どのようなビジネスにおいても、アイデアが必要とされる場面や状況は少なくありません。「小売に現場で販売促進のプランを考えなければいけない」「顧客満足度をアップさせる方法を考えなければ」などさまざまですが、すべてに共通するのは、「ある問題が存在していて、その解決法を考えたい」ということ。

いくらユニークな発想であっても、それがなんらかの問題解決に直結していなければ、アイデアと呼ぶことはできないわけです。そこで、「ビジネスの現場で役立つアイデアの技術」を明らかにしているのが『言葉でアイデアをつくる。 問題解決スキルがアップする思考と技術』(仁藤安久 著、ダイヤモンド社)。

注目すべきは、コピーライターである著者が常々、「ことばは、最速で最安のプロトタイピングツールである」という持論を唱えている点。ご存知のとおり、プロトタイピングとはシステム開発などにおいて用いられてる概念。本格的な開発に入る前にプロトタイプ(試作品)をつくり、ユーザーテストの結果を得ながら仮説のアイデアの精度を高めていくものです。

つまり、同じ発想をビジネスでの問題解決にも応用してきたということ。「実施の前にプロトタイプをつくり、アイデアの検証や改善を行うことができたら…」と考え、ことばでアイデアをつくり、検証していくことを続けてきたわけです。

本書では、その経験に基づき、どうアイデアを発想するか、だけではなく、アイデアを検証したり、再構築するための方法にまで言及しています。

「言葉」は誰しもが、無料で使えるものです。だからこそ、言葉でアイデアを形にしたり、よりアイデアを強いものに改良していく開発の手順を自分やチームの中で導入することができれば、早く、コストも安く、問題解決に役立つアイデアをつくっていけるはずです。(「はじめに」より)

こうした考え方に基づく本書のなかから、きょうはチームとしてアイデアを生み出すための技術について言及した第4章「チームでアイデアを生みだす技術」をクローズアップしてみたいと思います。

「正解」という呪縛をどう解き放つか

社会人、とりわけマネジメント層向けの研修をしているなかで、「アイデアを部署やチームのなかで出そうと思ってもうまくいかない」という悩みを聞くことが著者には多いのだそうです。そして、さらに話を突き詰めてみると、問題は大きく2つに分かれるのだとか。

ひとつは、「そもそもいいアイデアが出てこない」という悩み。もうひとつが、ブレストや議論がまったく活性化しないというもの。たしかにどちらもよくありそうですが、この2つの悩みの根本が同じところにあるようです。それは、多くの人たちが「ビジネスの現場でアイデアを出すことに慣れていない」という事実。

「ビジネスの現場」では、こうあらねばならない、という固定観念がアイデア発想の邪魔になっていることが多く見受けられます。

ビジネスの現場においては「知識」、もしくは「経験」というものが重視されます。

それは、学生時代に取り組んできた勉強と共通するところがあります。試験問題には「ひとつの正解」があるのと同様に、ビジネスにおける「知識」によって正解が決まります。だからこそ、ビジネスと試験に向けた勉強を「正解がひとつあるもの」として捉えているところがあるのでしょう。

しかし、アイデアを生みだそうと思ったときには、「正解はひとつではない」ことがほとんどだという前提に立つことが大切です。(210ページより)

これは「知識」だけではなく、「経験」にもあてはまるもの。あらゆるビジネスの現場においては、「過去の成功体験」に固執しすぎるために環境の変化に対応できず、ダメになっていくというケースが少なくありません。そんなところからもわかるように、疑いもせずに経験から正解を導いていくことは危険なのです。

したがって、そういう文化がある組織において、上司が組織内の知識や経験に基づいてアイデアを判断するのであれば、アイデアの議論が活性化することはないはず。

リーダーに求められるのは、「正解」ではなく、その状況における「最善だと思えるアイデア」を選ぶことです。そして、選んだ後は、その選択をどこまで信じ切れるかが重要なのです。(212ページより)

当然のことながら、それを「正解」にするまで実行できるかによって、アイデアに対する評価は変わってきます。そこで次はアイデアを広げ、実現に向けてまたアイデアを足していくことが重要な意味を持つわけです。

もちろんその過程においては、「このアイデアではなかった」ということになるケースもあるでしょう。そういう場合はそのアイデアを捨て、もう一度スタートラインに立ち戻ってみる。そうした判断もまた、重要なポイントとなっていくのです。(209ページより)

そもそも、アイデア出しに「いいやり方」はあるのか

では、アイデアをチームで出し合う場合、どのくらいの人数で考えるといいのでしょうか? また、アイデアの集め方や出し方も気になるところではあります。

2人や3人という小さな人数のときは、「どうチームとしての相乗効果を出していくのか」を意識すべきだそう。

このことに関しては、著者がメーカーの新規事業開発のプロジェクトを担当したときの話が引き合いに出されています。その際には2人ずつに分けた8つのチームをつくり、各チームのバディ(メンバー)を、職種や専門分野の異なる組み合わせにしたというのです。

このプロジェクトのオリエンテーションにおいて「立場が違うことから双方が妥協してアイデアをすり合わせるのではなく、自分の立場を全面的に表に出して、議論するようにしてください」と伝えました。

エンジニアとマーケッター、それぞれの立場からアイデアをぶつけ合い、磨いていくことがユニークな新規事業開発につながっていくのでは、という思いがありました。(214〜215ページより)

もちろんこれは一例ですが、少人数であっても、同じ部署、同じメンバーであっても大丈夫。ただし、その場合にも「どうチームとしての相乗効果を出すのか」ということは意識しておくべきであるようです。

では、チームの人数の上限はどこまでと考えるべきなのでしょうか?

アマゾンのジェフ・ベゾスが言っている「ピザ2枚の法則」というものがあります。ピザ2枚を分け合ってちょうどいいくらいの人数がチームとして最適であるというこの考え方は、アイデアをチームで生みだすときにも参考になるものです。(215〜216ページより)

ちなみに多くても8人、理想的には5人程度の会議体で進められるのがベストだと著者は考えているといいます。(214ページより)


著者は、自分のことを「普通の人」「アイデアを出すのが苦手な人」だと思い込んでいる人にこそ、アイデアを武器にしてほしいと考えているそうです。ひとりひとりがアイデアを生み出す技術をもてれば、企業や地域が変わり、世の中が変わっていく大きな力になっていくはずだから。だからこそ、「自分には関係のない話」だと思っている方も、ぜひ一度、本書を手に取ってみるべきかもしれません。

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Source: ダイヤモンド社