体重減少効果がある糖尿病治療薬GLP-1受容体作動薬を、糖尿病でない人へダイエット目的で投与する「GLP-1ダイエット」。適用外の使用は社会問題化しており、副作用などへの懸念点も多いが、それ以前に、「痩せればいい」という考え方そのものが危険をはらんでいる。

 糖尿病専門医で順天堂大学大学院スポーツ医学・スポートロジーの田村好史教授が言う。

「痩せていても運動不足で筋肉量が少なければ、糖尿病リスクが上がる可能性があることが私たちの研究で明らかとなりました。糖尿病だけではない。運動不足はがん、心臓疾患、認知症などさまざまな病気のリスクを上げるのです。運動に関して強調したいのは、運動により“血糖値が下がる”や“痩せる”ということと無関係に、運動をしていることが直接健康と結びついていることです」

 たとえ糖尿病でGLP-1受容体作動薬を適正に用いたとしても運動は必須。運動をしなければ、薬で血糖値や中性脂肪が低下しても、運動不足が新たな病気をつくり出す可能性がある。

 田村教授は、内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム「女性のボディイメージと健康改善のための研究開発」責任者であり、産官学チーム「マイウェルボディ協議会」代表幹事を務める。同協議会が全国の16〜23歳の女性1000人を対象に行った調査では、80.6%がダイエット経験があり、中でもBMI25.0未満の痩せたい願望がある人では89.1%がダイエット経験あり、55.3%が現在ダイエット中と回答。また、痩せ形女性の約18.8%、普通体重女性の約53.4%が自身を「太っている」と思っていると答えた。さらに、BMI25.0未満の痩せたい願望がある女性では、47.5%が直近1年で「ちょっとぽっちゃりしたね」「顔が丸くなったね」といった体形についての嫌なコメントを他人から受けており、中でも母親、きょうだい、父親と身近な家族からのコメントが多かった。インスタグラムやユーチューブ、TikTokなどビジュアル重視のSNSの影響を強く受けていることも示されている。

「周囲からの体形に関する指摘が、自分の体形への不満となり、痩せ願望へとつながる。メディアの影響や友人の痩せ志向も関係している。痩せたね、という褒め言葉も、価値観を押し付けていることになっているかもしれません。痩せに対する価値観を変えるには、本人に働きかけるだけでなく、痩せたい気持ちを過剰につくり出してしまう社会の変容が不可欠」(田村教授)

 食べない・運動しない痩せは不健康であり、危険であると、誰もが認識しなくてはならない。(おわり)