このコラムではこれまでにも、スーパーフォーミュラに参戦する外国人ドライバーの数について取り上げてきましたが、2024年のスーパーフォーミュラ開幕戦を走った外国人ドライバーがテオ・プルシェールひとりだったことを受けて、またこのトピックにフォーカスを当てたいと思います。

 コロナ禍の影響を受けた2021年には、外国人ドライバーのエントリーがひとりというレースが4戦ありました(タチアナ・カルデロンのみが1戦、ジュリアーノ・アレジのみが3戦)。ただ当時は渡航制限が敷かれていたので、海外から参戦するドライバーが少なくなることは理解できます。

 2022年にはまだ諸制限が残っていたため、外国人ドライバーはアレジとサッシャ・フェネストラズの2名のみ。ただ2023年にはその数が倍増し、4人となりました(アレジがシーズン途中にシートを失い、後半戦は3人)。

 コロナ禍も明け、なおかつ円安ということで、私は2024年シーズンも少なくとも前年と同じくらいの外国人ドライバーが参戦するだろうと予想していました。しかし、リアム・ローソン、ジェム・ブリュックバシェ、ラウル・ハイマンといった2023年シーズンを戦ったドライバーは様々な理由から消え、今季はプルシェールだけがそこで戦っているのです。

 なぜこのような状況になったのか? それは決して、スーパーフォーミュラに関心を寄せているドライバーが少ないからではありません。

 スーパーフォーミュラに関心を持っていたドライバーは数多くいますが、大まかにふたつのカテゴリーに分けられます。

 まずひとつは、スーパーフォーミュラのシートを積極的に探していたものの、空振りに終わった人たち。開幕直前までTGM Grand Prixのドライバー候補に挙がっていたラウル・ハイマンのそのひとりですし、元F1ドライバーのダニール・クビアトや、スーパーフォーミュラ・ライツからのステップアップを目指していたイゴール・オオムラ・フラガやデビッド・ヴィダーレスもそれに当てはまります。

 もう一方は、スーパーフォーミュラへの参戦を検討していたものの、最終的に自ら断念することを決めた人たち。例えば、2022年のF2チャンピオンであるフェリペ・ドルゴビッチもスーパーフォーミュラ参戦に興味を示していましたし、それは昨年のF2を戦ったフレデリック・ベスティ、ゼイン・マローニ、アーサー・ルクレールらも同様でした。

 最終的にマローニはF2に残り、ドルゴビッチ、ベスティ、ルクレールは共にヨーロピアン・ル・マン・シリーズ(ELMS)に参戦することになりました。昨年スーパーフォーミュラに参戦したブリュックバシェもELMS行きを選びました。ではなぜ、多くのドライバーがELMSを選んだのでしょうか?

 そこにはまずコストの問題があります。スーパーフォーミュラの参戦予算は最大で2億円前後かかると言われています。それでも、その倍額かかると言われるF2よりは安いですが、スーパーフォーミュラはレース数が少ないです。

 これに対してELMSは、テストの数やチームメイトの持ち込み額にも左右されますが、日本円にして8000万円〜1億3000万円ほどで参戦することができます。今季は4時間レースが6戦あるため、ひとりあたりの走行時間もスーパーフォーミュラに匹敵します。

 そして一部のELMSチームでは、こういった予算にはル・マン24時間へのエントリーが含まれている場合があります。ル・マンは世界三大レースですから、これは多くのドライバーにとって魅力と言えるでしょう。このようにELMSはWEC(世界耐久選手権)やIMSAといった耐久レースの最高峰へ繋がるシリーズと言えるため、言い換えると報酬をもらう“プロフェッショナル・ドライバー”になる道筋があるということです。

 もちろんスーパーフォーミュラも、WECやインディカー、フォーミュラEといった世界トップクラスの選手権に繋がることを証明していますが、その道は決して平坦ではありません。スーパーフォーミュラ参戦1年でインディカーに行ったアレックス・パロウの例もありますが、基本的にはニック・キャシディやフェネストラズのように、日本で腰を据えて継続的なレース活動をし、メーカーの主力ドライバーに登り詰めて確かな実績を積む必要があります。

 ハイマンもブリュックバシェも、スーパーフォーミュラでの1年目を終えてホンダをはじめとするメーカーが契約に動いたかと言われればそうではありませんし、アレジもスーパーGTへの参戦が続いていますが、スーパーフォーミュラでは結果を残すことができずにシートを失うことになりました。日本でキャリアを積むことは容易なことではないのです。まだシーズンは始まったばかりですが、プルシェールの開幕戦での苦戦も、スーパーフォーミュラ参戦を検討するドライバーにとっては今のところ良い宣伝にはなっていないでしょう。

 スーパーフォーミュラを開催するJRP(日本レースプロモーション)の会見の中で、私は外国人ドライバーが少ないことに対するJRPのスタンスを尋ねました。これについて近藤真彦会長は、レース数、イベント数を増やして「海外の選手が喜んでもらえるようなイベントにする努力もしていきたい」と語りました。その動きは多くの人にとって歓迎すべきものだと言えますが、私はそれ以上のことも必要だと考えます。

 例えばF1を例に挙げると、かつてバーニー・エクレストンはTV局が莫大な放映権を支払い続けることに納得するよう、様々な国籍のドライバーがF1に参戦するように介入したといいます。JRPもグリッドの顔ぶれに関してより積極的に関わる時なのかもしれません。

 プロモーターがチームに対して「このドライバーと契約しろ」と強制をすることはできません。しかし、JRPがドライバーとチームの“仲介役”としての役割を強める(あくまで一例ですが、取引が成立するように金銭的な支援をするなど)……これはJRP側にとっても利益があることだと思います。

 特にクビアトの一件は良い例だと思います。“正真正銘の”元F1ドライバーを迎え入れるチャンスはそうそうありません。こういうチャンスがやってきた時にはしっかりと掴み取るに限ります。クビアトがNAKAJIMA RACINGと話をしていたことを考えると、例えばJRPはその交渉が成立するよう、あるいはクビアトが別のシートを見つけられるよう動くこともできたのではないか……そう考えてしまいます。

 クビアトが依然としてスーパーフォーミュラ参戦に関心を持っていることは良いニュースと言えます。そして今年F2を走っているドライバーの中にも、F1昇格のチャンスを得られずにスーパーフォーミュラに目を向ける者が出てくるのは必至です。

 今季のスーパーフォーミュラはJujuや岩佐歩夢の参戦により日本のファンの注目を集めているので、外国人ドライバーが少ないことはそれほどダメージにはなっていない印象です。これはスーパーフォーミュラにとって幸運だと言えます。ただ来季以降はJRPもより多くの外国人ドライバーにチャンスを与え、さらにファン層を拡大していく必要があるでしょう。