「なぜ急にいなくなったの。逢いたいです」「見守っていて」―。災害や事故、病気で亡くなった人に宛てた手紙が全国から届く「漂流ポスト」。岩手県陸前高田市でカフェを営んでいた赤川勇治さん(74)が10年前に設置し、届いた手紙は千通を超えた。4月、赤川さんはポストの管理人を引退。近くにある慈恩寺に移設し、引き続き手紙を受け付ける。(共同通信=待山祥平)

 田舎暮らしに憧れ、27歳で横浜市から家族と岩手県内陸部に移住。経営していた会社を手放し、自宅から70キロ以上離れた陸前高田市の広田半島にカフェを構えた。ベンチや椅子を自前で作り、店内は連日にぎわった。

 しかし2011年の東日本大震災で状況は一変。多くの被災者を目の当たりにして「自分を受け入れてくれた恩を少しでも返したい」と考えた。

 手紙なら亡き人への思いを吐き出せるのではと2014年、カフェにポストを設置。届くことのない手紙が流れ着く場所、という思いを込めて、漂流ポストと名付けた。

 活動がメディアで紹介されるなどして広まり、震災以外で大切な存在を亡くした人からも次々と手紙が届いた。わが子を失った女性がポストをなでながら「ようやく来られたよ」とつぶやく姿を見て、ポストの存在意義をかみしめた。

 2019年、認知症が進む実母の介護のため、カフェを閉店した。好き勝手に生き、親不孝だった自分に気付いた。「母も守れないのにポストを続けていいのか」。廃止も考えるほど思い悩んだ。

 そんな時、読経や焼香などで手紙を「供養」する法要を毎年営んでくれていた慈恩寺の前住職古山敬光さん(75)が申し出た。「私でよければ管理人を引き受けます。1人で抱え込まないでください」。その一言で心が軽くなった。

 ポストは10年目の今年4月、寺の境内に移設された。大切な引き継ぎを終えた2人の表情は、少し晴れやかに。古山さんが「悩みや相談があれば、手紙だけでなく直接聞くこともできます」と意気込みを語ると、赤川さんは「なら俺も通おうかな」と応じ、笑みがこぼれた。

 手紙の新しい宛先は、〒029―2208 岩手県陸前高田市広田町泊53 慈恩寺「漂流ポスト」。