以前、アメリカで一気に拡散されて流行した「静かな退職(quiet quitting)」という言葉や、その言葉に対する反発の高まりについて、耳にしたことがある人もいるかもしれません。
この概念は、TikTokアカウント「@zkchillin」(現在は@zaidleppelin)が最初に広めたもの。「静かな退職」とは、従業員が「仕事上、定められている責任以上の働きをするという考え方をやめる」ことだとされています。
「仕事との距離感」を問い直す意義
彼は、仕事上の義務を果たすことは変わらないとしながらも、「仕事を退職する」の部分について、このように説明します。
仕事こそが私たちの人生だとする、ハッスルカルチャーの精神にしたがうのをやめることです。
この「静かな退職」という概念は、実際には「給料を貰っている分だけ仕事をすること」を指しています。この言葉が世に広まって以来、批判的な人たちに指摘されてきました。
おすすめしたいのは「静かな退職」という流行語に惑わされず、そのかわりに「自分の仕事に健全な境界線を引きはじめる」こと。この記事では、その理由をご説明しましょう。
「境界線を引く」のは「仕事を退職する」ことではない
現状の職場では「期待に応える」の意味が歪められて、「自分が貰っている報酬以上の仕事をする」ことを表すようになっており、率直に言えば不愉快です。残念なこの状況は、長年のあいだに多くの職場を支配するようになった、有害なハッスルカルチャーが原因でしょう。
そして、「静かな退職」に対する反発の声には、単なる言葉の定義の問題と考えられるものもあります。私自身も、「静かな退職」が実際に意味しているのは「退職する( quitting)」よりも「惰力で進む(coasting)」という言葉のほうが正確だと思います。
「静かな退職」という流行語は、「労働者が受動的攻撃性を持つ(怒りを直接的に表現せず、黙り込みや義務のサボタージュで表す)」というニュアンスを伴うものです。
ときには、反抗的になることを意味する場合もあり、まるで労働者が「本当に必要最低限のこと」しかしないように聞こえます。当然のことですが、それは経営者たちを恐々とさせるでしょう。彼らは従業員が、追加の報酬がなくても責任以上の働きをすることを期待するようになっているからです。
繰り返しますが「静かな退職」は、実際には「自分の仕事をする」ことを意味しています。ですから、この言葉を、反抗の行為として枠にはめてしまうのは危険です。
「責任の範囲を越えない」という概念を、「仕事を退職する」と同じだと考えるのは、従業員に対して「報酬の範囲をはるかに越える仕事をする」ことを期待する企業の基準を強化するだけです。
あなたがどう解釈しているにせよ、この流行り言葉は、現実世界の問題を提起しています。つまり、公正な労働と公正な報酬をどう理解するのかという、現実世界の問題です。
だからこそ、自分が報酬を貰っている仕事と、大事にすべき私生活とのあいだに、境界線を引く方法を知っておくことが重要になるのです。
私生活と仕事に境界線を引く、4つのステップ
従業員としての自分の境界線を引いて、それを実行する前に、考えておくべき重要な注意点があります。
たいていの人にとって、職場で「惰力で働く」ことができるというのは、1つの特権です。人種や性別にもよりますが、「必要最低限」だけでは許されないことがある状況を、労働者の多くは知っています。
過去の記事では、さまざまな種類の個人的な境界線を引く方法を紹介しました。これはだいたいのところ、突きつめていけば、自分自身を知り、自分のニーズを効果的に表明することと同じです。
1. 職務記述書を読み直す
これをすることで、自分が何に対して報酬を貰っているのかを把握できます。また、自分の境界線をどこに引くべきかを決めるための明確な説明にもなります。契約上の境界線がどこにあるのかを知れば、周囲の人にそれを主張しやすくなるのです。
2. 自分の境界線を伝える
自分の意見を説明する場合、あるいは、自分の決めた境界線と上司の認識をすり合わせる交渉をする場合であれ、重要なのは、自分の決めた境界線をはっきり口に出して伝えることです。
ただし、明快に、直接的に、礼儀正しく伝えるようにしましょう。
3. 就業時間外の通知を切る(可能な場合)
リモートワークの場合、いつでもメールに返信したり、「とびつくように」電話に出たりすることを経営者が従業員に求めていると、境界線がひどく曖昧になってしまいます。職種にもよりますが、自分の就業時間のはじまりと終わりを明確にするように努めましょう。
4. 良い断わり方を覚える
職場で、直接的に「ノー」と言わずに、うまく断わるワザもあります。
たとえば、無駄なミーティングを断わる必要があるなら、「ちょっと集中しなければならないことが起きまして」とか、「すみません…(明日、調べさせていただきます/うちの部署の誰かを送ります/かわりに来週ではどうでしょうか)」などと伝えるといいかもしれません。
もちろん、自分の仕事を心から愛している人はたくさんいます。それ自体は素晴らしいことです!
とはいえ、そうした人であっても、仕事とそれ以外の生活とのあいだに境界線を引く利点はあります。むしろ、仕事を愛している人こそ、仕事と私生活の境界線の引き方を知ることで、もっとも大きな利点を得られるかもしれません。
どんなに仕事を愛しても、自分の労働に対して正当な報酬を貰っていないかもしれないのです。求められる仕事をしつつ、あなた自身の人生を楽しむようにしましょう。
――2023年10月30日の記事を再編集のうえ、再掲しています。
「仕事のあと、ダラダラしてたらもう深夜…」むなしい毎日を変える!夜のルーティンToDoリスト | ライフハッカー・ジャパン https://www.lifehacker.jp/article/2404-tiny-hack-after-work/
どんなに忙しくても「自分の時間」を捻出できる人がしている5つのこと | ライフハッカー・ジャパン https://www.lifehacker.jp/article/2404-matome-how-do-you-make-time-for-yourself/
訳:梅田智世(ガリレオ)
Source: The Wall Street Journal, TikTok