古くから日本人になじみのある果物「梨」に、「かつてないピンチ」が訪れています。ことし、食べることができなくなってしまうかも? 一体現場で何が起きているのか、最前線を取材しました。
みずみずしい甘さで、好きな果物ランキングでも常に上位を占める梨。しかし、その梨が実は今ピンチに!
【愛知・安城市 4月2日】
(大石邦彦アンカーマン)
「こちらは、愛知県安城市にあります梨農園です。見てください。今、真っ白な花が咲いてますよね」
(大石アンカーマン)
「この棚、私の身長にぴったりなんですけど、こういうものなんですか」
(甘水園 猪飼幸宏さん)
「栽培している人の身長に合わせて棚の高さを作るので、僕と大石さん、同じぐらいの身長なので、ちょうどいい」
愛知県有数の梨の産地、安城市の梨農家、猪飼幸宏さん。
(甘水園 猪飼幸宏さん)
「『愛甘水』と『甘ひびき』という品種2種類の特許を、うちの父が交配させて作りまして。それがうちから出た梨」
ここが開発した品種「甘ひびき」はJAの通販では即完売。即売会では行列ができるほどの人気です。
この農園では、他にも「幸水」や「愛甘水」など、800本の梨の木で年間約30トンを出荷しています。
受粉作業は人の手で…養分がばらけないよう「必要最小限だけつける」
(大石アンカーマン)
「何やら機械を使って、そして、煙のようなものを吹きかけておりますが…」
今は花の受粉作業の真っ最中。これがないと実がつきません。
(猪飼さんの父 孝志さん)
「ここの部分の中に花粉と増量剤が混ざって入っている」
大石アンカーマンが手のひらに出してみると…
(猪飼さんの父 孝志さん)
「こういう状態になりますので」
(大石アンカーマン)
「真っ赤に染まりましたね。これ触ってみるとサラサラですね」
(猪飼さんの父 孝志さん)
「梨の花粉はベタベタなので、サラサラの粉で増量していっしょに飛ばす」
花粉がついたかどうかわかるように、赤い粉を混ぜ、めしべにつけていきます。
(大石アンカーマン)
「枝の中で、最終的に1個できればいいと」
(猪飼さんの父 孝志さん)
「だから余分につけないようにしていく。余分につけちゃうといっぱい実がなる。そうすると養分がばらけてしまう。必要最小限の数だけつける。それが一番効率の良いやり方」
受粉作業のために「花粉を作る」のも人の手で…これが大変!
なぜ人の手で受粉を行うのかというと…
(甘水園 猪飼幸宏さん)
「例えば幸水の花粉、自分の花粉を自分につければ受粉ができるのではないかと思うんですが、実際はつかない。『違う品種』の花粉をつけてやらないといけない」
梨は、同じ品種の花粉をつけても実がならないため、違う品種の花粉を用意して、人の手で受粉を行うのです。
この農園では…
(大石アンカーマン)
「晴れの日に傘が、しかも反対でかけられてますね。これはどういうことなんですか?」
(甘水園 猪飼幸宏さん)
「(花を)とったときに下に落とすので、全部ここで受けてもらえるように、ひっくり返って使っている。この木がいま後ろにずらっと、隅の方に植わっている」
敷地が広いここでは、『花粉を取るためだけ』に、およそ80本の梨の木を植えているのです。
(甘水園 猪飼幸宏さん)
「膨らんで1センチ弱になっているもの。この大きさのものを全部むしって入れる。花粉を作るのは結構大変なんです」
多くの農家が頼ってきた“花粉の輸入”だが…ことしはできない!?
機械の前で…
(甘水園 猪飼幸宏さん)
「(花を)ひとつかみぐらい取って、中に入れて。大体、赤い部分はここにたまるんですよ」
大量の花を摘み取り、花粉が入っているおしべの部分だけを分けて、25度ほどで20時間おくと…
(甘水園 猪飼幸宏さん)
「20時間たつとこんな感じになる」
(大石アンカーマン)
「赤くないんだ」
(甘水園 猪飼幸宏さん)
「黄色くなります。これが花粉ですね」
さらに腹の部分を機械で取り除く。
(甘水園 猪飼幸宏さん)
「ここに…純花粉ですね」
(大石アンカーマン)
「サラサラの粉です」
(甘水園 猪飼幸宏さん)
「今こすったこれでも1グラム〜2グラム。結構たくさん花を集めないととれない。なかなか純花粉をとるのは大変」
花粉を作るにはこれだけの作業が必要です。大規模でないと難しく、実は以前から多くの農家が中国からの輸入花粉を使っていました。しかし、ことしはある深刻な問題が…
花粉の輸入に頼ってきた農家は「どうしたらいいの?」…深刻な問題に
(甘水園 猪飼幸宏さん)
「農水省から、中国の花粉が輸入停止になって、今日本では自家採取した花粉でしか、つけられないようになってしまった」
中国で、梨やリンゴの葉や枝がやけどをしたように枯れてしまう病気『火傷病』が大規模に広がっているため、農水省が花粉の輸入そのものを禁止したのです。
(甘水園 猪飼幸宏さん)
「中国の輸入花粉分を日本の人件費で作ろうと思うと、(同じ値段では)無理なので、買った方が早い。手間も考えたら圧倒的に買った方が楽」
全国の梨農家の実に3割が輸入花粉に頼っていたため、ことしは梨の生産そのものが危ぶまれているのです。
愛知県で梨の生産が盛んな安城市と刈谷市には、77軒の梨農家がありますが、そのうちの半数が中国からの輸入花粉を使用しています。
地元のJAは、受粉の時期に重なったこの事態に警戒を強めています。
(大石アンカーマン)
「こういったピンチというのは今までなかったですか」
(JA愛知中央会 富永紘基さん)
「初めてのことです。花粉を持ってない方は『どうしたらいいの?』と最初に口をついて出た。産地の中でも、猪飼さんのように『花を譲るよ』と言ってくれる人がいる。おいしい梨を皆さまの所にお届けできる努力を続けていきたい」
猪飼さんの農園にも、別の梨農家が訪れていました。
(梨農家 早川加代子さん)
「100%中国からの輸入花粉を使っていた。(花粉の採取は)初めて」
『自分で採取する』という条件で、無料で受け入れています。
古くは日本書紀にも登場するほど、昔から日本人に親しまれてきた梨。
しかし、かつてないピンチを迎えている中、ことしの旬には、ひょっとしたら『貴重な果物』になっているかもしれません。
2024年4月11日放送 CBCテレビ「チャント!」より