最近コンビニのアイスクリームの品ぞろえに変化が生まれています。以前と比較して高級化が進んでおり、100円台はおろか、200円台でも買えない商品が続々と出現しています。なぜ、コンビニアイスがこれほど高級化しているのでしょうか。そして、誰が買っているのでしょうか。どうやら、コンビニのアイスクリームの品ぞろえは日本人の嗜好(しこう)の変化に合わせて変化しているようです。

 消費トレンドを追いかけ、小売り・サービス業のコンサルティングを30年以上にわたり続けているムガマエ代表の岩崎剛幸が分析していきます。

●高まるエンゲル係数 40年ぶりの高水準

 国内のエンゲル係数が高まっており、40年ぶりの高水準に達しています。エンゲル係数とは、家計の総支出に占める食費の割合です。総務省「家計調査」によると、国内のエンゲル係数は29.0%(2022年9月〜23年8月までの1年間平均)。物価高で身の回りのあらゆる物が高くなっていますが、特に毎日の買い物で利用する食品関係の価格が上がってきたことが影響しています。

 私たちの食生活が年々豊かになり、食事の内容自体がバラエティーに富んでいることも背景にあるでしょう。今や日本の小売業は、食品の品ぞろえを欠いては店が成り立たないほど。食品は最重要カテゴリーになっています。

 日本人の食費支出金額の中で、構成比をじわじわと上げてきているカテゴリーがあります。それがアイスクリームです。大きく日本人の食生活は「肉食化」「間食化」「中食化」という変化を遂げており、中でも間食化の流れは年々強まっています。

●最も市場規模が大きいアイスのジャンルとは?

 特に消費が増えているのが、チョコレート・スナック菓子・ビスケット類・洋菓子、そしてアイスクリームです。中でもアイスクリームは、ここ10年で年間消費支出金額を大きく伸ばしています。

 2014年に8006円(2人以上世帯の家計消費支出)だった支出は、2023年に1万1580円と、3500円も増えています。食費内構成も0.88%から1.11%に増加し、確実に存在感が高まっています。

 B2Bの製造販売金額で見たアイスクリームの市場規模も、多少の上下はあるものの、市場は拡大傾向にあり、国内では5500億円市場となっています。製造原価や経費が上がって販売価格の改定が相次いだこともあり、1リットル当たりの単価も上昇傾向にあります。これに合わせて、商品そのものに付加価値をつけた商品開発も増えてきています。

 アイスクリーム協会が算出している市場規模によると、国内で最も規模が大きいのは「マルチパック」といわれる、1箱に複数のアイスが入っているタイプの商品です。「お徳用」として品ぞろえしている店舗も多く、店としてもメーカーとしても、単価を上げて売り上げを確保できる商品のため、最も売れる商品カテゴリーになっています。

 その他、業務用も2ケタ以上の伸びを見せているだけでなく、さまざまなタイプで前年比が伸びています。つまり、ほぼ全領域で規模が拡大しているのです。

 コンビニのアイスクリーム販売事情を探るべく、都内某所のセブン-イレブン、ファミリーマート、ローソンの店舗を視察しました。すると、いくつかのアイスクリーム販売における変化が見えてきたのです。

(1)アイスケースの進化

 アイスクリーム販売を強化した先駆者は、何といってもセブンでしょう。そのセブンで導入しているアイスケースの進化には、目を見張るものがあります。

 アイスクリームが並ぶ大型アイスケースを店内に導入したのは、コンビニエンスストア業界ではセブンが初めてだったそうです。当初のアイスケースは、フタのついたものでした。

 その後、フタがない、外気に触れる状態でアイスクリームを販売する新たなケースを導入しました。いわゆる「冷凍平台」です。フタがなくなったことで、アイスを手に取りやすくなりました。ケースに手を伸ばせる方向が増えるため、一度に販売できる量も増加。筆者は、冷凍平台の導入が、コンビニのアイスクリーム売り上げが大きく伸びるきっかけになったと考えています。

 目に見えない冷気の層を作り、温度を保つ冷凍平台。初めて見たとき、筆者は「フタがなくてもアイスが溶けないのか」と驚いたものです。その後、他のコンビニでも冷凍平台が標準となっていきました。

 一方、セブンの新店では再びフタつきのアイスケースに戻すなどの動きも見られます。外気の影響が少なく温度変化に対応できるため、店舗の入り口周辺でアイスを販売可能です。そのため、さらに売り上げが伸びる起爆剤になるかもしれません。

(2)商品の高級化

 アイスといえば、筆者が子どものころ(1970年代)は1本50円でした。近所の駄菓子店に、50円玉を握りしめて買いに行ったことをよく覚えています。それが今では100円以上が当たり前、300円を超えるようなアイスも登場するなど、高級化が進みました。

 『セブン、人気アイス「まるで」シリーズで300円超の超高級バージョン投入 価格の松竹梅戦略』という記事によると、セブンではアイスの中価格帯ラインアップとして150〜200円前後のセブンプレミアム商品「『まるで』シリーズ」を展開。低価格帯は「ガリガリ君ソーダ」や「みぞれいちご」(ともに86円)、高価格帯は350円前後の「白くま」シリーズを投入しており、それぞれで松竹梅の戦略をとっています。

 この松竹梅戦略は、商品販売の原則で、松と梅を見せることで中心価格帯の竹をしっかりと販売していくための戦略です。セブンはその竹にPB商品を投入することで、アイスで粗利を稼ぐ方針を打ち出しています。

 筆者が視察したセブンの店で品ぞろえしていたアイス、全54商品のうち、松といえる300円以上の品ぞろえは、13(店頭で作るヨーグルトスムージー4商品を含む)。100円以上200円未満の竹が40商品、100円未満の梅が1つという状況でした(マルチパックは含めず)。150〜200円である竹商品の品ぞろえは、8割近くに及びます。まるでシリーズなどのPB商品を竹に多く投入しつつ、松の価格帯でもPBを増やし始め、アイスクリームのプレミアム化を進めているようです。

●「まるでクラウンメロン」を食べてみた

 セブンが力を入れている「高級アイス」はどんな味なのでしょうか。実際に食べてみました。食べたのは、セブンが4月15日から投入を始めた「銀座千疋屋 まるでクラウンメロン」(321円)というアイスバーです。

 同商品のコンセプトは「銀座千疋屋の知見を生かし、静岡県産のクラウンメロンを使用したシリーズ史上初の高級な味わいを目指す」といったもの。一口食べると、その言葉に負けず劣らず、確かに「まるでクラウンメロン」な味です。メロンの風味がしっかり伝わってきます。セブンのロゴがなく、パッケージに銀座千疋屋のロゴだけであれば、500円以上しても不思議ではない商品だと思いました。もはや、従来のコンビニスイーツを超えるような商品が、アイスクリームに登場した――そんな印象を受けます。

 セブンを筆頭に、コンビニ各社はアイスクリームの商品開発に力を入れ、さらに売り上げを伸ばそうとしています。それは、コンビニのメイン客層である40代以上の大人が、よく購入する商品だからです。実は、アイスクリームの購入者で最も多い層は、40代なのです。

●アイスはもはや、子どものものではない?

 「アイスクリームは子どもが買うもの」というのは、昔の話。今はその多くを、大人が消費しています。40代を筆頭に、次いで30代、50代がアイスクリーム市場を支えています。だからこそ、コンビニ各社は、高価格の商品を開発しているのです。

 とはいえ、現状のセブンの品ぞろえは、二極化する消費に対して梅の品ぞろえが少ないと感じます。竹や松の品ぞろえを増やしすぎると、消費者にとってはなかなか手を伸ばしにくくなります。あくまでも「買いやすいコンビニのアイスクリーム」という品ぞろえの軸を忘れないことが、重要です。

 アイスクリームは、5月ごろから急激に売れ始め、7〜8月にピークを迎える、夏の代名詞的商品です。しかし、最近ではその後も売り上げが大きく落ちることなく、11月の秋口からも売り上げが伸びていきます。今夏以降、アイスクリームの商品や売り方でどんな新しいイノベーションが起きるのか。また、アイスクリームのように子どもから大人へとターゲットがシフトする市場にはどんな特徴が見られるのか。今後もさまざまな商品で分析していきたいと思います。

(岩崎 剛幸)