道なき道を拓き、未だ見ぬ新しい価値を世に送り出す人「起業家」。未来に向かって挑むその原動力は? 仕事における哲学は…? 時代をリードする起業家へのインタビュー『仕事論。』シリーズ。

今回は、物流の概念を再定義し、「新しい物流の仕組み」を提供している株式会社comvey代表の梶田伸吾(かじた しんご)さんが登場。「美しい物流」を目指して梱包材の削減に着手した背景、そして起業への想いを伺いました。

段ボール中心の物流が抱える課題へアプローチ

──まずは事業内容からお聞かせください。

EC事業者様向けに、配送時に繰り返し使える「シェアバッグ(梱包バッグ)」の提供と、それを運用するオペレーションシステムの開発を行なっています。これは宅配の取扱個数が年間50億個を超えるといわれる今、梱包資材の削減に着目したビジネスです。

ECサイトに弊社のシステムをインストールしていただくと、商品を購入したユーザーは梱包を「段ボール」か、comveyの「シェアバッグ」を選ぶことができます

シェアバッグは配送料プラス250円となりますが、500円のクーポンがもらえて実質お得になる、という仕組み。

comveyのシェアバッグは3つのサイズで展開

各バッグには、返却の手順と使用するQRコードが記載されている

シェアバッグを利用することで、ECサイトで利用できるクーポンが手に入る

現在、数社のアパレル会社様にご利用いただいていますが、購入者の約3割がシェアバッグを選んでくださっています

この「購入者が選ぶ」というアクションが、環境への高い意識を持つ企業様と、同じ意識を共有するユーザーの一種のコミュニケーションになっています。

ビジネスモデルとしては、導入してくださった事業者様からのシェアバッグ利用料が収益です。

──「シェアバッグ」という発想はどこから?

BtoBの物流ではリターナブルボックスなど、繰り返し使える梱包材が流通していますが、toCではほとんどが段ボールです。

日本の段ボールリサイクル率は9割を超えており一見サステナブルに見えますが、リサイクルする際のエネルギー、トラックで運搬するエネルギー排出を考えると決してエコとは言えません。加えて、購入したユーザーは「段ボールを畳んで捨てる」ことに手間と環境の両面からストレスを感じているというデータもあります。

欧米ではtoCでもリターナブルバッグの使用が普及しはじめていること、そして日本は郵便ポストの数が世界トップクラスということを知り「ポストで返却するシェアバッグ」の仕組みを思いつきました。

comveyでは、すべてのシェアバッグにあらかじめ返送先住所が記入されているので、そのまま郵送で弊社に送り返すことができ、今のところ返却率100%です。戻ってきたバッグはクリーニングを行ない、再び事業者様に納品します。

──「物流」に着目された背景はどのようなものだったのでしょうか。

実は、たまたまなんです。

前職は伊藤忠商事に約6年間勤めていたのですが、最初の配属面談をしてくれた人が、仕事ができるカッコイイ人で、その人が物流ビジネス部でした。単純ですが、その人と一緒に働きたいという気持ちで物流ビジネス部を希望したのが、物流との出会いです。

さらに、私が入社した2016年は宅配物の数が激増しはじめたころで、「宅配便の限界」や「配達員不足」といった社会問題も浮き彫りになりつつありました。業界的にも課題解決を目指すスタートアップが増えはじめ、物流が面白くなってきたタイミングだったんです。

商社といえばキャリアパスとして海外赴任を希望する人が多いですが、私はあえて子会社である「伊藤忠ロジスティクス」への出向を希望しました。というのも伊藤忠商事の物流ビジネス部は「荷主」側になるのですが、伊藤忠ロジスティクスは「荷受け」側。つまり、お客様の荷物を運ぶ側になります。

私も港に行って梱包作業や荷上げを手伝ったり、ハンガリーやドイツの現場にも行かせてもらいました。荷主側と荷受け側の両方を学ぶことができたのは、とても貴重な経験だったと思います。

──そんな充実した環境から起業を選ばれたのはなぜですか?

私は幼少のころ、タイのバンコクに住んでいました。そこは観光地として栄えている場所もあれば、道を一本入ると貧しい子どもたちに出会うような環境。そんな光景がずっと頭の中にあって、大学時代は国際協力活動をしたりと、社会課題の解決にはずっと関心があったのです。

国際協力活動を通じて「学生でも力を合わせれば社会を変えることはできる」という手応えはあったのですが、サステナブルな仕組みまで落とし込むには、ボランティアのような一方的な支援ではなく、ビジネスとして双方にメリットが生まれるようにしなければいけない、という課題が残りました。ではビジネスを学ぶにはどうすべきか? そう考えて選んだのが商社だったのです。

──最初から起業を視野に入れていたのですね。

物流というジャンルに決めたのは偶然かもしれませんが、そこにある大きな社会課題を解決したいという思いで、2022年の6月に起業に踏み切りました。

目指すのは「売り手/買い手/運び手」それぞれの想いが通じ合っている「美しい物流」です。この三者が協力し合えてはじめて物流問題は解決に向かいます。

我々がこのビジネスで目指しているのは、まずは売り手と買い手のコミュニケーション、「想いが通じ合う状態」をつくること。事業者様はこのサービスを導入いただくと「私たちは地球環境やお客様のことを考えています」というメッセージになります。

そしてユーザーはそれを受け取り、賛同して自ら行動する。両者の間に、想いの交換が生まれるわけです。これが私の考える「美しい物流」です。

ユーザーが「使いたくなる」仕組みづくり

──現在の事業で一番難しい局面はどんなことでしたか?

「商品を購入したユーザーにサービス利用料も負担してもらう」というビジネスモデルは成り立つのか、というのが一番の課題でした。メンバーと何度も議論し、売り手・買い手・運び手の関係図を毎日ノートに書き…と、インセンティブ設計についてはかなり考えましたね。

関係者のメリットを新たに設計してビジネスとして成り立たせるためには、そもそもの発想を根本から変えなければなりません。ユーザーにとって、単なる梱包材代の追加負担にならないようメリットも付与しながら「気持ちの良い社会貢献」に変えたのが、弊社の強みだと思います。

──だから、使いたくなるようなシェアバッグのデザインや、ポストに返却する「参加感」も重要なのですね。

シェアバッグは、国産のリサイクル可能なポリエチレン材でできており、荷物のサイズに合わせて3種あります。

郵送に最適な形で仕上げるためには、日本郵便様からのご意見が必要だったのですが、当時はまったくコネがなく…。そこで、直接郵便局の窓口を訪ねて相談することからはじめました。

日本郵便様には何度も相談に乗っていただき、試作を繰り返して郵送の規定に合うデザインが完成。バッグのデザイン、ビジネスモデルも含めて2023年度グッドデザイン賞をいただきました。

──comveyが最終的に目指すゴールは?

「運び手の負担軽減」は、現在のシェアバッグでのビジネスではまだ解決しきれません。そこで我々が物流の課題解決企業として目指すのは、「1軒1軒の家に届ける」という発想自体を変えること。ドローンやロボットで運ぶというソリューションもありますが、それでも賄いきれなくなってくるはずです。

たとえば、フィンランドではカフェなどを受け取り拠点にして、お客様自身が荷物を取りに来ると、コーヒーがサービスでもらえるというような物流スタイルがあります。このような付加価値のある新しい物流の形を提供していきたいですね。

──梶田さんの熱意の源泉は何ですか?

私が実現したいのは「人と人との想いが通じあう社会」です。

デジタル化が進み、人と人とのコミュニケーションが失われている世の中全体の温度を上げたい。血の通ったコミュニケーションを浸透させたいという想いがあります。そして、それが「物流でできる」と考えています

単に物を運ぶだけの機能的なサービスではなく、物流には、人に想いを伝えたり、人と人とをつなぐ力がある。それを証明していきたい、というのが熱意の源泉かもしれませんね。

強烈な一念を持った人は、絶対に負けない

──ここからは一問一答形式でお聞きします。いつも何時に仕事をはじめて、何時に終えますか?

9時から22時くらいです。

基本的には仕事が楽しいので、仕事をしているだけで充実感があり、いろいろ考えているだけでも楽しいくらい。頭をリフレッシュしたいときに休む感じです。

──愛用のデバイス、仕事道具は?

FREITAG(フライターグ)の名刺入れです。

FREITAGはスイスのブランドで、トラックのタープ(幌)をアップサイクル(本来、廃棄されるはずのものを新たな製品として甦らせること)しているのですが、ただ再利用するだけでなくデザインも重視しているところがとても気に入っています。

「環境にいいよね」だけではなく、「商品としてかっこいいな」と思えるところにとても共感を覚えますね

──情報収集はどのように行っていますか?

今はアパレル系の事業者様がメインのお客様になるので、繊研新聞をはじめ、業界紙には目を通しています

あとは、自分の知らないことはその道のプロに聞くことも重要。「知りたい」と思い立ったタイミングで行動するようにしています。

──能力を伸ばすには? ビジネス力を伸ばすには?

まずは自己分析でしょうか。

自分の強み、弱みは何か知ること、自分と向き合うことは結構大事だと思っています。改善していくよりも強みを伸ばすほうが、自分なりのカラーが出せるはずです。まずは得意なところを見つけて、それを磨いていくのがよいかと思いますね。

──余暇の過ごし方は?

自然と触れ合うことが好きなので、山にキャンプに行ったり釣りに行ったりします。

自然の中に身を置くことは自分にとって重要で、頭を空っぽにしたいときに行くようにしています。

──心が折れたときはどうしていますか?

折れたことはないのですが、苦しい状況が続いたときは一旦頭を空っぽに。無駄なものがそぎ落とされて、大切なことが見えてくるような気がします。

結論を急がず、頭を空にしてもう一度考えてみると、結論が出てくることも多いです。

──尊敬する人、憧れる人、好きなアスリートなどは?

映画の世界になるのですが、ウィル・スミス主演の『幸せのちから』にでてくるクリス・ガードナー(ウィル・スミス)が理想の人物です。

全財産21ドルから立ち上がった父と子の実話で、彼のセリフに「夢があるならそれを守り通すことだ」という言葉があるのですが、いい言葉ですよね。

──食生活で気をつけていること、好物は?

幼少期にタイに住んでいたからか、タイ料理が好きです。好物というより、タイ料理の匂いになんだか落ち着く感じかもしれません。

気をつけていることは暴飲暴食をしないこと。

──運動習慣はありますか?

毎晩、寝る前のストレッチと気が向いたときに軽くジョギングするくらいです。体を動かすのも頭が空っぽになるんですよね。

──これだけはやらないと決めていることは?

他人から聞いた情報を鵜吞みにしない。自分の足で確かめ、自分の頭で考えます。

何かの判断を誤ったときに、他人のせいにするのではなく、自分で責任を取るためにも、そのことは大事にしています。

──ビジネスパーソンにおすすめの一冊は?

池波正太郎さんの『男の作法』(新潮社)です。

本書の中で、「若いうちに死を意識しろ、それによって覚悟が決まる」というようなことをおっしゃっています。命には限りがあるので、短い人生のなかで何をしなければならないか、それを意識したときに大切なことが見えてくる、そういうことを教えてくれた一冊です。

──座右の銘は?

強烈な一念を持った人は、絶対に負けない」という言葉です。

これは浪人時代に予備校の先生から教えられた言葉。

私は1回目の大学受験の時に、自分なりにすごく勉強したと思ったのですが志望校には受かりませんでした。そんな時に出会ったこの言葉は「最後は気持ちが強い者が勝つ。自分を信じて勝利を目指す、その強い気持ちが理想に導いてくれる」と、もう一度、自分を信じさせてくれ、2回目の挑戦で無事志望校に合格することができました。

梶田伸吾(かじた しんご)

株式会社comvey代表取締役。大学卒業後、2016年に伊藤忠商事株式会社に入社。物流ビジネス部に配属後、ロジスティクス関連の子会社に出向。約6年間、物流分野の営業やオペレーション、新規事業企画などの経験を積んだ後、2022年6月に「美しい物流をつくる」をミッションとした株式会社comveyを設立。

Photo: 伊藤圭/Source: comvey