2024年3月16日、新しい鉄道会社「ハピラインふくい」の路線が開業した。この路線は、北陸新幹線・金沢駅〜敦賀駅間(約125キロ)開業に伴い、並行するJR北陸本線のうち福井県内の区間(大聖寺駅〜福井駅〜敦賀駅間)を引き継いで誕生したものだ。

 15年3月の長野駅〜金沢駅間延伸で「北陸新幹線」が開業した際には、並行する北陸本線のうち富山県内の区間が「あいの風とやま鉄道」に、石川県内の一部区間が「IRいしかわ鉄道」に引き継がれた。

 そして今回の金沢駅〜敦賀駅間延伸で、福井県内の区間がハピラインふくいに、石川県内の金沢駅〜大聖寺駅間がIRいしかわ鉄道に移管された。これで、約240キロにも及ぶ北陸三県(富山県・石川県・福井県)の並行在来線(旧:北陸本線区間)が、全て第三セクター鉄道へ引き継がれたことになる。

 ハピラインふくい開業初日は、北陸新幹線の開業イベントに向かう人々で、どの車両も満員。「これから県民鉄道として頑張って参ります」と繰り返しアナウンスされ、終始祝賀ムードに包まれていた。

 しかしハピラインふくいの船出は初日からトラブルも多く、不安を残すものであった。

 ハピラインふくいの今後の経営環境は、課題が山積している。期待と不安が入り交じるハピラインふくいの今後を探りつつ、北陸3県ごとの第三セクター鉄道の課題についても整理してみよう。

●11年間で「70億円の赤字」想定 ハピラインふくいの現状

 現状でも1日2万人に利用されているハピラインふくいだが、今後10年間で1割ほどの利用者減少、それに伴う減収が見込まれている。この減少分を補うべく、利用者獲得・収益向上に向けて、開業とともにさまざまな取り組みが行われている。

 まずは、ダイヤの改善だ。これまで1日30往復以上も運行されていた「サンダーバード」(大阪方面)、「しらさぎ」(名古屋方面)などの特急列車が消滅したかわりに、普通列車が20本も増発された。

 福井平野は通勤・通学とも福井市への一極集中が激しく、6市2町で通勤・通学の移動先として福井市が1位に(他市町も僅差。令和2年国勢調査より)。なかでも人口が集中するハピラインふくい沿線での列車本数の増加は、地元の人にとってありがたい話だろう。他にも越前市内で新駅「しきぶ駅」(武生商工高校の前)の設置に向けて動くなど、利便性の向上に向けて動いている。

 また、福井市までの遠距離通勤・通学が多い嶺南(敦賀市・南越前町など)などに配慮して、敦賀駅〜福井駅間で快速の新設も行われた。福井駅〜金沢駅間も現行の103分から最短77分に短縮するなど、スピードアップが図られている。

 ハピラインふくいは、こういった列車の増発で初年度(令和6年度)の運賃収入を17.5億円、これに加えて貨物列車の線路使用料(乗り入れによる経費増分の支払い)が17.2億円、ほか雑収を含めて38.7億円の収入を見込んでいる。しかし諸経費は46億円前後かかる見込みで、今後とも年間6億〜7億円程度の赤字が発生。開業後11年間の積算で、約70億円の赤字が出ると計算されている。

●商売下手? 赤字補填に向けて必要な要素

 ハピラインふくいの赤字を埋めるために準備されたのが、福井県や沿線市町村によって作られた約70億円の経営安定基金だ。この基金をなるだけ取り崩さず、金利・運用益で今後の赤字を埋めていくことになる。

 幸いにして24年現在、植田和男・日本銀行総裁が17年ぶりのマイナス金利解除・利上げの検討を始めている。過信は禁物だが、これまで低金利による運用益低下で効力を発揮しなかったJR北海道・JR四国などの基金よりは、安定した運用益が見込めるかもしれない。

 JR西日本から約70億円で引き継いだ鉄道設備のなかには、空きスペースや店舗を展開できそうな空間も多くある。今後は広告出稿やテナント入居などで、こういった空間を少しでもマネタイズするノウハウが必要となってくるだろう。

 開業初日に気になったのが、全体的な「商売っ気の薄さ」だ。

 車内の広告は自社のPRで埋め尽くされ、まだ一般的な広告を取りにいく営業部隊が動いていないことを感じさせた。

 もっとも、15年に発足したあいの風とやま鉄道、えちごトキめき鉄道でも似たような状態(広告自体がほぼなかったので、もっとひどい)だったため、副業収入も含めて開業当時からロケットスタートさせるような感覚は、半官半民の第三セクター鉄道にはないのだろう。

 せっかくの開業フィーバーなのだから、「しばらく需要が激増します! 今スポット広告のご契約を!」と営業活動を行うような感覚がないものかなぁ……と、第三セクター鉄道の開業を見に行くたびに「もう俺に飛び込み営業させろよ!」(注:筆者はもともと営業マン)とすら思う。

 また、福井駅には券売機が1台しかない(スペースは6台分あるが、JRのものであるため閉鎖。開業2日後に1台増設)。丸岡駅・森田駅などで券売機トラブルがあり、切符の購入・精算は長蛇の列。開業日の特需を逃すだけでなく、後味の悪さも残った。

 こちらは「ハピラインふくい開業記念・鉄道3社共通1日フリーきっぷ」などのフリー切符を購入すれば、記念になる上に行列に並ばなくていい。せめて臨時売店や購入の案内所を設けて「これを買ったら記念になるし、このあとも乗り放題ですよ!」などと積極駅に声をかけていれば、行列に並ぶ利用客の心象も、売り上げも違ったかもしれない。

 杉本達治・福井県知事(ハピラインふくい会長職を兼任)によると、北陸新幹線・ハピラインふくい開業日に飛行した「ブルーインパルス」見たさの乗客が想定外に多かったようで、切符の販売体制や車両数について「大変申し訳なかったと思っている」と陳謝している。

 こういったイベント需要は毎週続くものではないにせよ、ハピラインふくいにとっては、またとない稼ぎ時であったはず。経営環境の厳しさが見込まれるのであれば、機を見て臨時増便を行い、隙あらばグッズを売ろうとする銚子電鉄の機動力・良い意味でのがめつさを少しは見習い、支持されて、かつ稼げる企業体質を作ることを心掛けてもよいのではないか。

●黒字キープの優等生「IRいしかわ鉄道」も今後は赤字予想

 ここからは、ハピラインふくい以外の北陸・第三セクター鉄道の事情を見ていこう。

 15年の新幹線延伸時に北陸本線・倶利伽羅駅〜金沢駅間の移管を受けて開業した「IRいしかわ鉄道」は、コロナ禍の20〜21年度以外で黒字をキープし、「第三セクター鉄道の優等生」として知られてきた。

 業績が好調だった要因は、同社が持つ路線の環境の良さにあった、富山県〜金沢都市圏への通勤・通学の多さに支えられつつ、金沢駅〜津端駅間にJR七尾線の普通列車・特急列車が乗り入れることで、上乗せ運賃の運賃をしっかりと獲れたのだ。

 開業前には赤字経営が見込まれており、隣県のあいの風とやま鉄道との直通列車を維持しつつ、ファンクラブ会員の獲得などで、想定外に利用実績を伸ばしたことが、黒字キープの最も大きな要因だろう。

 しかし、北陸新幹線・金沢駅〜敦賀駅延伸とともに金沢駅〜大聖寺駅間の移管を受けた区間の輸送密度は、倶利伽羅駅〜金沢駅の7割程度(輸送密度は約9200。平成26年度推計値)。IRいしかわ鉄道は、今度こそ10年間で87億円程度の赤字転落が予想されている

 幸いにして、今回の移管前にJR西日本から高架下の用地を授受され、テナント収入を得ることができる(10年間でプラス34億円の収入となる見込み)。ただそれでも経営環境は厳しい。

 IRいしかわ鉄道はこれまで運賃値上げを最低限にとどめていたが、24年3月に普通運賃の平均14%引き上げを申請。この水準を29年まで保つ意向を示している。しかし、もし赤字がかさむようであれば、29年以降の大幅な値上げも必要となってくるだろう。

 同社の課題は「堅実な利用促進による支持を保ちながら、将来的な値上げに納得してもらえるプロセス作り」といったところだろうか。

●「ワンチーム作戦」で攻める「あいの風とやま鉄道」

 富山県内の北陸本線区間(泊駅〜富山駅〜倶利伽羅駅間)の移管を受けた「あいの風とやま鉄道」は、22年度以降は基金からの補助を年間1億〜2億円受けつつ、赤字・黒字のはざまをさまよっている。

 同社のエリアは今回の北陸新幹線・延伸エリアではなく、そこまで影響を受けることはない。ただ、富山県は県内のJR路線(氷見線・城端線)の移管を受け、29年をめどにあいの風とやま鉄道での運営を提案。すでに合意に至るなど、独自の動きを見せている。

 富山県はこれまで、JR富山港線の「富山ライトレール」移管・LRT化(04年)、富山ライトレール・富山地方鉄道の合併と直通運転開始(20年)、そしてあいの風とやま鉄道の増便・快速設定による乗客増加(2020年以降はコロナ禍で減少)など、県が主導・出資を行うことで、鉄道の経営効率を改善させてきた実績がある。

 そして城端線・氷見線も、課題であった旧型車両の更新(製造から40年を超えるキハ40系が主力)や増便・高速化を行う意向を富山県が示し、JR西日本は各種協力を行いつつ、150億円の拠出を行うことを明らかにしている。いわば、富山県側にとっては「自前運営で効率化+サービス向上・赤字幅縮小」、JR西日本としては「“手切れ金”によるローカル線の損切りと、富山県との関係維持」という、ウィンウィンの関係を築いているといえるだろう。

 なお、新田八朗・富山県知事は、県内の鉄道を一体となって救済する「ワンチームとやま」政策を掲げており、富山地方鉄道の鉄道線3路線の上下分離(線路・鉄道設備などを県などが保有し、税金負担などを軽減する)への検討も進めている。

 富山県と富山市の動きからは、あいの風とやま鉄道、JR城端線・氷見線、富山地方鉄道を合わせて、県・自治体の自前でワンチームで経営していく強い意志が感じられる。鉄道経営へのビジョンを示し、必要な補助金や拠出を受け取って地域で汗をかく、という在り方は、国土交通省がいま進めている「再構築協議会」を、富山県が自前で積極的に進め、国・JRともうまく関係を維持しているようなものだ。

 現在、再構築協議会では「JRが数億円の赤字をかぶって当たり前」「廃止反対はするが、かわって運営はしない、金も出さない」と、話し合いのテーブルにすらつかない某自治体もある。どことは言わないが、その姿勢とついつい比べてしまう。

●3県3セク+北陸新幹線 どう連携していく?

 こうしてみると、3県の鉄道会社は、それぞれの意思と思惑をもって動いていることが伺える。

【富山県・あいの風とやま鉄道】

ワンチーム自前運営、増便・利便性改善の主導権を握りたい

【石川県・IRいしかわ鉄道】

赤字転落を最小限にとどめ、将来的な値上げのプロセスを作りたい

【福井県・ハピラインふくい】

まず、会社として稼げるサービスの構築!

 110年の歴史を誇るJR北陸本線を受け継いだ3社は、北陸新幹線と共存共栄・連携しつつ、どこまで鉄道としての役割を果たしていけるのか。あらたに県民鉄道としてスタートを切ったハピラインふくいの動向は、3県の第三セクター鉄道の今後を占う意味でも、目が離せない。