●全半壊の2割、解体を申請

 かつて北前船の拠点として栄えた黒瓦の伝統的な町並みで解体が始まることが決まった。14日、能登唯一の国の重要伝統的建造物群保存地区(重伝建)、輪島市門前町黒島町について、市の審議会が地震で全半壊した9棟を「解体やむなし」と判断。重伝建から初めて「除却」するよう市教委に答申した。黒島町では228棟が全半壊し、うち2割弱の所有者が市に公費解体を申請している。解体建物は増える可能性があり、景観を維持できるか懸念が強まっている。

 重伝建内の建物は取り壊しの際、審議会の答申が必要になる。6月上旬に開かれた会合では、公費解体の申請があった43棟のうち、隣接建物などに2次被害を及ぼすリスクがある12棟が先行して審議された。

 その結果、被害が甚大で修理不能だったり、リスクが高いと判断されたりした土蔵、主屋など9棟が「解体やむなし」、残る3棟は復旧の余地があるとして「保留」とされた。「解体」とされた建物には、築50年以上の伝統的建造物に指定されていた土蔵5棟が含まれる。公費解体の申請がある31棟はあらためて審議会で協議する。

 黒島町では、地震で重要文化財「旧角海(かどみ)家住宅」が全壊、地区の建物約600棟のうち4割が全半壊した。審議会長の中森勉金沢工大名誉教授は「2次被害を防ぐ応急補強を進めながら、伝統的な空間や風情を残す方策を探りたい」と語る。

 市も町並み再生に向け、開会中の市議会6月定例会で、建物修理の補助率を現行の最大8割から9割に引き上げるための補正予算案を提出。坂口茂市長は「支援を手厚くし、昔ながらの景観を守っていけるようにしたい」としている。

 ただ、市内では最大震度5強を観測した3日の地震で7棟の建物が2次倒壊した。黒島町区長の芦崎浩二さん(77)は「町並みを残せるものなら残したいが、2次被害に不安もある」と複雑な心境を吐露した。