手話を必要とする聴覚障がい者にとって、手話は物事を考え、他者と意思疎通を図り、お互いの気持ちを理解し合うために必要な言語です。

倉敷市では2021年に手話言語条例が制定され、2023年には岡山県でも「岡山県手話言語の普及及び聴覚障害、視覚障害その他の障害の特性に応じた意思疎通手段の利用促進に関する条例」が制定されました。

本記事では、倉敷市内の手話者が一堂に会したイベント「くらしき手話まつり」のようすをレポートします。

第2回くらしき手話まつり

第2回くらしき手話まつりは、倉敷市聴覚障害者協会が主催する定期総会の午後の部として、倉敷市笹沖にある「くらしき健康福祉プラザ5階 プラザホール」で開催されました。

当日は以下のかたがたが一堂に会しました。

  • 倉敷市聴覚障害者協会の会員及び賛助会員
  • 倉敷市近郊に住む聴覚障がいのある当事者(以下、ろう者)
  • 倉敷市手話サークル連絡協議会(以下、市サ連)の会員、
  • 倉敷市の登録手話通訳者

プログラム

当日の天気は雨でしたが、プラザホールのロビーではすでに手話が行き交っています。

当事者同士が集まれる機会は、貴重です。

この日久しぶりに会う人同士も多かったようで、手話での話があちこちで盛り上がっていました。

市サ連のクイズ

第2回くらしき手話まつりのプログラムは以下のとおりです。

  • 市の登録手話通訳者による寸劇
  • 市サ連によるクイズと寸劇
  • 倉敷市専任手話通訳者によるお笑い
  • 手話サークル草の会による手話歌
  • 倉敷市聴覚障害者協会による寸劇

市の登録手話通訳者による寸劇

第2回くらしき手話まつりは、市の登録手話通訳者による寸劇からスタートしました。

市の登録手話通訳者は、手話通訳者全国統一試験に合格し、倉敷市内で手話通訳者として活動している人たちです。

私も日頃から公私ともに通訳でお世話になっている通訳者さんも登場して、ワクワク。

登録手話通訳者による寸劇

寸劇は、通訳場面でのろう者と通訳者との連絡ミスや、通訳に理解のないイベント主催者の物真似など、当事者にとっては「あるある」な場面ばかり。

それらを「あるある」で終わらせずに「こうしたら、改善するよ」という解決策にも触れられていたので、次に似たような場面に遭遇したら実践してみようと思える内容ばかりでした。

市サ連によるクイズと寸劇

「市サ連」は、倉敷市手話サークル連絡協議会の略称で、倉敷市内の手話サークル同士の交流を図るための組織で、以下4つの目的を持って活動しています。

  1. 倉敷市聴覚障害者協会と連絡を密にし、相互の事業に協力する。
  2. 聴覚障害者とのコミュニケーションを図るため、手話の学習に務める。
  3. 会員と親睦を図るための交流会を開く。
  4. 会員の活動の助成となる情報を提供し、その情報に伴う学習・研究に務める

今回は、目で見て生きる聴覚障がい者の「ろう文化」と聴者(きこえる人)の「聴文化」のズレをテーマにした寸劇が披露されました。

たとえば、手話ではあまり謙遜表現をしません。そのため聴者から「つまらないものですが……」と手土産を差し出されると、ろう者は「なんでつまらないものを持ってきたの?」と疑問に思ってしまいます。

市サ連による寸劇

言語は文化を象徴する」とも言われるように、手話もひとつの言語のためろう者は聴者とは少し異なる文化を持っています。市サ連の寸劇は、ろう者にとっては「聴者はこう感じているのか!」と気付くきっかけに、また聴者にとっては「こういう言い方をしたら、お互い気持ちよく過ごせるのか!」と知るきっかけになったのではないでしょうか。

市サ連からのメッセージ

専任手話通訳者によるお笑い

倉敷市には市役所本庁、水島支所、児島支所に、それぞれ専任の手話通訳者が常駐しており、手話を必要とする人が円滑に手続きのできる仕組みが整えられています。

私も聴覚障がいがあるので、地域おこし協力隊としての活動や公的な手続きでよくお世話になっています。

いつもはそれぞれの支所にいる専任通訳者が集まっている珍しい光景と、全力のダンスに会場はこの日一番の盛り上がりを見せました。

専任手話通訳者によるお笑い

内容は、オレオレ詐欺。被害者がろう者という設定なので、加害者から来るのは電話ではなくメール。いつも窓口にいる見知った顔の通訳者さんに「困ったときは、いつでも窓口に相談に来てね」と言ってもらえるのは、心強いですね。

手話サークル草の会による手話歌

続いては、手話サークル「草の会」による手話歌です。

草の会による手話歌

スタジオジブリの名曲「さんぽ」、唱歌「ふるさと」、童謡「幸せなら手をたたこう」の3曲が披露されました。

後半2曲は他の手話サークルでも手話歌披露の際の定番曲となっているようで、フロアの観客も一緒に手を動かす姿がありました。

歌に合わせて手を動かすフロア

倉敷市聴覚障害者協会による寸劇とジェスチャークイズ

ステージ発表のトリは、この会の主催者である倉敷市聴覚障害者協会による寸劇です。

倉敷市聴覚障害者協会は、今回のステージ発表のなかで唯一当事者のみの団体

手話通訳の制度が整う以前のろう者たちの生活の苦労と通訳制度ができてから生活がどう変わったのかを、リアルに再現した寸劇でした。

倉敷市聴覚障害者協会による寸劇

私は親元を離れて独り立ちをするタイミングで全国的に手話言語条例が普及した世代です。そのため、前述のように公私ともに必要なタイミングで手話通訳の派遣をお願いすることのできる環境にいます。しかし、それらは、ろう者の先輩たちが苦労して手に入れてくれた私たちの権利。

改めて、当事者が声をあげることの必要性や、次世代のためにもっともっと生きやすい社会を作っていける大人でありたいと思いました。

非常に考えさせられる内容ですが、どれも笑いあり心に突き刺さるものもあり、そしてそのすべてが音声なしの手話で表現される時間となりました。

ステージを見つめるフロア

普段は聴者も読み取りやすい日本語に準じた手話表現(日本語対応手話)をする演者たちが、このステージではろう者同士のコミュニケーションで用いられる手話表現(日本手話)が多用されていたこともまた、魅力のひとつ。

通訳者や市サ連の会員の聴者も、真剣なまなざしでステージを見つめていました。

おわりに

ろう者・聴者に関係なく、倉敷市内の手話者が一堂に会したくらしき手話まつりは、大盛況のうち幕を閉じました。

2024年10月18日(金)〜20日(日)にかけては、全国ろうあ女性集会が岡山県で開催され、倉敷市もその会場のひとつとなる予定です。

倉敷市内の手話者の団結という意味で、有意義な会になったのではないでしょうか。

また、10月に向けて倉敷市内でもさらに「手話の輪」が広がっていったら良いなと思います。

著者:高石真梨子