今年3月の北陸新幹線金沢・敦賀間延伸で注目を集める福井県。なかでも坂井市は、適度な利便性と美しい海・山の自然を併せ持ち、特に子育て世帯や働き盛りの30〜40代に移住先として選ばれている。子育て環境のよさと女性の働きやすい環境が人気の理由だ。

掲載:2024年3月号

福井県坂井市。越前加賀海岸国定公園の絶景スポット、東尋坊
福井県坂井市(さかいし)
西部には東尋坊(写真)に代表される美しい海岸線が広がり、東部には緑豊かな森林地域が広がる。特産品は、三国港で水揚げされる「越前がに」、県内最大級の穀倉地帯の坂井平野で生産される米やソバなど。東京から北陸新幹線・北陸本線経由で約3時間20分。

福井県坂井市。江戸時代以前に築城された丸岡城
江戸時代以前に築城された丸岡城。天守は国の重要文化財に指定されている。

のびのび子育てしながら安心して夫婦で働ける

福井県坂井市の子育てファミリー・中野さん
坂井市の子育てファミリー
中野光顕(37歳)さん、絵理華さん(38歳)、杏和衣(あおい)さん(11歳)、大貴(だいき)くん(8歳)。光顕さんは坂井市出身、絵理華さんは富山県出身。以前は福井市内で暮らしながらともに理学療法士として働いていたが、長女誕生をきっかけに2012年、光顕さんの故郷へUターン移住。現在は4世代近居の暮らしを満喫。

 2020年の国勢調査に基づく就業状態等基本集計によると、福井県の女性の就業率は55.6%と全国で2番目に高く、共働き率は61.2%と日本一。そんな福井県の水準を坂井市はさらに上回り、女性の就業率57.1%、共働き率63.2%と、社会で活躍する女性が多い。全国現存12天守の1つ、丸岡城がシンボルの丸岡町へ福井市から移住し、2人の子どもを育てながら働く中野絵理華さんもその1人だ。城下町から車で15分ほどの緑豊かな山中にあるデイサービス施設「笑楽日(わらび)」に勤務し、高齢者のリハビリや介護に従事する。

 「長女が生まれるとき、夫の実家の近くで子育てを助けてもらおうと考えたのがきっかけ。坂井市には子どもが無料で遊べる施設が多く、のびのび育てられるという思いもありました」

 そう話す中野さんは当初、移住前から勤めていた福井市内の病院へ通っていたが、家族と過ごす時間を増やすため坂井市内で転職。縁あって見つけた現在の職場の雰囲気にひかれた。同じく福井市内へ通勤していた夫の光顕さんも、坂井市内の別のデイサービス施設に転職。共働きでの子育て環境について中野さんはこう話す。

 「待機児童はゼロで、近くの保育園に子どもを預けられましたし、病児保育・病後児保育などの支援も整っています。実際、勤務先のスタッフは半分ほどが女性ですが、子育て中の方が多く、そのほかの知人もほぼすべての女性が働いています」

 なかでも中野さんが役立ったという支援が、市内の店舗で子どもの日用品購入などに使える「多子世帯子育てすくすく支援商品券」。第2子は5歳まで毎年3万円分、第3子以降は同5万円分が交付される。

 「『福井県総合グリーンセンター』や『エンゼルランドふくい』をはじめ、休日に子どもと過ごせる場所が市内に充実。小学校では丸岡城など地域の歴史を学べますし、田植えや稲刈りといった農業体験をさせてもらえるのもいいですね」

 と、中野さん。普段は光顕さんの母や祖母が子どもの世話をしてくれるが、光顕さんも掃除や洗濯といった家事をまめにこなし、仕事もプライベートも気持ちにゆとりがあるという。

福井県坂井市。デイサービス施設「笑楽日」
デイサービス施設「笑楽日」。運営する有限会社ダイケイでは利用者さんに寄り添った各種介護事業を展開。
https://www.day-warabi.com 福井県坂井市。笑楽日で主にリハビリを担当する中野さん
主にリハビリを担当する中野さん。「利用してくださる皆さんの元気と笑顔が喜びです」。福井県坂井市。笑楽日の皆さんと。中野さんと同様に子育てしながら働いている女性スタッフも多い
職場の皆さんとともに。中野さんと同様に子育てしながら働いている女性スタッフも多い。家族でゆったりと過
ごせるご自宅のリビング(福井県坂井市)
ご自宅は2階建ての3LDK。1階には小上がり付きのリビングがあり、家族でゆったりと過ごせる。城下町に近い住宅地で落ち着いた雰囲気に包まれている(福井県坂井市)
移住に合わせて住まいを新築。城下町に近い住宅地で落ち着いた雰囲気に包まれている。

適度に便利で自然が豊か、きめ細かな各種支援も

 坂井市が子育て世帯や働き盛りの世代に選ばれている理由について、移住定住推進課の中出陽介さんはこう分析する。

 「南隣に県都の福井市があり、通勤を含めて都市部へアクセスしやすいのに、車で30分もあれば海や山に遊びに行けます。大型の公園やレジャースポットも多彩に揃い、家族でゆったり暮らせる『ちょうどよさ』が評価されているのでしょう。移住支援金の申請者が23年度は前年度比4倍以上に達するなど、移住者は増加傾向にありますが、やはり30 代の子育て世帯の割合が多くなっています」

 23年度の新たな取り組みとして、これまで企画政策課の業務の1つだった移住・定住部門を移住定住推進課として独立させ、同課内に空家対策室も設置。結婚応援課を含めて、ライフステージに応じた一連の相談体制を構築した。 

 子育て支援では、多子世帯子育てすくすく支援商品券や、高校生までの医療費助成が好評。妊娠・出産・子育てに役立つ機能を無料で使える子育て支援アプリ「すくすく坂井っ子」、小・中学校全校で実施している給食での地産地消の推進のほか、幅広い施策が行き届く。

 「就業面では、近畿・中部エリア最大級の工業団地『テクノポート福井』、三里浜砂丘地や坂井北部丘陵地といった農業地帯があり、働く環境は充実。就農希望者には国や県の事業とは別に、市独自の新規就農者定住促進等事業も設けています」

 そう中出さんが説明する一方、課題は男性の育児や家事への参加がまだまだ充分でないこと。そこで坂井市では、市内企業の活性化や働く人たちのワーク・ライフ・バランスを推進するため、福井県内で初めて「イクボス共同宣言」を行っている。女性が社会でさらに輝くことによる、まちの活力創生を目指す。

男女ともに就業率が高い福井県坂井市。県や市では就職や新規就農、起業なども手厚く支援。写真はIターンで就農した夫婦への就農支援の様子。
男女ともに就業率が高い坂井市。県や市では就職や新規就農、起業なども手厚く支援。写真はIターンで就農した夫婦への就農支援の様子。

坂井市のここがオススメ!

遊びを通して科学に親しめる「エンゼル
ランドふくい(福井県児童科学館)」
遊びを通して科学に親しめる「エンゼルランドふくい(福井県児童科学館)」。屋内外に多彩な遊び場が揃う。
芝生広場やミニボート池、花の展示温室
などがあり、親子でのびのびと過ごせる「福井県総合グリーンセンター」
芝生広場やミニボート池、花の展示温室などがあり、親子でのびのびと過ごせる「福井県総合グリーンセンター」。
「越前松島水族館」は、イルカショーをはじめ、さまざまな海の生き物と触れ合える体験型の水族館
「越前松島水族館」は、イルカショーをはじめ、さまざまな海の生き物と触れ合える体験型の水族館。
夏はキャンプや川遊びなどが楽しめる竹田地区の「たけくらべ広場」。春はしだれ桜が美しい。
夏はキャンプや川遊びなどが楽しめる竹田地区の「たけくらべ広場」。春はしだれ桜が美しい。
福井県を代表する冬の味覚の王様といえば「越前がに」。坂井市はその産地として名高い。
福井県を代表する冬の味覚の王様といえば「越前がに」。坂井市はその産地として名高い。
「コシヒカリの故郷」ともいわれる坂井市。近年はもう1つの福井県発祥の米「いちほまれ」の生産も盛ん。
「コシヒカリの故郷」ともいわれる坂井市。近年はもう1つの福井県発祥の米「いちほまれ」の生産も盛ん。

坂井市の子育て支援

医療費助成などの経済的な支援から、子育て支援センターや計33カ所の放課後児童クラブまで、子育てを多面的にサポート。共働き世帯からも好評を得ている。

  • 妊婦健康診査助成
  • 産婦健康診査助成
  • 新生児聴覚検査助成
  • 乳児健康診査助成
  • 出産・子育て応援ギフト( 妊娠期と出産子育て期各5万円)
  • 高校3年生までの子ども医療費助成
  • 在宅育児応援手当
  • 病児保育・病後児保育( 就学前の第2子以降やひとり親世帯などは無料)
  • 子育て支援アプリ「すくすく坂井っ子」
  • 多子世帯子育てすくすく支援商品券

3カ所の子育て支援センターをはじめ、地域子育て支援拠点施設は計6カ所(福井県坂井市)
3カ所の子育て支援センターをはじめ、地域子育て支援拠点施設は計6カ所。

坂井市の移住支援情報
希望に合わせた移住体験を実施

 坂井市では2023年夏からオーダーメイド型の移住体験ツアーを開始。例えば、住まいや仕事探し、子育てや買い物環境の確認、先輩移住者との交流など、参加者のリクエストに応じて1泊2日で市内を案内する。参加費は無料で、公共交通機関での来訪時のレンタカーおよび宿泊先は市が用意(そのほかの実費は参加者負担)。

問い合わせ/移住定住推進課 ☎️0776-50-3034
https://www.city.fukui-sakai.lg.jp/iju/index.html

移住体験ツアーは、県外から坂井市への移住を考えている世
帯を対象に実施
移住体験ツアーは、県外から坂井市への移住を考えている世帯を対象に実施。実際の移住にも結び付いている。

「移住準備のための『お試し移住補助金』も用意しています」
移住定住推進課 中出陽介さん

文・写真/笹木博幸 写真提供/坂井市