完璧じゃなくて、“ほぼ”でいい―。練り製品メーカー「カネテツデリカフーズ」本社(神戸市東灘区)内に「ほぼカニ様」をご祭神とした「ほぼカニ神社」がこのほど誕生した。同社の主力商品であるカニ風味かまぼこ「ほぼカニ」の発売10周年を記念して建てられたもので、六甲アイランドの一角に現われた巨大なカニのご神像を見つけ、信号待ちで二度見する人、写真を撮りまくる人、思わず手を合わせて参拝する人が続出している。

 同神社は4月1日の「ほぼカニの日」(日本記念日協会認定)に建立。カネテツデリカフーズ敷地の北西角に、全長3メートル20センチ、高さ2メートル30センチのカニ(と、ほぼカニ)のご神像が歩道に向けて祀られている。境内の社紋は、カニ爪をモチーフとした「カニ爪巴紋」、祠には、ほぼカニ様の形をした「カニ雲飾り」があしらわれ、祠前には狛犬ならぬ「狛カニ」(右側に「阿形カニ爪」、左側に「吽形カニ爪」)が並ぶ。参拝者への授与品として、「ほぼカニ爪御守」(全4種)もある。

 ほぼカニ様について、同社の広報担当は「変化が激しく不確実な現代、高みを求めて苦しくなっている人に寄り添い、『完璧じゃなくていい、“ほぼ”でいい』との教えを伝える神様」とひもとき、同神社を「ほぼの聖地」とする。

「ほぼカニ」は2014年に発売。練り製品の売り上げが伸び悩む夏場に、サラダなどにも活用できるカニかまぼこの新商品を、という方針で企画された。「世界一ズワイガニに近く」との目標を掲げ、ズワイガニに含まれるアミノ酸を分析、タラのすり身を原料に、本物そっくりの味と食感、複雑なほぐれ具合を実現した。

 仕上がった商品を試食した同社の村上健会長は「ほぼカニやん」とコメント。会長のインパクトあるひと言はそのまま商品名候補になり、「ふざけてると思われるのでは」と社内から心配する声も上がったが、最終的に「ほぼカニ」に決まった。

 ちなみにそのほかの候補は「ZY(ズワイ)」「なんかカニ」「カニゴールド」などだったという。

 そして発売前、「お客様に本物のカニと誤認されないように」、パッケージに「※カニではありません」と注意書きを入れたことが運命を決めた。「わざわざ『カニではありません』とか、どんだけ自信あんねん」「シュール」などという想定外の反応がSNSで広がり、その反響を受けてテレビでも紹介され、発売直後から売り上げはうなぎ上り。予想以上の注文が来て、半年で製造ラインのキャパを超えた。そのため、多額の制作費を掛けたCMも数回流し、お蔵入りに。

 以降、ほぼカニは年々販売数量を更新、同社のトップセールス商品として、これまでに累計7000万パックを売り上げている。

 ブレイク商品のめでたい10周年。だがなぜ「神社」なのだろう。その理由について、同社広報担当の加藤諒子さんは、「ほぼカニをはじめとする、うちの商品は『食の課題解決』という使命を背負っているのです」と切り出す。

 カネテツデリカフーズは魚介類の水揚げ量が減っている現状の対応策として、「ほぼホタテ」「ほぼタラバ」、また魚卵・甲殻類アレルギーの人に向けて、「ほぼいくら」「ほぼエビ」、さらに「土用の丑の日」限定の「ほぼうなぎ」なども開発。手頃な値段でおいしく味わえる代替の“海の幸”を提供してきた。

 加藤さんは「食にまつわる困り事を解決するというスタンス、お客に寄り添いたいという思いを形にしたいと考えた時に、浮かんできたのが神社建立でした」と明かし、「ほぼカニは、決してカニになり代わろうとしているのではない。カニが取れない時はカニが育つのを待ちながら代わりに食べてもらって、カニが育ったらカニを食べてもらったら良い。海の資源と仲良くなるのが大事と思っています」と、ほぼカニ様からのメッセージとしか思えない話を聞かせてくれた。

「ほぼカニ神社」は六甲ライナー「アイランドセンター」駅から西へ徒歩約15分。御守は、本社内にあるちくわ・かまぼこ手作り体験施設「てっちゃん工房」の売店で販売している。