BorrominiPublic domain, via Wikimedia Commons

波打つようなダイナミックなボッロミーニの建築は、さまざまな時代の建造物が並んでいるローマでもひときわ目を惹く存在です。この記事ではローマ在住者が、ボッロミーニの人生と、作品の特徴、見どころを紹介します!

イタリア・バロックの巨匠ボッロミーニの人生

Francesco Borromini, Chiesa di San Carlo alle Quattro FontanePublic domain, via Wikimedia Commons

イタリア・バロックの巨匠フランチェスコ・ボッロミーニ(1599-1667年)は、北イタリアの出身です。建築業を営む父と建築業家計の裕福な母を持ち、幼いうちからミラノで石工として彫刻の技術を身に着けました。

窮屈なミラノの芸術的環境から脱するため、若いボッロミーニはローマを目指します。彼の旅路はまるで巡礼者のようであり、道中にある修道院で寝泊まりしながら全工程を歩きで到達したと言われます。ミラノ−ローマ間は東京−神戸間よりも少し遠いくらいなので、それがどれほど大変だったか想像できるでしょう。

ローマで建築家としてのキャリアを始めたボッロミーニは、わずか1歳年上の建築家・彫刻家であるベルニーニと一緒には働くことになります。ベルニーニはそのころすでにローマで名声を得ており、当時のローマ最大の芸術事業であるサン・ピエトロ大聖堂の再建に携わっていました。

ボッロミーニとベルニーニのライバル関係は、あらゆる媒体において、しばしば面白おかしく語られます。これは一部事実と考えられており、引っ込み思案で黙々と考えに耽るタイプのボッロミーニは、エネルギッシュなベルニーニと相いれなかったのかもしれません。

このライバル関係を抜きにしても、ボッロミーニとベルニーニが直接的なかかわりを持ち、共同で事業に携わったことはのちの芸術界に大きな影響を与えます。事実、イタリア・バロック建築は、この偉大な2人の芸術家(それもほぼ同い年の)によって発展していきました。

多くの素晴らしい作品を残したものの、ボッロミーニの晩年は決して幸せなものではなかったようです。うつ病と神経症により不安定な精神状態だったボッロミーニは、「電気をつけろという指示に使用人が従わなかった」という理由で激高し自殺したと言われています。

彼は近くにあった剣の柄を地面につけ、剣先を自分の体に刺すことで命を絶ったのです。繊細で神経質なボッロミーニの性格は、結果的に自分自身を苦しめ、追い詰めてしまったのかもしれません。

ボッロミーニ作品の特徴:曲線と緊張感

Borromini, San Carlo alle Quattro FontanePublic domain, via Wikimedia Commons

ボッロミーニの作品の特徴は、波打つような躍動感です。特に代表的な作品は「サン・カルロ・アッレ・クワットロ・フォンターネ教会(Chiesa di San Carlo alle Quattro Fontane)」と「サンティボ・アッラ・サピエンツァ教会(Chiesa di Sant'Ivo alla Sapienza)」です。

この2つの作品からもわかるように、ボッロミーニの建築には直線的な要素が少なく、いずれの構造も動いているかのようなダイナミックな印象を与えます。これは、普遍的で権威的な作品を多く残したベルニーニに対するアンチテーゼだったのでしょう。

多くのスケッチを残し、数学的な計算、幾何学の研究を通してボッロミーニは美の最高点を目指し続けました。リズミカルな凹凸は常に動いているような印象さえ与え、そのために狭い空間を大きく見せたり、低い天井を高く見せたりする効果があります。

また、ボッロミーニの作品は街中の窮屈な位置にあっても、歪んだ時空のなかにやっと立っているような独立的な印象を与えます。熱狂的な建築への取り組みは、不安定でありながら繊細な彼の精神状態を反映しているようです。

ボッロミーニ作品を見て「不安だ」と感じた人は、彼の作品の魅力に近づけているかもしれません。なにか一つずれればすべてが壊れてしまうような、緊張感のある建築がボッロミーニの特徴です。

ボッロミーニ作品の見どころ:計算しつくされた細部

Borromini, SantIvo Cut Public domain, via Wikimedia Commons

ボッロミーニはとくに細部にこだわることでよく知られています。躍動的で自由にも見える細部は、実は計算から生まれた緻密な形なのです。

ボッロミーニの作品にとってすべての構成要素は計算のうえに成り立つものであり、一見非合理的にすら見える形のほとんどは、いくつかの幾何学的な形を組み合わせることで作られました。

幾何学的な形の組み合わせによって実現したリズミカル構造は、鑑賞者の視線誘導にも役立ちます。実際、バランスの取れたベルニーニの作品を見る際、鑑賞者はおおまかな建築構造をすぐに理解できる一方で、ボッロミーニ作品はじっくりと全体の様子をうかがう時間が必要です。

ボッロミーニの建築には、無機物(建造物)でありながら生き物のような躍動的な美しさがあります。しかし細部を観察すればするほど、そのダイナミズムはランダムな選択によって構成されているのはなく、緻密な計算のうえに実現していると理解できるはずです。

ローマを訪れた際はぜひボッロミーニの建築を体験してくださいね。以上、ボッロミーニの人生と作品の特徴・見どころについてでした。