3月23日、内閣府規制改革推進室のX(旧Twitter)への投稿が大変な物議になった。「再生可能エネルギータスクフォースについてご報告です」という投稿で、2023年12月25日と24年3月22日に開かれた会議で提出された資料に、中国企業のロゴマークの透かしが入っていたことが指摘されたと報告したのだ。

 再生可能エネルギータスクフォースとは「再生可能エネルギー等に関する規制等の総点検タスクフォース」のことで、20年に河野太郎・内閣府特命担当大臣(規制改革)の下で、再生可能エネルギーの規制などを総点検し、必要な規制の見直しを促す目的で設置された。その会議に有識者として、再生可能エネルギーを推す民間団体から参加した大林ミカ氏の資料に、中国の電力会社である国家電網公司の企業名やロゴの透かしが入っていたため、政府の会議に中国企業の影響が及んでいるのではないかと騒ぎになった。

 大林氏によれば、自身が事業局長を務める自然エネルギー財団が過去に開いたシンポジウムで使われた中国側の資料のロゴが入り込んでしまったのだという。

 この「中国企業ロゴの透かし問題」では、中国企業が世界的に高いシェアを誇る太陽光パネルや風力発電などにからむビジネスを、中国政府などが日本でも推し進めようとしているのではないかとの指摘が出ている。また、中国が、自分たちの思惑に沿った主張をするように、自然エネルギー財団を裏で動かしているのではないかといった声すら聞かれる。

 さすがにそれは言い過ぎだろうが、現実には、中国エネルギー系企業がかなり日本に入り込んでいることは事実で、自然エネルギー産業が拡大すれば、中国企業のさらなる利益になるのは確かだ。

 筆者は、この騒動の前から自然エネルギーについて取材をしている。そして、実はいま、日本のエネルギー分野では中国の企業がかなり活動しているという情報も得ている。本稿では、日本国内に浸透している中国エネルギー系企業の実態に迫ってみたいと思う。

●中国企業から狙われる「買取制度」

 日本のエネルギー分野が中国企業に狙われるようになった要因の一つは、何と言ってもFIT制度だ。FIT制度は12年に始まったもので、「再生可能エネルギー固定価格買取制度」と呼ばれる。太陽光などで発電すれば、政府が定めた価格で一定の期間にわたって電気を買い取ってくれる。

 この政府による買取費用の一部は国民が負担している。毎月の電気料金に含まれる「再エネ賦課金」がそれだ。多くの人が自覚のないまま徴収されているのである。

 同じような買取制度は海外にもあるが、日本政府の電力買取価格があまりにも破格で、国際標準と比べると2倍ほどになるとも言われている。そもそも日本における太陽光発電は、参入障壁も低いと認識されており、そこに目を付けたのが中国の企業だ。たくましいと言うかなんと言うか、とにかく金もうけには貪欲だと言っていいだろう。

 資源エネルギー庁の幹部が言うには「23年までに、この買取制度で認定された関連企業は小規模なものも含めて42万社ほどだが、そのうち中国国籍の人や日本国籍を取得した中国人、さらに中国企業などが出資していると見られる企業が関与している数は、日本の各地で1500件にも上る」

 その中国企業のうち9割以上は、太陽光発電の事業を行っている。太陽光パネル製造の世界的なシェアが高い中国は、日本でのFITで容赦なく太陽光発電に食い込んできている。中国にしてみれば、中国製の太陽光パネルを各地に大量に設置すれば、設置企業はFITでもうかり、さらにパネルを製造して輸出する中国企業ももうかる。

 ある日本の公安関係者は「FITに認定されている中国関係者の中には、中国共産党とのつながりがうかがわれる在日中国人が経営している企業も少なくない。しかも、一事業者が100件以上の認定を受けているケースもある」と指摘する。かなりの金額を稼いでいる、ある在日中国人が中国の電力企業の元幹部だったケースもあり、中国企業などとのパイプも太い。

●安全保障に影響を与える可能性も

 筆者が入手した政府機関が作成した文書には、いくつかの中国系太陽光発電事業者の動きがリストアップされている。在日中国人(1)はFIT事業認定を約300件も獲得。帰化中国人(2)は約270件、帰化中国人(3)は約130件、在日中国人(4)は約80件と続く。

 前出の公安関係者は「23年だけを見ても、こうした中国の事業者らが年間で得ている再エネ賦課金は20億円にもなるとわれわれは概算している」と述べる。つまり、私たちが毎月払う電気料金からこれだけの「賦課金」が中国企業などに払われていることになる。

 『週刊文春』は23年10月、「中国国営系企業『上海電力』が青森県の空自基地近隣で太陽光発電所を運営していた!」という記事を掲載。記事で取り沙汰された「上海電力日本株式会社」も、この政府機関の文書に名前がある。

 その資料によれば、上海電力は太陽光発電でFIT事業認定を9件受けている。日本企業と合同会社を設立したり、買収したりするなどして事業を展開しているという。『週刊文春』が記事で問題視した青森県東北町の太陽光発電所をはじめ、栃木県那須烏山市、茨城県つくば市、大阪市、兵庫県三田市や豊岡市、山口県岩国市に太陽光パネルの発電施設を建設している。加えて、福島県西郷村でもすでに上海電力関連のソーラーパネルが大量に設置されている。

 大阪市南港の咲洲の施設は、大阪市の公共事業であり、上海電力にとって日本で初めてのメガソーラー発電所だった。実は、競争入札で落札したのは別の企業だったが、途中から同社が参入したことで物議になっている。

 福島県などではこうしたソーラー発電施設に、造成工事などで土砂が流出するといった被害も出ており、環境への配慮についても問題視されている。さらに昨今注目されているのが、日本の重要地域に設置され、安全保障に影響を与える可能性がある施設だ。自衛隊の基地など防衛関連の施設に近接する事業があれば、周辺に関して情報収集が行われるかもしれない。

●事業推進だけでなく、対策も徹底すべきだ

 日本政府は、エネルギー政策の基本的な方向性として「2050年カーボンニュートラル(温室効果ガス排出量をゼロにすること)」を宣言し、環境対策が「社会経済を大きく変革し、投資を促し、生産性を向上させ、産業構造の大転換と力強い成長を生み出す、その鍵となるものです」と説明している。

 再生可能エネルギーを推進すれば、日本企業にもビジネスチャンスが広がる。太陽光エネルギーもその一つであるが、その機会を外国勢に奪われてしまえば本末転倒である。しかも、それが安全保障にも関わると指摘されているのであれば、なおさら対策は必要だろう。

 日本政府は22年4月から、FIT制度に加えて、FIP制度を導入している。これは発電事業者が、市場などに電気を売ることでプレミアム(補助金)を上乗せして受け取れるもので、FITの固定額での買い取りとはまた別の制度になる。どちらも再生エネルギーの普及という目的は同じである。

 筆者は、自然に配慮するために日本政府が進めている事業を、頭ごなしに批判するつもりはないし、中国企業を目の敵にして区別するつもりもない。ただ、重要インフラである発電施設の管理は、国民の生命財産を守るために、日本政府がきちんと取り組むべきだと思っている。

(山田敏弘)