◆「マリウポリの20日間」 (ミスティラフ・チェルノフ監督、公開中)

 2022年2月、ロシアがウクライナ東部マリウポリに侵攻を開始。戦禍の惨状がAP通信取材班による映像で構成される。今年の米アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞受賞作。

 爆撃で炎は燃えさかり、一寸先の命も分からない恐怖の中での報道。取材初日。息子を心配し、パニック状態に陥る婦人。「民衆への攻撃はないから」と励ますも、そうでなくなっていく現実。カメラの手ぶれ映像がより緊迫感を増す。病院では危篤状態の子どもの手当てをする医師が記者に「全部記録してくれ!」と叫んでいる。

 今作がウクライナ映画史上初のオスカー。自ら通信社の記者である監督は授賞式で「この映画が作られなければよかった」と言い、「歴史を変えることはできないが、命をささげた人々が決して忘れられないようにすることはできる」と述べている。どんな称賛より、願うのは戦争が終わることだろう。