が湧くキャラクター達だと思います。

登場するキャラクター達は個性豊かで、そのセリフもバリエーションががっつりと用意されています。しかも様々な声優さん達を贅沢に起用という豪華さ。このバリエーションの豊富さが本当にすごい。

例えばイベント中にちょっとした選択肢が表示され、それにより周囲のキャラがそれぞれ反応を見せるのですが、それも当然フルボイス。その時その場にいるパーティーメンバーはプレイヤーによって異なるはずなのに、しっかりセリフが用意されているキャラもいて、筆者はただただ開発チームの熱量に圧倒されておりました。

なんならパーティー編成時にも小ネタとして台詞を挟んでくることもありますからね。言葉の端々から「主人公のノア青年が気になっていること」が伝わる年頃の乙女リャン先輩が大変可愛らしく、そして暑苦しいキャラ(褒め言葉)のコゲンを煙たがるノアの反応もまた面白い。

仲間に迎えるキャラクターは多ければ多いほど良く、パーティメンバーの選択肢が広がるだけでなく、様々なサポートスキルのアンロック、後々利用可能になる拠点における施設充実などでも活躍します。彼らはたいていは会話イベントを経て仲間になりますが、一部のキャラは、アイテムを手渡すなど特定の条件が必要になってくることもあります。

ちなみに村人などのNPCキャラ達もそれぞれ悩みのタネを抱えていたりと台詞がそこそこ用意されています。そんな中で個人的に面白かったのは、モブみたいな外見の人物でも格好いい固有の名前を持っていたりすることでした。

これらは、クラウドファンディングの出資者の名前が与えられたものですね。戦争モードでもそういった名前が並ぶので、粋で面白い試みだと思います。とはいえあまりにも脈絡のない英語名が飛び出した時や、または動物がランダムで「名前」を持っているのを見つけた時などは、流石に「表示バグか……?」と一瞬たじろいでしまいました。

マップと探索
ここからはマップと探索についても触れていきましょう。ワールドマップでの探索はストーリーの都合上、ある程度の進行まで移動先がかなり制限されています。そのためテレポート機能を手に入れ、あちこち自由に飛び回れるようになってようやく、前述の「探索の楽しさ」をより味わえる感触でした。

とはいえこの探索、全体的に見れば間違いなく楽しいのですが、ノア青年の基本移動速度自体が遅いため、どうしても時間がかかるのが少々辛い部分だったりします。一応、走るポーズで移動はしてくれるものの、そのスピードがどうしても遅く、広い街や入り組んだダンジョンなど、移動距離が長い場所ではストレスになったりもしましたね。

また途中で入手する「ダッシュブーツ」なるアクセサリーを装備することで移動速度は上がるものの、そのおかげで装備枠が一つ潰れてしまうのがネック。しかも装備したキャラがパーティー内にいても、前衛後衛から同行者へ移すと強制的に元の遅さに戻ってしまうのも痛し痒しでした(サポートキャラの加入で多少は改善するものの)。

個人的な希望になってしまいますが、歩行へ切り替えるボタン機能の代わりに、本来の意味におけるダッシュ機能を追加するか、または枠を潰さない形での移動速度アップ装備が望ましいですね。

一方で、ワールドマップのどこへでも一瞬でテレポートできる「ファストトラベル機能」が解禁された時、そのアイテムは「大事なもの」に追加され、装備枠を消費することなく機能が使用可能になりました。ダッシュブーツの扱いもそんな感じでお願いしますよ……!?(小声)

とはいえそのテレポート自体が、普通にプレイして10時間以上でようやく解禁というタイミングだったのは気になる部分。展開の都合上難しいかもしれないことは承知の上で、もっとゲーム序盤から使用させてほしかったですね。

拠点や街のマップ構造は、ショップ、鍛治屋、宿の立地がまとまっていたり、バラけていたりとデザインがまちまちです。そこに異国情緒めいたゲーム世界の設定を見出すことはできるものの、実際のプレイフィールとしては、ジグザグに進まないと辿り着けない拠点の宿屋など利用頻度の高い施設へのアクセスにやや不便を感じました。

またそれに関連して、パーティーメンバーの編成(前衛後衛の配置ではなく、メンバー自体の出入り)、ルーン装備の付け外しは、メニュー画面からではなく、拠点または宿屋に戻らないと行えないというのも二重にストレス。サポートキャラによってはセーブポイントで編成などできることは承知しつつも、利用頻度の高い機能を散らしてマップに配置する意図が見えなかったですね……。

さらに少しズレた指摘であることは承知しつつ、マップのUIまわりはもう少し整えることができそうです。現状では目的地と現在地点からの方向が表示されても、ミニマップ自体が小さいため、位置関係が把握しにくく、結局何度も立ち止まって詳細マップを開くことになります。

しかもその詳細マップでは、拡大縮小しても建物アイコンが小さいままだったり、そもそも建物名がリスト表示されなかったりするため少々使いづらい仕様でした。ワールドマップの地名一覧も、訪れた順(物語の展開順)に記載されるよりは、五十音順にするか、地域ごとに大別するなどして並べた方が、ぱっと見て探しやすいような気がします。

戦闘
さて本作のバトルシステムについても触れていきましょう。6人のメインメンバー+1人のサポート+3人の同行者という形で編成されるパーティーで、ターン制のランダムエンカウントバトルをこなしていきます。

このメンバー編成はかなり大事な部分で、各キャラクターが持つ射程距離と、前衛および後衛のポジションの関係性によくよく注意する必要があります。

たとえば、我らがアイドル(筆者が勝手に思ってるだけ)であるミオ姐さんの攻撃射程はS(ショート)レンジなので、前衛に置いてはじめて敵の前衛を斬ることができます。もし誤って後衛に置いてしまうと、最悪の場合、主要な攻撃手段が使えないまま敵からのダメージだけは受けるという状況に陥ることに……!

彼らに細かく指示を出すも良し、作戦を決めて任せるもよし、すべてキャラAIにおまかせで戦闘をするもよしと、戦術はある程度プレイヤーの自由に決めることができます。個人的には、ギミックのあるボス戦以外はおまかせで進めてもそこまで問題はない体感でした。あ、でも回復薬や復活薬をそのタイミングで使うのはやめてリャン先輩あっあっあっ。

攻略済みダンジョン等でない限り、戦闘でレベルは比較的早く上がっていき、また未育成のキャラについてはパーティーに組み込むと、現メンバーとのレベル差がすぐに埋まる勢いでガンガン成長していきます。100人のプレイアブルな英雄がいることを考えると、新規育成の手間を抑えたナイスデザインだと思います。

筆者の体感ではありますが、基本的には攻略済みの場所だと経験値が極端にしょっぱく、一方で新しいダンジョン(またはワールドマップ)では経験値がガンガン入りレベルがどんどん上がっていきました。

そのためキャラクターを育てたい場合、攻略済みの場所を再び訪れるよりは、先に進み、その時点における強い雑魚達(とんでもなく矛盾した表現)を相手に戦ったほうが効率的でしたね。まあ消し炭にされることもしばしばですが……。

ちなみに物語の進行によっては、愛着を持ったキャラや育てたキャラが途中離脱する期間が発生することもあるので、ある程度は好みを脇において「キャラクターの戦闘力」に注目して1軍、2軍をリストアップしておくと良いかもしれません。

また主人公ノアや、その時点におけるストーリーの中心人物がパーティーメンバーに編入必須ということもあり、そういった部分でも戦力を支えるキャラは複数用意した方が良いでしょう。特定キャラの同行が必須だけれど、ノアたちも外せない……!という場合には「同行者」という、いわゆる控えという形で連れていくこともできます。

この「キャラクターが多すぎてパーティーメンバーがなかなか決まらないよー」という嬉しい悲鳴。こんなにありがたい話がありましょうか。やはり本作一番のプレイバリューはこの選べるキャラクターの多さ、それに伴うイベントの多さにあると思います。

攻撃手段は、射程に応じた通常攻撃に、本作の世界設定におけるキーアイテムでもある「魔導レンズ」を用いたスキル技と魔法、そしてアイテム使用によるものがあります。通常攻撃と魔導レンズ使用技の強さは、それぞれ各キャラクターがもつ能力値と装備品に影響を受けますね。

個人的に好きなのは、小ネタもしっかり用意されている英雄コンボ。リャン先輩のパンチに巻き込まれて星になるノア青年の演出を見た時は、思わず吹き出しました。こういうの大好き。ただしポジショニングによって発動できないこともあるので、位置関係には注意が必要です。

ところで話が脇道にそれますが、戦闘中にカメラがぐりんぐりん動く演出は滅茶苦茶格好良いものの、ずっと見ている側としてはちょっと酔いかけたり。あとは画角の外でいつの間にか倒れてるパーティメンバーがいることもあるので、可能であれば戦闘中のカメラワークはデフォルトの位置で固定か、または動くにしても、もう少し引いて全体を収めるような形にできると嬉しいところです。

ちなみにこのカメラワーク、ダンジョンを探索中も奥まった場所ではカメラがぐいっと回り込んだり、ズームイン/ アウトしたり、画面の奥側のほうがボヤけたり(これは深度を設定で変更可能)と演出優先で結構動くので、酔いやすい人は注意したほうが良いかもしれません。

閑話休題。RPGにおいて筆者は、とりあえず力こそパワー(?)の発想で、攻撃力を重視したキャラを育成しがちなのですが……こと本作においては、装備品で防御力を伸ばすことにも気を配りました。それに加えて可能であれば体力も伸ばしつつ、属性に合わせた采配を振りたいところ。

というのも本作、難度ノーマルでも結構シビアな戦闘の塩梅で、探索中に発生する雑魚キャラとのバトルでもダメージ量が多く、残りHPがカツカツになりやすいのです(一度攻略したダンジョンの再探索などで自分たちが既に強い場合は除く)。また「残りHPが少ないキャラ」が狙われやすいのか、1人のキャラに攻撃が集中してあっという間に溶かされる場面もよくありました。

防御の固いタンク役を前線に並べたのにもかかわらずミオ姐さんが執拗に狙われるんですけど!彼女が何をしたっていうんですか!!やめてください!!!ちょっと腕のたつ凛とした美人剣士が複数のモンスターに蹂躙されて云々な二次創作が捗ってしまいましてよ!?(錯乱)

またラビットウィザードなどの範囲攻撃や、前衛後衛を巻き込む貫通攻撃を得意とする敵が複数現れた時なんかは、パーティーメンバーにもよりますが、相手の1ターンでこちらは全滅寸前という地獄絵図も起きがち。倒れた仲間に復活薬を用いても次ターンでまたすぐ倒されるという無限ループに入るので、とりあえず捨て置いて、生き残ったメンツで凌ぎ切ることもしばしばでした。

そのため、個人的には雑魚戦でも「敵がプレイヤーを全力で倒しにくる難度」は大好きなものの、本作の場合においては、できれば回復手段のコストパフォーマンスが改善されたら、さらに遊びやすくなると感じました。宿屋だけでなく、セーブポイントでも体力とMPを回復できたらな……!

回復アイテムはそこそこ安い金額で購入できるし、ダンジョン攻略中も割とまとまった数を入手できるのでバンバン使いたいのですが……所持数制限により複数のアイテム枠が消費され、カバンの容量を圧迫しがちなのです。これがなかなか頭痛の種だったり。

「やくそう」を例に説明しましょう。この回復アイテムは、1つのアイテム枠で最大6個まで所持可能なもので、もし18個を所持しようとしたら3つのアイテム枠が潰れることになります。初期段階においてカバンの容量は30のアイテム枠なので、この時点で残りは27枠ですね。

なあんだ結構ヨユーあるじゃない、と思うことなかれ……そこへ他にも装備品(キャラが装備したものは除く)やらドロップ品やらが放り込まれるので、ダンジョン攻略中たまに容量オーバーで泣く泣く一部アイテムを捨てる場面もありました。まあ後々テレポートが解禁されるということが序盤にわかっていれば、宝箱などをあえてスルーして「後から回収に向かう」というメタ戦法も選べるかもしれませんが……!

じゃあ回復魔法覚えたキャラクターを連れて資金もアイテム枠も節約すっべ!とすると……今度は割とすぐにMP切れを起こしてしまい、その回復アイテム「魔力のしずく」は2個で1枠を消費するので、これあんまり状況変わってないスパね?(読者の怒りを誘う安易な語尾)となります。

いずれにせよ回復アイテムを大量に持ち込んでも、ダンジョンのマップ構造は入り組んでおり、また移動距離もそこそこあるため、道中の雑魚戦で消耗し、ボス部屋にたどり着く頃には在庫がほぼ底をついた状態ということもしばしばでした。

記事執筆時点においては、「エンカウント率が低い現象」のおかげである意味助かっていたのですが……これでもし本来想定された確率に戻ると、たぶん道半ばでチョコレートみたいに溶けちゃうんじゃないでしょうか(遠く青空を見つめる目)。


……と、執筆しているところでエンカウント率をはじめとする修正パッチが配信されました!実際に確認してみると、同じ移動距離でも敵との遭遇回数が少し増えていた体感です。良かった、この程度であれば溶けたチョコレートにならずに済みそうです。

話を戻しましてボス戦は、集団で集中砲火浴びせてきがちな雑魚戦と比べると、体力の多さと攻撃の重さというくらいで、個人的には理不尽に苦戦した印象はありませんでした。むしろ、程よくヒリついたバトルを楽しめる良い塩梅という感触。重ねて申し上げますが、本当にそれまでの道のりが大冒険なのですよ……!

一部のボス戦は少しひねりの効いたデザインになっており、それは主に「ギミック」という形で用意されています。例えばこちらのボスは良い例でしょう。ターン終了ごとに地中へ潜り、次ターンで左右どちらかから飛び出してくるので、そこを狙ってギミックを作動させることで大ダメージを狙えるというもの。

筆者の見落としでなければ、このボスはかなり運の要素が強かった体感です。まさか3回連続で右側から飛び出してくるとは思わなんだ。全部外しましたよ。変にメタ読みを行おうとした結果の大失敗。自分は絶対にギャンブルをしてはいけない人間であると改めて認識した瞬間です。

ところでこれだけはどうしても渋い部分として指摘しなければならないのが、メニュー画面の使いづらさです。UIのデザイン自体は標準的な範囲なので、そこまで問題とは思いませんが、各情報タブを切り替える等の際に、読み込みのせいかワンテンポ待ち時間が発生するのが地味にストレスでした(全部のページを一度開いて、一通り読み込みが終わると早くなるものの)。

たかだか1秒程度のズレなので大したことないと最初は思っていたのですが、ゲームに慣れてきた頃になると、装備を着脱したい、ステータスを確認したいといった「パパっと」操作したい時に、この微妙な一拍が挟まるおかげでもどかしさを感じてしまうのです。どれも利用頻度が高い項目ばかりなだけに、このもどかしさは少々辛い。これについても今後のアップデートでの改善を期待したいところですね。

物語
本作の軸となるストーリーの進行は、それによって解放されるゲーム要素にも関係してくるので大変重要です。王道路線を突き進む古き良きスタイルは個人的に大好物。本作をプレイしているときは小説のページを1枚ずつめくるような楽しさを感じました。

そういう流れのなかで大きな街を歩いていると、ファンタジー感あふれるBGMも合わさり、まるで夢の国めいたアミューズメントパークで一日を過ごしているかのような心地良さがありましたね。

ただ個人的に、序盤におけるノアとセイの関係性と物語の展開についてはやや急なものを感じています。家名に恥じない立派な軍人たらんと一線を引いた言動を心掛けるセイが、最初のダンジョンを攻略中、爆速で心の氷を溶かしてノアと親友レベル(?)にまで仲良くなるのは良いでしょう。

しかしその後、敵味方に分かれて刃を交えなければならなくなった際、ボーカル付きの壮大なBGMが流れて「一騎打ち」という専用バトルを行う演出まわりは、少々過剰で強引なものを感じました(物語後半ならともかく)。

たしかに2人はお互い認め合う存在にはなっていたかもしれません。しかしセイがパーティーを離脱してから再び出会うまで、彼に対する思い入れが強くなるタイミングが少ないため、筆者の中で「ここまでの重さを持った関係性だったかな?」という認識のズレが生じてしまい、それまで順調に深くなっていた没入感にストップが掛かってしまったのです。

贅沢なことを言っているのは承知の上で、可能であれば、セイを操作するパートを序盤に入れるか、彼のパーティーメンバー加入期間を増やすかして、体感時間を得られたらもっと良かったかもしれません。ノアとの間で友情が育まれていく様子を、初期ダンジョン攻略中のイベント会話(ノアの村での邂逅しかり)だけで終わらせず、もう少しじっくり味わいたかったですね。

また物語のアプローチから派生しますが……本作におけるグッドポイントのひとつでもあるイベント数の多さは、一方で、特にゲーム序盤だと「イベント後に少し移動したら別のイベントがすぐ始まる」というテンポの悪さにも繋がっていました。

おそらく回復アイテム使用などのために、あえて用意されたイベントの間隔であるとは想像できるものの、セーブができないタイミングであることが多く、結局は最終的に自由行動ができるところまで通しでプレイしなくてはならないのがストレスでしたね。

ここらへんは、イベント間でオートセーブが行われたら軽減される問題なのではないか、と感じます。現状オートセーブは、ワールドマップ/ ダンジョンの切り替えのタイミングだけなので……。

なおセーブは、例え来た道を戻ることになったとしても、セーブポイントで小まめに行うことをおすすめします。ボス戦後にイベントを経て別の戦闘が始まることがたまにあるので、その間に急いでセーブポイントまで走り、万が一死亡した場合のボス戦やり直しを回避すると良いでしょう。

ところで物語が展開する中では、前述の特定キャラとの「一騎打ち」や、集団によるリアルタイムの大規模戦闘を行う「戦争モード」が挟まれます。これらは通常のバトルシステムとはまったく異なる体験が楽しいのですが、どちらかと言えばイベントとしての演出的な意味合いが強い印象でしたね。

また、ストーリーが進んで拠点が手に入ると、施設を新しく建築していく都市開発(?)の楽しみが出てくるのですが、こちらは「やりこみ要素」としての印象が強いかもしれません。施設の建設にまず資源を投入する必要があり、そしてさらに利用可能にするために、特定のキャラクターが仲間になる必要があるなど、準備段階の多さが理由となっています。

最初は「牧場などあるのに、肝心の道具屋がアンロックできない……!」と、わざわざ違う街まで出かけてアイテム等を購入しなくてはならないことに絶望していたのですが、テレポート入手以降は拠点以外の場所へアクセスが楽になったのでほぼ解消されましたね。結果的に、いまは拠点の拡充はそこまで力を入れなくても良いかな、と建築をサボり気味になった筆者でしたが……!


筆者は『幻想水滸伝』シリーズを未履修であるため、もしかしたら今回感じたストレス部分のいくつかは「おめえそれはシリーズのお約束だから良いんだろうが!」と右の頬を張られるものかもしれません。

しかしそれでも、今度は左の頬を張られたとしても、やはり思わずにはいられないのは、いわゆる「古き良き」とされる往年のRPG作法が本作においては残念ながら「遊びやすさ」をぎこちなくしているのではないかという点です。

筆者もたしかに「うんうんむかしのゲームってこんな感じだったわよね」と懐かしく思いましたが、同時に本作で感じた不便さについても「懐かしさ」の中へ格納して、どこか自分を納得させようとしている心の動きを自覚しました。

もちろんなんでもかんでも流行りの新しいシステムを取り入れてどうにかしろ、ということでは決してありません。ただ本作は、せっかく魅力的な登場人物とイベントが多いことですし、快適なプレイに重きをおいたストレスフリーなレベルデザインの方がゲームが持つ魅力を遺憾なく発揮できるのではないかな、と感じています。

ともあれ、筆者が本作に対してもし点数をつけるなら、全体的に10段階評価で7というスコアというところでしょうか。良いところに注目した加点式だと8で、惜しいところに注目した減点式だと6、といった感じ。ただしその惜しい点というのは、アップデートでいくらでも解消することができそうな部分だとも思います。改めて今後の改善にも期待してまいりましょう。

タイトル:『百英雄伝』
対応機種:Windows PC(Steam/Epic Gamesストア/GOG.com/ マイクロソフトストア)/ PS5/ PS4/ Xbox One/Xbox Series X|S/ ニンテンドースイッチ
記事におけるプレイ機種:Windows PC
発売日:2024年4月23日
著者プレイ時間:18時間
サブスク配信有無:Xbox/ PC Game Passに対応
価格:Steam…通常版 5,680円、デジダルデラックスエディション 8,700円
   Epic Gamesストア…通常版 5,880円、デジダルデラックスエディション 8,700円
   GOG.com(米ドルのみ)…通常版 49.99USD、デジダルデラックスエディション 79.99USD
   マイクロソフトストア(PC)…通常版 5,830円、デジダルデラックスエディション 8,690円
   PS5/ PS4…通常版 5,830円、デジダルデラックスエディション 8,690円
   Xbox One/Xbox Series X|S…通常版 5,830円、デジダルデラックスエディション 8,690円
   ニンテンドースイッチ…通常版 5,830円、デジダルデラックスエディション 8,690円
※製品情報は記事執筆時点のもの

スパくんのひとこと
とにかく密度がたっぷり詰まってるスパ!結構遊んだなーと思っても全然進んでなかったりする嬉しい悲鳴スパ!