歌舞伎俳優の市川男女蔵が、歌舞伎座「團菊祭五月大歌舞伎」(5月2〜26日)昼の部「毛抜」で2004年の新春浅草歌舞伎以来、20年ぶりに粂寺弾正を演じる。歌舞伎座では初めて演じることになる。

 昨年4月15日に死去した父・4代目市川左團次さんの一年祭追善狂言。荒事から老け役、敵役、ユーモラスな役まで幅広い芸域を持った父の追善で、当たり役を受け継ぐ男女蔵は「おやじさんの弾正は、やっぱり色っぽい。男の色気があった。自分で出すとか、アピールするのではなく、自然と湧いて出てくるもの。匂ってくるというか。自分では不器用だと言っていましたけど、その不器用さの中のちゃめっ気があった」と振り返り、敬意を表した。

 「毛抜」は1742(寛保2)年に2代目市川團十郎が初演した「雷神不動北山桜(なるかみふどうきたやまざくら)」の3幕目。7代目團十郎が演じて以降、しばらく上演が途絶えていたが、1909(明治42)年に2代目左團次が復活させた。歌舞伎十八番であり、左團次家の家の芸にもなっている。男女蔵は「歌舞伎十八番は市川宗家のお家芸ですから、左團次型とかつけちゃいけない」と配慮しつつ「2代目左團次が復活した時には、市川宗家を敬って、同じものをやってはいけないと思ったのでは。敬って、形を変えて復活させたというのが一説としてある」と説明した。

 演じる弾正は「おかしみあり、強いところあり、しっかりしているところもある。2代目左團次が復刻して作ったのは(悪人たちの策略を暴き、事件を解決する場面で)周りと一緒に芝居をするというより、自分が狂言回しをして、解決して、説明して、という部分が強い」。20年ぶりとなるが、「あの時は精いっぱいやった。後悔していたら、やっていけない。役者の道は、終わりなき道。全身全霊で勤めたい」と意欲を見せる。

 鮮やかな謎解きや愛嬌(あいきょう)のある見得(みえ)にも注目だ。