1896年創業の赤武酒造は岩手・大槌町の蔵で代表銘柄「浜娘」を醸していたが、東日本大震災の津波により全壊。震災直後は「復活は無理だろう」と古舘秀峰社長(59)は一度廃業を決意した。被災から約1か月半後に廃業を伝えるため、お世話になった企業に出向いた。同じく被災していた企業から「もう一回復活して、これからも前へ進むよ。赤武さんも、もう一回やるのだったら声をかけてください」と声をかけられると、その言葉に心を動かされ復活を心に決めた。

 酒を造るために場所を探し、まずは工場の一部を借りてリキュールを製造。イベントなどで販売しながら日本酒を造れる蔵を探した。そこで盛岡にある桜顔酒造が共同製造を受け入れてくれて「浜娘」が復活。その後は紆余(うよ)曲折ありながらも13年に盛岡市内で自前の蔵を復活させた。

 14年には、東農大醸造科学科で学び全国きき酒選手権大会で優勝経験もあった長男の龍之介さんが大学を卒業。夏場は酒造を行わないため、杜氏候補や蔵の子息たちが集う酒造りの講習に数か月通わせると、そこで醸した酒がうまく、22歳にして6代目の杜氏に抜てき。浜娘は震災のイメージがあったこともあり、社名と同じ「AKABU」と命名した代表作で岩手を代表する酒を目標に製造を開始した。

 「プレッシャーはありましたけど、もうやるしかなかった」と龍之介杜氏(32)。最初の数年はほとんどの作業を一人で担い苦労した。味も安定せずに厳しい時期もあった。しかし、16年の全国新酒鑑評会で金賞を受賞すると一気に名前が広がり、現在では入手するのも難しくなってきているほど知名度を上げている。

 様々な助けがあって人気を博した「AKABU」はフレッシュさが売り。単体で飲んでも料理に合わせてもおいしく、口当たり柔らかくふくらみがあって味わいも抜群。秀峰社長は「純米吟醸 NEWBORN」、龍之介杜氏は「純米酒」をおすすめしている。そして、24年元旦に発生した能登半島地震で被災した能登町の数馬酒造を現在は支援。石川県内のお米を使用した委託醸造を行い、自分たちが支援されたように支える側として活動を行っている。

(山崎 賢人)

 ◆赤武酒造 1896年(明治29年)に創業。岩手県大槌町から創業100年以上続く老舗。2013年に盛岡市北飯北飯岡1―8―60に復活蔵を新設。「赤武酒造の新しい歴史を創る」を合言葉に日々進化を遂げている。