春のクラシックが熱狂のうちに終わり、レースシーンはグランツールを中心に回る時期が近付いている。その移行期に開催されるワンデーレースがエシュボルン・フランクフルトである。

メーデーにあたる5月1日開催が慣例で、同日はドイツにおいて祝日にあたる(他国でも祝日に設定されていることが多い)。この日のフランクフルトでは、プロからアマチュア、そして老若男女問わず参加ができる自転車の「フリューリングフェスト」(春の祭典)が催される。

ロードレースシーンの最高峰・UCIワールドツアーのひとつに設定される「エシュボルン・フランクフルト」は、そのお祭りのメインイベントにあたるプロレース。今年で61回目を迎える伝統の一戦だ。

前回、つまりは第60回の記念大会では、それまでのコースから大幅な刷新を図った。多くをスプリンターが制してきたレースは、「クラシックハンターvsスプリンター」の構図を一層鮮明にするべく、“登坂成分”を一気に高めたのである。

実際に、これまでにないエシュボルン・フランクフルトの姿が見られた。上り区間でのアタックを機に形成された10人のパックがそのまま逃げ切り。スプリンターチームが率いたメイン集団の猛追をかわしてみせたのだった。

主催者からすれば、コース刷新は「大・大・大・大……大成功」。ファビアン・ウェーグマン氏(2009・2010年大会の覇者)を中心とする大会のディレクター陣は、10人が逃げ切ったレースを目の当たりにし、その場で2024年大会も同じコースを採用する方針を暫定的に決定。それからも方向性が変わることはなく、正式に前回と同じルートが使われることとなった。

そのコースというもの、レース名の通りエシュボルンの街を出発し、フランクフルトを目指す。両都市間の距離は15km足らずだが、スペクタクル性を高めるのが2つの街の北側に広がる丘陵地帯である。

スタートから30kmを過ぎると丘越えが始まって、そこからいくつもの上りと下りをこなしていく。このレースを代表する登坂区間、フェルトベルク(1回目:登坂距離11km、平均勾配4.8%・2回目:7.6km、6.5%)を2回、マンモルスハイン(2.3km、8.3%)は3回上る。とりわけ、2回目のマンモルスハインから同じく2回目のフェルトベルクまではほぼ上りっぱなしで、レース中盤ながらも選手たちの脚を削るポイントになってくる。

3回目のマンモルスハインを終えると、フィニッシュまでは36km。それからは下りとフランクフルト市街地の平坦な周回コースを走るので、自然とレースペースが上がっていく。前回の逃げ切りは、最後のマンモルスハインで起こった急展開がきっかけだった。

そんな今年のジャーマントロフィーには、UCIワールドチームから14、同プロチームから5、合計19チームがエントリーする。

コースのリメイク、それにともなうレース展開の変化は、各チームのメンバー編成にも大きく影響を与えていると見ることができる。大多数のチームが、クラシックハンターまたは登坂力に長ける選手たちをそろえて臨むことになりそうだ。

前回の覇者、セーアン・クラーウアナスンはアルペシン・ドゥクーニンクのエースとして大会へと戻ってくる。今季はリザルトこそ目立ったものがないものの、それはスーパーエースのマチュー・ファンデルプールやヤスペル・フィリプセンのアシストに回っていたから。彼らがいない今回は、2連覇をかけてみずからを中心に策を立てることだろう。昨年のU23世界王者アクセル・ローランスもメンバー入りし、チーム力としても出場チーム中最高レベルにある。

昨年の大会で逃げ切りのきっかけを作ったのが、マルク・ヒルシ(UAEチームエミレーツ)。今回もリーダーとして戦力充実のチームを牽引する。地元レースに燃えるニルス・ポリッツや、将来性豊かなヤン・クリステンらが脇を固め、どんな展開にでも対応できる布陣。

例年このレースにベストメンバーを送り込む地元の雄ボーラ・ハンスグローエも、スプリンター系のライダーを減らして上りで仕掛けられるメンツをそろえる。マキシミリアン・シャフマンとエマヌエル・ブッフマンのドイツ勢に加えて、パンチャーとして期待がかかるロジャー・アドリアも勝利を狙える。

ロードレースとシクロクロスの“二刀流ライダー”ティボー・ネイス(リドル・トレック)も押さえておきたい。シクロクロスシーズンを終えて、しばしの休息を経て臨んだ今季ロード初戦のツール・ド・ロマンディでいきなりステージ1勝。トップシクロクロッサーがロードで活躍するのはもはや当たり前の事象であるが、その新たな力である彼の名を、このレースではっきりと認識することになるかもしれない。

フレーシュ・ワロンヌ3位で大きなインパクトを残したマキシム・ファンヒルス(ロット・デスティニー)やベン・ヒーリー(EFエデュケーション・イージーポスト)あたりも順当であれば上位争いに加わってくるだろう。直前のツアー・オブ・ターキーで個人総合優勝したフランク・ファンデンブルーク(dsmフィルメニッヒ・ポストNL)もUCIワールドツアー初勝利が近づいている。

スプリンターでは、2年前のこのレースを勝っているサム・ベネット(デカトロン・アージェードゥーゼールラモンディアル)やカレブ・ユアン(ジェイコ・アルウラー)がエントリー。2011年の優勝をはじめ過去4回表彰台に上がっているジョン・デゲンコルプ(dsmフィルメニッヒ・ポストNL)も地元でのレースに集中力を高める。ただ、何にしてもタフな上りをクリアすることが大前提。うまく乗り切って最終局面まで前線で生き残れば、勝機が一気に高まる。

そして、バーレーン・ヴィクトリアスは新城幸也を招集。3年連続4回目の出場となる。チームはワウト・プールスやジャック・ヘイグといった上りに強い選手に加えて、スプリント力の高いマテウジュ・ゴヴェカルも控え、穴のない編成。レースを優位に進めるべく、早い時間帯から新城がアシスト任務を任される可能性が大いにありそうだ。

フランクフルトが街をあげて演出する自転車の1日。アンダー23・ジュニア・ユースの年代別レースも行われるほか、ファンがレースコースを体験走行できるミニツアーも催される。

文:福光 俊介