タワーマンションや高層ビルなど、高所での建設作業を支える「とび業界」が危機に見舞われている。東京商工リサーチ(東京都千代田区)の調査によると、2023年度のとび工事業の倒産は135件と過去10年間で最多だった。職人不足やコスト増が負担を増す中で業績不振が進み、原因が複合的に重なって業界が苦戦に陥っている。

 過去10年間のとび工事業の倒産は、2022年度まで毎年80件前後で推移していたが、2023年度に一変する。2022年度(79件)から135件に急増し、過去10年間で初めて100件を超えたほか、これまで最多だった2019年度(84件)を上回り、最多を更新した。

 原因別にみると、「売上不振(受注不振)」(93件、前年度比89.7%増)、赤字累積などの「既往のシワ寄せ」(36件、同125.0%増)が上位を占めるなど、ほとんどが業績不振だった。

 さらに、原因を掘り下げると業績不振以外にも厳しい事情が見え隠れする。「人手不足」(10件)、資材高騰などの「物価高」(10件)がいずれも急増するなど、職人不足やコスト増により業績不振が進んだことが見てとれる。

●有効求人倍率は全体平均の7倍超

 厚生労働省が発表したとび職人を含む「建設駆体工事従事者」の有効求人倍率は、2023年度が9.39倍と全体平均1.29倍の7倍超に上る。建設業界の職人不足は年々、深刻化している一方、国勢調査によると2020年の「とび職」の就業者数は10万9330人で、1995年の11万2517人と就業者数に大きな変化はない。 

 それでもとび職人不足なのは、とび職を希望する若者が少ないことに加え、とび工事業間の人材獲得の競争が激しいためとみられる。4月上旬に東京商工リサーチが実施した調査によると、とび工事業16社のうち、正社員が「不足」との回答率は81.2%に達した。

 また、倒産以外にとび工事業の休廃業・解散は2023年に498件と、過去10年間で2番目の高水準だった。後継者難だけでなく、職人不足による廃業も増えている。

 2024年3月の建設業の倒産は180件だった。3月に180件を超えたのは2013年以来、11年ぶりだ。東京商工リサーチは「時間外労働規制など2024年問題の影響はこれから本格化する。建設現場に欠かせない『とび工事業』の倒産急増は、建設業界全体が真剣に取り組む問題でもある」とコメントした。