全国に広がっている住みます芸人の笑いあふれる地域協力活動にフィーチャーした、「47都道府県エリアプロジェクト(あなたの街に“住みます”プロジェクト)」をレポートする本連載。
今回は、山梨県北杜市(ほくとし)に移住し、平日は農業とTV番組のリモート収録や打ち合わせ、週末は東京・新宿のルミネtheよしもとに出演するという、二拠点で活躍する山梨県住みます芸人のティカトウさん(チャド・マレーン)をクローズアップ!
山梨県住みます芸人
ティカトウ(チャド・マレーン)
てぃかとう|1975年10月9日生まれ。愛知県刈谷市出身。お笑いコンビ「チャド・マレーン」のツッコミ担当。山梨県住みます芸人は、コンビではなく、一人で活動。NSC大阪校19期生。芸歴25年。同期は、ザ・パンチ、トータルテンボス、はいじぃ など。趣味はDIYとお菓子を食べること。特技は野菜作りと過酷な環境でも太れること。
住みます芸人歴:2020年9月〜
活動拠点:山梨県北杜市小淵沢町(こぶちざわちょう)
主な活動:農業。劇場出演やTV出演、漫才ワークショップの講師など。
レギュラーTV:『えいごであそぼ Meets the World』(NHK Eテレ)脚本・声優として参加
X(旧Twitter):@tea_kato
Instagram:tea_kato
YouTube:ティチャンネルNEO
【山梨県北杜市】
「八ヶ岳、甲斐駒ヶ岳といった山々に囲まれた高原地です。全体的に山登り好きにはたまらない場所です。水がきれいなことでも知られ、サントリーの『白州』や日本酒の『七賢』など、お酒好きにもたまらない場所です。僕の住む小淵沢は人気の避暑地で、リゾート地としても有名です。また、馬の牧場が多いことから『馬の町』としても知られています。温泉も多いですし、ドライブしたり、自転車で回ったり……。ゆったりのんびりするにはもってこいの場所です」(ティカトウさん。以下、省略)
はじめまして。おもしろ生産者のティカトウです。
「まずは、こちらをご覧ください!」と、小淵沢での一週間を説明するお笑いコンビ「チャド・マレーン」のティカトウさん。2020年から山梨県に移住し、日々農業に精を出す山梨県住みます芸人です。
【ティカトウの一週間】
月曜日…農業日
火曜日…芸人日[リモート]
「えいごであそぼ」収録&打ち合わせなど
水曜日…農業日
木曜日…芸人日[リモート]
「えいごであそぼ」台本締め切り&打ち合わせなど
金曜日…農業日
土曜日…農業日
日曜日…芸人日[劇場]←電車移動
「ルミネtheよしもと」出演&営業など
ティカトウさんは、「基本的にはこんな流れになっています」と、続けます。
【農業日の一日(収穫時期)】
■午前
5時〜6時…起床 → 朝ごはん
・ヤギ小屋の掃除
・道の駅用の野菜の収穫 → 出荷
・その他の出荷用野菜の収穫
――― お昼休み ―――
■午後
・収獲・除草作業 肥料撒き 耕うんなど
・日が沈むまで農作業
17時〜18時頃…帰宅 → 夕食
・デスク作業(農業用提出書類作り、「えいごであそぼ」台本作り など)
0時…就寝
「収獲する野菜によって変わりますが、基本的にはこんな感じでやっています」
| 山梨県北杜市での農業生活
「農業スタイルの僕です。ほぼこっちの状態でいることが多いです」
「正直、『住みます芸人』と名乗っていいのかどうか、迷ってます……」と、ティカトウさんから出た言葉は、意味深な内容でした。
「どちらかというと『住みます“農家”』なんですよね……。
もちろん、芸人としての活動もありますが、圧倒的に時間を使っている……というか、使わざるを得ないのが僕がこちら(山梨)に来た理由、『農業』なんです」と、実は、農業主体で山梨県に移住したことを明かしてくれました。
さらに、ティカトウさんは続けます。
「僕の場合、住んでから住みます芸人になった変わり種なんですが、こっち(小淵沢)での芸人と農業の両立、そして、融合を目指したいという話を会社に相談したら、『それなら、住みます芸人として活動するのはどうか?』と打診され、就任させていただくことになりました。
なので、芸人を続けながら農業を勉強する場所を探していたら、『住みます芸人』になっていたという感じです」
ティカトウさんは、なぜ芸人でありながら農家をやろうと思ったのでしょうか。また、終の棲家となる山梨県に移住しようと決心したきっかけはどんなことだったのでしょうか。
「4年前のコロナ禍で、芸人生活の中心であった“舞台”への出演が次々となくなっていきました。『今後どうなるんかなぁ〜』といった不安のなかで、『コロナでシーズンオフになった大リーガーが農業を手伝っている』というニュースを耳にしました。
なるほど……。
農業が人手不足というのはよく聞くし、食料危機なんて言葉も聞いたことがある。
飢え死にするのは嫌だ。
『そうだ。農業をやろう!』
と思ってやって来たのが、この地“山梨県北杜市”だったのです。
この場所にした理由は『東京まで通える範囲』であることと、『奥さんの親戚がこっちに移住している』の2点でした」
いきなり農業を始めるのは大変だったと察します。
「移住を決意したことはよかったんですが、ほんとに何もわからずに越してきてしまって、『安易な気持ちで農業を選んでしまった……』って思うこともありました。
何も準備をしていなかったので、最初の一年は『とにかく農業ができるところを探そう』と思って行動しました。
当然、ど素人の僕に農地を貸してくれるようなことはなく……。農業大学校へ進学しようとも考えたのですが、芸人の仕事との両立が難しいということで断念……。
最終的には、県の農業研修を受ける形になりました。週4〜5回農家で実務経験を積むという方法です。通い弟子みたいなイメージですね。
そこで2年間の研修を経て、2023年の7月に農地も無事借りることができ、農家としてデビューすることになりました!
農場名はルミネでお世話になっているほんこんさんにつけていただいた『八ヶ岳加藤ちゃんと農場』です」
「こっち(小淵沢)でヤギを飼っています。自分自身も癒やされますが、友達が来たときは、みんなとても癒やされて帰っていきます。田舎で飼いたい動物No.1なんじゃないでしょうか。世話は大変ですけど」
なにもないところから挑戦する農業と芸人の両輪生活
| 内から見える景色の違いに驚愕
何もわからずに飛び込んだ農業の世界。芸人としての生き方とのギャップを感じたことはあるのでしょうか。
「農業を学ぶ前は『食料危機 = 作り手が足りてない』というイメージだったんですけど、実際は、そんな単純な問題ではないことがわかりました。現場では行き場のない野菜が山ほど捨てられているし、余ってることの方が実は多いんです……。吉本もギャラが安いことで有名ですが、農家のギャラもとても厳しいです。野菜の適正価格についてもいろいろと考えさせられました。外から見える景色と内から見える景色の違いに驚いています。
道の駅はくしゅうのファーマーズマーケットに採れた野菜を置かせていただいています。山梨にお立ち寄りの際は、よろしくお願いいたします!!!」
確かに、農業は想像以上に厳しい世界かもしれませんね。
「僕が農業を学んだ研修先は、「井上農園」の井上さんと「そらくも農場」の鈴木さんの農場。野菜の品種、肥料のこと、出荷についてまで、農業のいろはを教わりました。このお二人のもとで学ばなかったら、農業をあきらめていたと思います。自己流でやるのは限界があったんですよ。規模が大きくなればなるほど痛感させられます。でも、だからこそやりがいがあると感じています。今はまだ試行錯誤の段階ですが、自分なりの農業の営みを作りたいと思っています。
そういえば、僕が農業研修中に出会った研修生の男女2人が、昨年結婚しました。農業を志す若者は、少なくなってはいますが、まだまだ健在。小淵沢はのびのびと農業をやりたいと思う人たちが集まってくる土地なんでしょうね。それにしても、20代の女の子が、40後半のおじさんの僕に恋愛相談をもってきたときにはどうしようかと思いました。が、無事ゴールインしたので、おじさんキューピッドとして活躍できたと思います」。地域の農業を盛り上げるとともに、地域の婚姻率アップにも貢献したティカトウさん。さすが、ルミネtheよしもとなどの舞台に立つ芸人というところです。
芸人としての活動と農業をどのように両立させているのでしょうか。
「3年間、小淵沢に住んでみて、これまでは地域貢献というよりは、地域にお世話になりっぱなしだったというのが正直なところなんですね。なので、山梨でのお笑いの仕事は『恩返し』という気持ちで臨むことが多いです」
「地域のワークショップで、コンビで英会話教室を開いたときの一コマです。NHK Eテレの『えいごであそぼ Meets the World』もやってますし、英語に触れる機会を地域に作れるのはいいことだなと感じました」
「実際に移住したこともあって、山梨で行われる仕事も増えています。ロケなどは、自分が住んでいる所なので今後も縁がある場所、人であることが多いので『できるだけ距離感を近く』接するようにしています。そこが強みでもあるし、失礼があったら、すぐに謝りに行ける距離ですし(笑)。
芸人として地域のお祭りなどを盛り上げたり、農家として野菜を作って『道の駅はくしゅう』を賑やかにしたりできたらいいなと思っています。
理想は『地元の面白いおじさん』ですかね。そうなれるように日々溶け込めるように精進しています。
ここ最近は、相方から『ネタ作らんと野菜ばっかり作ってる』と文句を言われてますけど(笑)」
少しずつではありますが、着実に小淵沢に馴染んできているティカトウさん。3年間住んで、自身の山梨県の見え方も変わってきたといいます。
「芸人としてこれまでやってきて、『どこにいても、結構楽しく生きていける強さ』を手に入れたことは、とても大きな財産。それが今発揮されています。安易な気持ちで始めてしまった農業もそこそこ板についてきたと思いますし、ここに住んで、ここでの楽しい生活を発信していくことがひとつの役割だと考えるようになってきました。
僕みたいに、『山梨って、東京でも仕事ができる場所なんだよ』って感じてもらって、移住者が増えていってほしいなって。東京で仕事をしているときに、山梨に住んでいるというと『遠い』とよく言われるんですが、実際は新宿まで電車で2時間もかからないですし、東京で仕事をしながら田舎暮らしをするなら最高の場所だと思うんですよね。
小さな発信ですが、誰かが僕の生活を見て『なるほど。そんな生き方できるんだ』と思ってもらえたらいいな」
「防災減災フェスで漫才をやったときの写真です。僕自身も、地元民として、大切なことを学ぶ機会をいただきました。お笑いを通じて山梨に貢献できたのはありがたいですね」
「あとは、やっぱり自分が力を入れている『農業』で地域に貢献したいですね。正直、現状では割に合わないことが多いですが、なんとか知恵を絞って自分なりの農業の営みを作りたいと思っています」
| 存在するものすべてに癒やされながら生活
田舎暮らしについては、どのような印象なのでしょうか。
「移住前は完全に夜型人間だったのですが、小淵沢に来てからは変える必要がありました。農業を始めたからではなく、夜になると街灯もなく夜道は危ないし、そもそもどこのお店もやっていないので、『夜は休むもの』という人間的な生活リズムになりました。時間、天気、気候などに左右される生活をこれまでしてなかったんだなあと感じています。
田舎で暮らしてよかったことは、なんといっても『夏が涼しい!』と思ったことですね。避暑地といわれるだけあって、住んでからはクーラーをつけずに生活しています。
家から見える風景や近所に住んでいる方々、農作業、飼っているヤギなどこっちに存在するものすべてに癒やされながら生活できることは、移住してとてもよかったと思います」
「今、古民家を借りてDIYで夫婦とヤギで住める家に再生中です。ヤギの小屋は完成したんですが、住居はまだまだ……。床下から囲炉裏を発見したり、畳が結構重いことに気付かされたり。想像以上にボロボロな状態で大変ですが、楽しくDIYしています」
「逆に苦労しているところは、やはり冬ですね……。愛知→大阪→東京で暮らしてきたので『寒さ』に弱いんですよ……。
雪でどこにも行けないなんてのも初体験でしたし。バイクで長野まで走っていて、雪が降りだしたときは本当に死ぬかと思いました……」
「あと屋根張ったらほぼ完成!というところで雪に見舞われたヤギ小屋の様子です。潰れませんようにって祈りました」
“芸人農場”の基盤を作る!
| この地に根付いて、この地を面白く
最後に今後の目標を伺いました。
「目指しているのは『“芸人農場”の基盤を作る!』です。
そのまま芸人ばっかりでやってる農場なのか、疲れた芸人がやってくる保養施設になるのか。どちらにせよ、僕が農業者として一人前になり、芸人として知名度も上げていかないといけません。
野菜もネタも新鮮にお届けできる環境を作っていこうと思います!」
「昨年末に収穫した大根。エッチな大根の季節がやってきたなって感じた瞬間でした(笑)。きれいな形の大根もたくさんありますので、ご心配なく」
「スマホも採れる『八ヶ岳加藤ちゃんと農場』。年末最後にトラクターかけてたら、土の中から半年前になくした携帯が出てきたよ(笑)。出てきてくれて、ありがとう!」
「今後、“農業芸人”になるのか、“芸人農家”になるのか……。肩書はどうなるかわかりませんが、この地に根付いてこの地を面白くしていきたいと思っています」