大泉洋の滲み出る優しさ＆人情！最新作「ディア・ファミリー」につながる「家族の愛」と「夫婦の絆」

世界で17万人の命を救ってきたカテーテル誕生に隠された実話を描く映画「ディア・ファミリー」が、6月14日(金)に公開を控える。心臓に先天的な疾患を抱え余命10年を宣告された幼い娘のため、小さな町工場の家族が人工心臓を作ることに挑む物語だ。

絶対に諦めない家族の愛が奇跡を生み出す本作の主人公・坪井宣政役を大泉洋が演じ、大病を患う娘の父親という辛い難役を全身全霊で表現している。芸人顔負けのお笑いセンスでコメディも得意とする大泉だが、過去にも"家族の愛"や"夫婦の絆"を巧みに演じてきた。「しあわせのパン」(2012年)や「トワイライト ささらさや」(2014年)がまさしくそうだ。

「しあわせのパン」は大泉が原田知世と夫婦役で共演したハートウオーミングドラマ。北海道・洞爺湖を舞台に、大泉と原田が演じる夫婦が営む小さなパンカフェとそこに集まる人々との交流を描く。

洞爺湖を臨む高台にある、小さくもこだわりの詰まった宿泊可能なパンカフェ・マーニ。恋人に沖縄旅行をすっぽかされた若い女性や地元を離れられない近所の青年、父親と心が擦れ違う少女・未久などそれぞれ問題に悩む人々が訪れる。色彩豊かな食材で作られる料理や真心を込めて焼かれるパンたち、すべてがおいしそうで空腹をくすぐる。

本作は大泉の故郷でもある北海道でロケが行なわれ、瑞々しい新緑や恵み豊かな秋に一面の銀世界と、厳しくも美しい大自然の四季折々が映し出される。大泉の穏やかな表情と優しい声が、愛する妻も悩める客たちも包み込む。焼きたてのパンを分け合い、自分たちの信じることを胸に、地に足をつけた暮らしを送る幸せ...。妻役を好演した原田との心の通じ合ったやりとりも微笑ましく、温かな気持ちになる、大人のためのメルヘンを思わせる1本だ。

一方、「トワイライト ささらさや」は突然の交通事故で死んだ落語家の霊が他人に乗り移って妻子を見守るという心温まるヒューマンドラマ。「神様のカルテ」シリーズのほか、近年では「法廷遊戯」(2023年)を手掛けた深川栄洋監督が加納朋子のベストセラー小説を映画化した。

大泉は売れない落語家の主人公・ユウタロウを演じた。これからという時に事故で落命した彼は、妻のサヤと生まれたばかりの息子ユウスケが心残りで成仏できずにいる。様々な人の体を借りながら、幽霊として2人を見守り支える。

冒頭から落語家らしい滑らかな口上で、死んだ男の幽霊として登場。実体を持たないユウタロウの霊が乗り移る人々を演じる俳優陣は、大泉が事前に演じた映像を見て練習した上で役に当たっている。それゆえに、大泉自身が登場するシーンは多くないものの、その存在感がかえって大きく浮かび上がる。

また、冴えない男には不釣り合いなほどに美しい妻サヤに扮した新垣結衣は、今作で母親役に初挑戦した。次第に母の強さを身に付けていく新垣の凛とした姿や、大泉のコミカルながら人情味溢れる佇まいにも魅了される。

芸達者ゆえに幅広い役柄を多彩に演じ分けてきた大泉。前述の2作のように"家族の愛"や"夫婦の絆"を体現する時、持ち前の優しさや人間臭さが自然と滲み出る。テーマとの親和性の高さがリアリティのある感動を生み出すのだろう。最新作「ディア・ファミリー」でもきっと心を残る感動が体感できるはずだ。

文＝中川菜都美