コーチングでは問いを投げかけ、その問いについて考えるプロセスのなかで、相手が自然に目指す方向へ前進していくことをサポートする。そして、それは行動に対する「意味づけ」を引き起こす――。

「承認 (アクノレッジ) 」が人を動かす コーチングのプロが教える 相手を認め、行動変容をもたらす技術』(鈴木義幸 著、ディスカヴァー・トゥエンティワン)の著者は、こう述べています。

自身で「意味づけ」した行動は、「ああしなさい、こうしなさい」と他人からいわれて説得された行動よりも現実化する可能性が高いのだとか。

目的を選択しようとする際、一方の経験者が「これだ」と決めつけてしまうよりも、相手に選択肢を発見させ、決めさせたほうが、結果的には目的地に早く到達するだろうという考え方です。

ただし、目的地や取るべき道が決まり、その人が動き出したとしても、最終的に目的地にたどり着くためには「エネルギー」が供給され続ける必要があるそう。

では、もしも自分がコーチや上司などの立場だったとしたら、そのエネルギーを相手にどう供給し続けることができるのでしょうか?

それがこの本のテーマであり、みなさんに送り届けたい知識、技術です。

コーチングでは、そのエネルギー供給のことを「アクノレッジメント(acknowledgement)」と言います。

このアクノレッジメント、つまりエネルギーの供給回数が多ければ多いほど、供給方法にバリエーションがあればあるほど(レギュラーガソリンで動く人もいれば、軽油で動く人もいるわけですから)、相手をより遠くまで、ひいては目的地まで動かすことが可能になります。(「はじめに」より)

そこで本書では、アクノレッジメントのさまざまな手法を解説しているわけです。きょうはLESSON 03「たった一言で気持ちは伝わる」に焦点を当て、2つのトピックスを抜き出してみたいと思います。

修飾せずに観察を伝える

著者は企業で管理職に向けてコーチングの研修を行なっているとき、「ほめるのが大事なのはわかっているけど、そう簡単にほめるところも見つからないんですよ。どうしたらいいんでしょうか?」と聞かれることがあるのだそうです。

いうまでもなく「ほめる」とは基本的に、成果や結果に対して承認のことばをかけること。つまり、それはまさにアクノレッジメントであるわけです。

とはいえ、ほめることが唯一のアクノレッジメントになってしまうのだとしたら、それはなかなかきついかもしれません。なぜなら、つねに目に見える成果が出るとは限らないからです。

しかも部下の立場からすれば、「こんなに努力しているのに、そのことは認めてもらえないのか」と感じざるを得ないことだってあるはず。努力のプロセスを見てもらえずに、「なにもしていないだろう」といった扱われ方をされたとしたら、カチンときても無理はありません。

だからこそ頻繁に伝えましょう。「今こうしてるね」と。ほめてはいないけれども、君がそこに向かって行動していることは知っている。それは価値のあることだ。その方向性で良いんだ、ということをリマインドしてあげる必要があります。(107ページより)

たとえば営業マンであれば、「今週は新規3件訪問したんだってな」と伝える。技術開発の人であれば、「プログラムは第IIIフェイズまで書けたんだな。もう少しだな」と寄り添ってみるなど。

他にも汎用的に使えるものとして、「新しいネクタイだね」というような声がけをすることもできるでしょう。歯が浮くようなことをいう必要はなく、見たまま、聞いたままを口にすればそれでいいわけです。

とにかく観察です。部下を見ることです。見ていないと何も言えません。

今日部下がどんなネクタイをしていたか覚えていますか。どんな靴をはいていたか知っていますか。髪型がぱっと思い浮かびますか。部下が話をするときに好んで使う表現を知っていますか。(108〜109ページより)

もちろん職場だけではなくパートナーなどにもあてはまることでしょうが、いずれにしても観察し、思いを伝えることは有効なアクノレッジメントであるということです。(106ページより)

本気のあいさつ

企業を訪問したり、お店に買い物に行くと、あいさつには2種類あることがわかると著者はいいます。ひとつは自ら進んで行う「自分のウィル(意志)」でしているあいさつ。そしてもうひとつは、やらされている感が透けて見える「他人のウィル」でしているあいさつ

当然ながら前者を聞いたときには、アクノレッジされたとの思いが高まることになるでしょう。そのため瞬間的に、距離が縮まるのを感じることができるわけです。

一方、後者の場合は、ただ「音」が聞こえたという印象にとどまってしまうはず。そのため、それによって関係が変化を起こすことはありません。

もちろんそれは、部下との関係においても重要なポイント。自分の日常を振り返ってみたとき、部下にウィルを込めたあいさつをしていると断言できるでしょうか? もしもそうでないのなら、「本気のあいさつ」を心がけるべきなのです。そうすれば、気持ちは必ず伝わるはずだから。

一度でも良いですから「本気」であいさつしてみてください。まず、鏡の前で何回も何回もその「本気」を練習してみましょう。

そして朝、部下に会ったときには、しっかりとした、それでいて穏やかな眼差しを向けながら、少し声を低く落として伝えます。

「おはよう」と。それまでのすべてのわだかまりを帳消しにして、新しい関係の始まりを予感させる「おはよう」を伝えるのです。(118ページより)

とはいえ、決して見返りを期待しないこと。相手がどのような反応を示そうと、こちらは「本気」で挨拶する。その姿勢が大切だということです。

それを続けていれば、最初は無反応だったり戸惑ったりしていた部下も、いつかはあいさつを返してくるようになるかもしれません。もちろん「期待するべからず」が大前提ですが、そうした習慣が、いつかアクノレッジメントとして機能してくれるであろうことは間違いなさそうです。(115ページより)


2009年に刊行された『コーチングのプロが教える「ほめる」技術』(日本実業出版社)を改訂し、新章を加えた新版。長きにわたって愛読されてきた同書に、現代に即した項目を加えているわけです。そのため、部下や仕事上で関わりを持つ人にエネルギーを供給するためのエッセンスを確実に吸収できることでしょう。

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Source: ディスカヴァー・トゥエンティワン