左からBowers&Wilkins舘久美子さん、オーディオテクニカ國分裕昭さん、ソニー中西美桜さん、JBL塚本美保さん、Bang & Olufsen大房諒さん(Photo: 千葉顕弥)

ワイヤレスヘッドホン、どう考えても流行ってますよね?

ガジェットメーカーの中の人をお呼びして、ざっくばらんに自社製品や他社製品のこと、そして製品カテゴリ全体について語っていただく企画「ガジェットメーカーさんいらっしゃい!」。

今回のテーマはワイヤレスヘッドホンです。

ギズが現代のヘッドホンの傾向を分析した結果、「個性の演出」と「ラグジュアリーな音楽体験」という傾向が見えてきました。つまり、以前に比べて「装着している姿を見せるヘッドホン(映え)」「音楽にこだわりがあることの意思表明(こだわり)」という潮流があるのではないかというのが、我らがギズモード編集長・尾田和実の意見です。

そんなわけで、豪華オーディオメーカー6社の中の人に編集長が直撃して参りました。

オーディオテクニカ :1962年に日本で創業されたオーディオ機器メーカー。主にマイク、ヘッドフォン、ターンテーブルなどの製造を行っており、その高品質な製品は放送業界や音楽制作の現場から一般消費者まで幅広く支持されています。

ご担当者は株式会社オーディオテクニカ マーケティング部プロダクトマネジメント課コンシューマープロダクトグループ リーダー、國分裕昭(こくぶん ひろあき)さん 。 今回お持ちいただいたヘッドホンは、ATH-SR30BTです。

JBL: 1946年にアメリカで設立されたオーディオ機器メーカー。スピーカーをはじめとする音響機器全般を製造しており、その豊かなサウンドと耐久性で知られ、ライブイベント、映画館、一般家庭など、多様なシーンで利用されています。

ご担当者はハーマンインターナショナル株式会社 プロダクトマーケティング部プロダクトマネージャー、塚本美保(つかもと みほ)さん 。 今回お持ちいただいたヘッドホンは、JBL LIVE 770NCです。

ソニー: 1946年に日本で創業された大手電子機器メーカーです。オーディオ機器メーカーとしてもその存在感は大きく、プロ用スタジオで利用される機器も多く手がけ、プロ用モニターヘッドホン「MDR-CD900ST」は日本のレコーディング現場のスタンダードとなっています。

ご担当者はソニー株式会社 パーソナルエンタテインメント商品企画部、中西美桜(なかにし みお)さん 。 今回お持ちいただいたヘッドホンは、WH-1000XM5です。

Bowers & Wilkins:1966年にイギリスで設立された高級オーディオ機器メーカー。高品質なスピーカーシステムで特に有名で、その製品は細部にわたる精密な設計と卓越した音質で評価されています。プロ用スタジオだけでなく、ハイエンドな音楽愛好家やオーディオ専門家からも高い支持を受けています。

ご担当者は株式会社ディーアンドエムホールディングス マーケティング・コミュニケーション JAPAN、舘 久美子(たち くみこ)さん 。 今回お持ちいただいたヘッドホンは、Px7 S2eです。

Bang & Olufsen: 1925年にデンマークで創業された高級オーディオ機器メーカー。卓越した音質と斬新なデザインを両立させたオーディオシステム、スピーカー、ヘッドフォンなどを製造しています。そのデザインはインテリアとしての価値も高く評価されており、世界中の愛好家から支持されています。

ご担当者はバング・アンド・オルフセン・ジャパン株式会社 テクニカル サポート スペシャリスト、大房 諒(おおふさ りょう)さん 。 今回お持ちいただいたヘッドホンは、BEOPLAY H95です。

さて、現在のヘッドホン市場の姿、そしてそこから見える未来とは?

ヘッドホンの流行はカラバリ。色はどうやって決めている?

——これまでのヘッドホンは黒が中心でしたが、最近はカラバリが増えていますよね。ファッションの世界では流行色というものがありますが、ヘッドホンの色はどのように決めているのでしょうか?

國分さん(オーディオテクニカ):身につけるアイテムなので、使う人に違和感を与えず毎日使えるもの、ここ数年のモデルは服や肌になじみやすい色が多いと思います。ヘッドホンは多くのファッションアイテムと違ってシーズンという概念がないので、ファッションよりもロングタームで社会の変化を捉えるように心がけています。

舘さん(Bowers & Wilkins):Bowers & Wilkinsはハイエンドなオーディオメーカーですので、「ラグジュアリー」であることを大事にしています。そしてオーディオテクニカさん同様、時代のムードも意識しています。例えば、2023年発売のモデルでは、事前に2023年がどんな世相になりそうかを調査してカラーバリエーションに落としています。すると、結果的にアパレルのカラーに合うものにもなってきます。

塚本さん(JBL):JBLの製品はカラバリが豊富なのも特徴の一つです。海外にいるデザインチームは、まずアパレルのカラーリングを予想していますが、やはりヘッドホンはファッションよりも製品のライフスパンが長いので、長く使えるよう努力して色を設計しています。最近では若い人たちがニュアンスカラーを好む傾向にあると思います。

國分さん(オーディオテクニカ):かつてのホワイトにあたる色が、今のベージュっぽいカラーになってきている印象はありますね。

Bang & Olufsenの大房さん

大房さん(Bang & Olufsen):私たちはそこまで最初のカラバリは多くなくて、基本カラーはブラックとゴールドトーン、そしてシルバー系。そこに新しい色が入ってくる感じですね。基本的には世界的なファッショントレンドを押さえつつ、アートやカルチャー、そしてインテリアも意識しています。デンマークのメーカーですので、家具を重視する北欧っぽいニュアンスはあります。

中西さん(ソニー):ここ2〜3年で女性ユーザーが増えたこともあり、豊富なカラバリが用意されている製品の比率も増えていますね。ソニー全体の製品ラインナップから見ると、ヘッドホンは数少ない「身につける商品」という特徴があるので、ファッションとのコーディネートは重視しています。

SNSとアスリート、そしてヘッドホン

ソニーの中西さん

——SNSが当たり前の時代ですが、ヘッドホンにYouTubeなどSNSの影響はありますか?

中西さん(ソニー):すごくあります。K-POPアイドルやスポーツ選手がヘッドホンを首にかけている姿がSNSに上がっていることで、今までヘッドホンを買ってこなかった層の人たちが手に取ってくれるようになりました。私はZ世代なのですが、ちょっと前まで周りの同世代は誰も使っていなかったのに、ここ2年くらいでおすすめのヘッドホンをよく聞かれるようになりました。やっぱりそこにもSNSの影響が大きいと思います。

大房さん(Bang & Olufsen):そうですよね。デンマークのデザインチームも、やはり他社さん同様インスタやTikTokなどは重視していると言っていました。以前、サッカーの日本代表選手がインスタに弊社のヘッドホンを載せていただいていて反響がありました。

JBLの塚本さん

塚本さん(JBL):SNSに限らずアスリートの影響も大きいですよね。弊社もパリ五輪で金メダルが期待されているブレイキン選手のShigekixさんにご協力いただいていて、ダンサー界隈からの発信を今お願いしているところです。

國分さん(オーディオテクニカ):アスリートはモチベーションや集中の点で、音楽と密接に関係している感じがあるので、ヘッドホンと親和性が高いですよね。

「ラグジュアリーな音楽体験」への各メーカーのこだわり

オーディオテクニカの國分さん

——ギズが行なったアンケートからは、現在のヘッドホン人気には、ファッションアイテムの側面以外にも「いい音で聴きたい」というニーズもあるのではないかと感じます。イヤホンと比べて、ヘッドホンは音が良いのでしょうか?

國分さん(オーディオテクニカ):何を持って「音が良い」とするかは人それぞれですが、イヤホンと比べて「ドライバー」と呼ばれるスピーカー部分が大きいので「ヘッドホンは低音が出しやすい」とは言えますね。

——オーディオテクニカのヘッドホンは、海外のレコーディングスタジオで有名アーティストが使っているのをみますね。

國分さん(オーディオテクニカ):はい、欧米のスタジオでは弊社のモニターヘッドホンをよく使っていただいています。ドライバーと筐体、アナログ部分の作りがミソなので、それをデジタルのワイヤレスヘッドホンに落とし込むのは大変なのですが、音楽制作をされる”プロシューマー”の方々から同じヘッドホンの音をワイヤレス化して欲しいという声に応える形で製品化までしています。弊社ではデジタル製品でもアナログな音をなるべく崩さないよう、音響スペースと電気スペースは分離するなどの工夫をしています。それはモニターヘッドホンに限らず、一般的な民生品でも同じ思想で設計・開発しています。

Bowers & Wilkinsの舘さん

舘さん(Bowers & Wilkins):Bowers & Wilkinsは1981年に音の研究機関をイギリスに設立して、ハイエンドスピーカーからワイヤレスヘッドホンまで一貫したトゥルーサウンドへのこだわりを持って開発を行っています。ヘッドホンに関しては、まずはこれから流行るであろうデジタルテクノロジーをアコースティックなスペースに収め、その上で装着感を決め、最後に外観のデザインを仕上げています。

塚本さん(JBL):弊社も西海岸にラボがあって、JBLを含むハーマングループが出す全ブランドにとっての理想の音響カーブがあり、そこを目指して製品は設計しています。さらに、最終的にはゴールデンイヤーと呼ばれる優れた耳を持つスペシャリストが認めたものだけが世に出るようになっています。

大房さん(Bang & Olufsen):B&Oにはそうした理想とするカーブはなくて、我々はポータブルスピーカーから大型のスピーカーまで幅広く製品を展開していますが、その開発者は「そこにスピーカーが意識してしまうものはよくない」と言っています。つまり、最初に音楽があるという発想ですね。具体的なところでは、ヘッドホンの音響的には硬くて軽い素材が好ましいので、今日持ってきたこちらのヘッドホンには40mmのチタンドライバーを採用しています。

中西さん(ソニー):ソニーも基本的には「硬くて軽い素材」を使うことをコンセプトとしています。また、B&Oさん同様にソニーにも理想とするカーブはなく、音響設計者がNYの契約スタジオに行って、そこで働いているエンジニアの意思を汲み取って製品に落とし込んでいくようなケースもあります。ただ、それだけだと一般のお客さんにはウケない部分が出てしまうので、いろんな点でバランスをとるようにしています。

——音楽ジャンルを意識することはありますか?

中西さん(ソニー):商品によって違いますね。重低音モデルはヒップホップなども意識しますが、WH-1000XM5はいろんな層のユーザーが使うのでクラシックからアニソンからなんでも聴いて最終的に判断しています。

国によってヘッドホンに求められるものが違う?

——最近のヘッドホンではノイキャンの性能が重視される傾向にありますが、ノイキャンをどのように捉えていますか?

中西さん(ソニー):「音楽に没入するため」「音をよく聴くため」に開発した技術だと捉えています。

舘さん(Bowers & Wilkins):ワイヤレスヘッドホンはガジェットとして扱われる傾向もありますが、我々としてはオーディオ機器であり「持ち運べるスピーカー」だと思っています。Bowers & Wilkinsの製品に関して「ノイキャンが強くない」と言われることもありますが、ノイキャンは仕組み的にどうしても音質に影響を与えてしまうため、高音質を維持できるギリギリの強さのノイズキャンセリングを採用しています。

——他のデジタルテクノロジーとしては、コーデックについてはどう考えていますか?

塚本さん(JBL):実はコーデックにこだわるのは日本独特の文化なんですよ。

舘さん(Bowers & Wilkins):そうですよね。他の地域では「aptXとか何で要るの?」と言われます。

中西さん(ソニー):海外の方はあまりスペックを気にしない傾向にありますよね。

大房さん(Bang & Olufsen):量販店にもその傾向はあって、日本では店頭表示用に細かいスペックの提示を求められますよね。「片耳で使えるかどうか」なんて項目もあります。

中西さん(ソニー):それに対して、欧米の店舗ではスペックよりも環境対応した製品かどうかが気にされています。

國分さん(オーディオテクニカ):アジア圏ではスペックが重視される傾向にあって、特に日本や中国はヘッドホンマニアの人口が多い印象がありますね。スピーカーが重視される海外とは住宅事情が違うので、日本は外でも良い音を楽しみたい人が多いのではないかと思います。

中西さん(ソニー):スペックが良いものの方が、音が良くなる傾向はありますが、必ずしも音のフィーリングとリンクされるわけではないので、最終的にはお客さんのための判断材料という感じはありますね。

他のメーカーに気になること聞いてみた

國分さん(オーディオテクニカ):ソニーさんのノイキャンはもう毎年のように進化していますが、どこまで進化するんですか?

一同:(笑)。

中西さん(ソニー):お客様からのご要望がある限りは進化するのかなと思っています。もちろんノイキャンの強さをひたすら上げればいいと思っているわけではなくて、求める音質や、視聴するコンテンツによっても変わるとは考えているので、市場に合わせて機能をアップデートしていくことが重要だと思っています。

國分さん(オーディオテクニカ):デジタルになってからイヤホンは「オーディオ製品」ではなく「スマホを便利に使うためのガジェット」という捉え方をされるようになって、一気に市民権を得ましたよね。ノイキャンも既存技術ながらAirpods Proによって一気に普及したように思います。

舘さん(Bowers & Wilkins):完全にイヤホンは「みんなが持つもの」になりましたよね。そんな中、あえてヘッドホンを選ぶ方にとっては自己表現が重要な要素だと思っています。ブランドにシンパシーを持てるかどうか、あるいはデザインや音にこだわるなど、「どんな側面でヘッドホンを選ぶか」という楽しみが増えていると感じます。

國分さん(オーディオテクニカ):国内ではソニーさんが、世界的にはサムスンやアップルがデジタルガジェットとしての性能を突き詰められていますが、これからはそれとはまた違う価値観も生まれて、オーディオの多様性が広がっていくんじゃないかと思います。

各メーカーが求める「原音」って何?

——最後の質問です。多くのオーディオメーカーは理想の音質として「原音に忠実」を挙げていますが、「原音」をどのように捉えているのでしょうか?

國分さん(オーディオテクニカ):オーディオテクニカとしては人の感性を大切にしています。具体的には、電気の通っていないアナログの楽器によって単音で鳴らされている楽曲を鳴らした際、リアルにその楽器の音を聴く時とどれくらいの差があるのかを一つの目安にしています。

舘さん(Bowers & Wilkins):私たちは世界で一番支持されているハイエンドスピーカーのブランドとして、イギリスのアビーロード・スタジオやアメリカのスカイウォーカーサウンドといったトップクラスのスタジオでモニタースピーカーとして使ってもらっています。このことから、音楽が生まれる場所にあるサウンド=「True Sound」と考えています。Bowers & Wilkinsの創業者は「True Sound」をガラスに例え、「完璧な一枚のガラスとは、目の前にあっても、向こうにあるものが完全に見えものだ」と話していました。つまり、 完璧なスピーカーはその存在を意識させることなく、 アーティストや録音エンジニアが意図した音をそのまま届けるものという考えですね。ですので、すべてのBowers & Wilkinsの製品は、入力された電気信号に対して、何かを付加することも取り除くこともなく、純粋に音に変換することを目指して設計されています。

塚本さん(JBL):私はハーマンが創業の地カリフォルニアに設けている音響の研究機関で、ゴールデンイヤーの資格を取るための試験を受けたのですが、その時に「原音再生」という言葉が出てきました。そこでは「人間は見たいものを見て、聴きたいものを聴く」ということが言われており、その音が「原音」だとされています。先ほどご説明したように、ハーマンには理想とする音響カーブがありますが、これは聴く人や環境によって音が変わるのを前提とした上で、「お客様が聴きたい音」を再生するために作り上げたカーブです。それをJBLでは製品に合わせて調整しています。

大房さん(Bang & Olufsen):我々としては数年前までは「Bang & Olufsenシグネチャーサウンド」という言い方をしていたのですが、現在はそれを止め、「製品を意識しないで聴くことができる音」ということを重視しています。ブラインドテストをして「自然だね」と感じられる製品を目指しています。

中西さん(ソニー):実はソニーとしては「原音再生」という言葉を使ったことはないんです。我々は具体的に「音楽が作られる場所」として、その最終工程であるマスタリングスタジオで鳴っている音を「エンジニアが聴いて欲しい音」であると定め、NYのBattery Studiosのモニター環境などを目標としています。私自身も、そこで音楽を鳴らせばどんな音楽も魅力的に聞こえるという実感がありますし、それをリファレンスとして12〜13年が経ちますが、市場からも評価をいただいていると感じています。

ワイヤレスヘッドホンの流行から、カラーバリエーションや各メーカーのこだわり、サウンドメイキングまで話題は尽きなかった「ガジェットメーカーさんいらっしゃい!」ですが、時間の都合で今回はここまで。

近年は「ワイヤレスヘッドホン」の性能について成熟が指摘されることもありますが、各メーカーそれぞれ優れた製品を目指しながらも、デザインや音質の突き詰め方、理想とする音などに大きな違いがあるのが非常に印象的でした。

あー、ヘッドホン欲しくなってきた。

Photo: 千葉顕弥