2020年から全世界に猛威を振るった新型コロナウイルス。

 緊急事態宣言の終了が発表され、日本でも5類感染症に位置づけられましたが、ウイルスが消え去ったわけではなく、その脅威がいつまた再燃するとも限りません。

 そんな中、今、世界中で大きく注目されているのが「新型コロナ後遺症」です。

 全身の疲労感、倦怠感をはじめ、さまざまな症状が2か月以上にわたって持続するもので、感染から1年、2年と経過しても、後遺症に苦しむ人が少なからずいます。

新型コロナ後遺症と慢性上咽頭炎

 ※画像はイメージです「実は、新型コロナ後遺症やワクチン後遺症に悩む患者さんを診察すると、『ほぼ全員』といってよいほどの高い割合で、激しい慢性上咽頭炎が見つかります。

 もともと慢性上咽頭炎は多くの人に見られますが、新型コロナ感染症や新型コロナワクチン(mRNAワクチン)の副反応によって慢性上咽頭炎が悪化し、その影響でさまざまな症状が起こると考えられます」

 そう明かすのは、慢性上咽頭炎治療の第一人者であり、4000人以上の患者を診てきた医師・堀田修先生。

 堀田先生によると、新型コロナ後遺症・ワクチン後遺症の改善には、慢性上咽頭炎の治療であるEAT(上咽頭擦過療法)が有効で、複数の医師や大学などの研究機関が報告や論文発表を行っています。

 『その不調の原因は慢性上咽頭炎にあった』 本記事では、堀田先生の新刊『その不調の原因は慢性上咽頭炎にあった』より、慢性上咽頭炎について、新型コロナ後遺症の症例とともに説明していきます。

「慢性上咽頭炎」とはなにか

『その不調の原因は慢性上咽頭炎にあった』 呼吸によって左右の鼻の穴から吸い込まれた空気は鼻の奥で合流して、肺に続く気管へと向かいます。鼻から入った空気が流れを変える場所が、上咽頭です。

 吸い込んだ空気には、ほこりやダニ、さまざまな細菌やウイルスなど、体に有害な異物が含まれていることがあります。

 私たちの体には、こうした異物から体を守るための「免疫」のしくみが備わっています。上咽頭はこれら異物との最初の接触地点であり、この場所で炎症が起こるのが「上咽頭炎」です。

 もともと上咽頭は、細菌やウイルスが侵入して増殖することにより、炎症を引き起こしやすい場所です。

 上咽頭に炎症が起こると、鼻水や咳、のどの痛み、つまり、風邪のような症状が現れます。

 こうした急性の上咽頭炎であれば、抗生剤や消炎剤などで治療できますし、少し経てば自然に治ることが多いものです。

 ところが、なんらかの理由によって、上咽頭の炎症が慢性化した状態になってしまうことがあります。これを「慢性上咽頭炎」と呼びます。

有効な治療法「EAT」

『その不調の原因は慢性上咽頭炎にあった』 慢性上咽頭炎には現在、処方できる薬はありません。ですが、ご安心ください。たいへん有効な治療法があります。

 それが「EAT(イート・上咽頭擦過療法)」です。手法としては単純なもので、0.5〜1.0%濃度の塩化亜鉛の溶液を浸み込ませた綿棒を鼻から、咽頭捲綿子(のどの奥に薬を塗るための医療器具)を口から直接入れ、上咽頭にこすりつけるという治療法です。

 EATを行ったとき、慢性上咽頭炎がある人と、そうでない人とでは、反応がまったく違います。

 上咽頭は常に体外からの異物の侵入にさらされているため、健康な人でもある程度の炎症があるものです。

 けれど、それが病的な炎症でない限り、EATを行ってもさほどの痛みはありません。出血もないか、あっても軽度です。

 ところが、上咽頭に病的な炎症が起こっていると、綿棒をこすりつけることで激しい痛みを感じるのです。大の大人でも耐えきれずに涙を流すようなことが珍しくないほどです。

 また、炎症が激しいほど大量の出血が起こり、挿入した綿棒に血が付着します。白い塊状の膿(死んだ免疫細胞や細菌、ウイルスなどがたまったもの)が取れることもあります。

 こうした痛みや出血の程度が、慢性上咽頭炎を見分ける重要なポイントの一つになります。EATは慢性上咽頭炎の「治療」になると同時に、「診断」にもなるのです。

【症例:新型コロナ後遺症】

ほぼ寝たきりだったNさんが職場復帰するまで

 Nさん(32歳・女性)はコロナワクチンを3回接種していましたが、2022年7月に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に罹患しました。

 38℃台の発熱が3日間に加えて、咽頭痛、痰、咳がありましたが、これらの症状は2週間程度でほとんどなくなりました。しかし、その後も強い倦怠感、疲労感、頭痛、動悸、めまいや立ちくらみなどの症状が続きました。

 いったんは職場に復帰しましたが、仕事を続けることは困難となり、すぐに自宅療養となりました。

 産業医のすすめで大学病院のコロナ後遺症外来を受診し、漢方薬を投与されるも改善はなく、ほとんどの時間を横になっているという状態が3か月続きました。

痛みのあまり泣き出したNさん

 ※画像はイメージです そんな折、テレビで地方放送局の番組を見た家族にすすめられ、12月に当院(医療法人モクシン堀田修クリニック)を受診しました。なお、当初は味覚障害と嗅覚障害もありましたが、それらは3か月ほどで回復したとのことでした。

 診療室に入って来たNさんは、目に力はなく、眉間にはしわが刻まれ、首はうなだれ、か細い声で、全身から体調不良のオーラが漂っていました。

 Nさんはネットなどで調べてEATについてはすでにご存じでしたが、初回治療は鼻からの細い鼻綿棒を用いたEATのみとしました。咽頭捲綿子を用いた口からのEATは患者さんがよりつらいと感じることが多く、この状態のNさんには負担が大きいと考えられたからです。

 綿棒には血液がべっとりと付着し、Nさんは痛みのあまり、泣き出しました。気持ちが落ち着くのを待ち、「激しい慢性上咽頭炎があること」「次回からも負担が大きい口からのEATは行わないこと」「EATを続ければ今の症状が改善する可能性が高いこと」を説明した後、Nさんはとぼとぼとした足取りで診療室を出て行きました。

1週間後に診療室に入ってきたNさんの様子は…

 ※画像はイメージです 1週間後に診療室に入って来たNさんの足取りは初診時より軽く、表情にも少し明るさがありました。倦怠感、疲労感は相変わらずでしたが、頭痛と首こりが初回のEATで改善したとのこと。

 その後、3か月間にわたって、鼻からのみのEATを毎週繰り返したところ、まずはめまい、立ちくらみ、動悸が消失。疲労感、倦怠感も徐々に改善していき、3か月後には産業医の許可が出て、職場復帰を果たしました。

 その頃には初診時の体調不良オーラはすっかり消え、Nさんはすっかり笑顔を取り戻していました。

 慢性上咽頭炎は、頭痛、肩こり、アトピー、めまい、掌蹠膿疱症、潰瘍性大腸炎、関節炎、慢性疲労など、様々な不調を引き起こす可能性があります。

 対症療法が効かない場合、その不調の「おおもと」は上咽頭にあるかもしれません。慢性上咽頭炎の疑いがある場合は、EATを実施できる医療機関を受診されることをおすすめします。

<文/堀田修 構成/女子SPA!編集部 イラスト/林ユミ>

【堀田修】
1957年、愛知県生まれ。防衛医科大学校卒業、医学博士。「木を見て森も見る医療の実践」を理念に掲げ、2011年に仙台市で医療法人モクシン堀田 修クリニックを開業。特定非営利活動法人日本病巣疾患研究会理事長、IgA腎症・根治治療ネットワーク代表、日本腎臓学会功労会員。2001年、IgA腎症に対し早期の段階で「扁摘パルス」を行えば、根治治療が見込めることを米国医学雑誌に報告。現在は、同治療の普及活動と臨床データの集積を続けるほか、扁桃、上咽頭、歯などの病巣炎症が引き起こすさまざまな疾患の臨床と研究を行う。近年はEAT(上咽頭擦過療法)を使った「新型コロナ後遺症」への取り組みも注目を集めている。『つらい不調が続いたら慢性上咽頭炎を治しなさい』(あさ出版)、『慢性上咽頭炎を治せば不調が消える』(扶桑社)など著書多数